恋バナの結末と沈む二人
⚪︎矢木剛斗視点
「じゃあ次は涼やな」
「まだやるんですか? もういいじゃないですか」
和気あいあいとした口論の二人をよそに、琴さんがデスクの資料から顔を上げ、面白がるように涼さんへ水を向ける。
「抜け駆けは許さん」
「抜け駆けはダメ」
当事者同士の口論の最中でも、十一さんと鈴々莉さんがピタリと息を合わせて突っ込んだ。息ぴったりじゃねーか。
「はぁ……私の理想を聞いても面白くないと思いますがね」
涼さんは頭痛でも堪こらえるように、こめかみを押さえながら深くため息をついた。
「月並みになりますが、優しい人がいいですね。一緒にいてホッとするような」
「涼さんらしいですね」
少しだけ頬を朱に染めながら言う涼さんに、鳥居が柔らかい笑顔で頷く。確かに、普段から細やかな気配りを絶やさない涼さんには、いかにも似合いそうな理想だった。
「あかんあかん、それじゃダメやわ」
しかし、琴さんが愉快そうに笑いながら、パッパッと手を振ってそれを否定する。
「……それはどういうことですか?」
涼さんが珍しくちょっとムッとしたように、細い目をさらに細めて聞き返す。
「涼は根が真面目やからな。そういう優しい人相手やとお互いに気を使い過ぎて、どっちも気を病んで疲弊するやろ」
琴さんの言葉に、涼さんはハッと思い当たる節があったのか、すっと口をつぐんで言い淀んだ。
「しかも涼は家事も完璧やろ。そういうちゃんとした子にとって、プレッシャーがかかりすぎるんちゃう?」
その容赦ない指摘は、見事に涼さんの急所へとクリティカルヒットしたようだ。
「へぇ、涼さんて家事とか万能なのか?」
「正直に言って、うちの女性陣を含めても一番女子力が高いよ」
俺の疑問に、鳥居がさらっと事実を告げる。
「そうなのか? 正直、映子さんとか鳥居の方が女子力高そうなイメージだけど」
「それは……まあ、ねぇ……」
俺の無邪気な言葉に、鳥居は気まずそうに目を泳がせて言葉を濁した。
「……じゃあ、次は琴さんですね」
形勢逆転とばかりに、涼さんがすかさず反撃の矛先を変える。
「私はやっぱノリのいい人やな!! 一緒にいて心から楽しい人がいいわ」
「琴さんらしいですね、それ」
俺が頷くと、予想通りの明るい答えが返ってきた。
「そうでしょうか?」
「どういうことや、涼?」
涼さんが待ったをかけ、琴さんが少しイラッとした様子で眉を吊り上げる。
「琴さん、ノリはいいけど根っこはすごく真面目なところがあるじゃないですか。だから、あまりにノリが良すぎる相手だと、逆についていけなくなって気疲れしそうというか」
琴さんがギクリと身を固くし、同じく思い当たるフシがある表情に変わる。
「それに、ノリのいい人同士のカップルだと、結局は琴さんの方が生真面目に聞き役に回っちゃいそうなイメージありますけど」
涼さんの冷静すぎる分析が、見事に琴さんの急所を撃ち抜いた。
「……なあ、涼」
「なんですか、琴さん」
「この恋バナの話、もうやめとこうか」
「……そうですね」
二人は揃って深い溜息をつき、同時にデスクの向こう側へとどんより沈み込んでいくのだった。




