理想のタイプと噛み合わない二人
矢木剛斗視点
「あーもうっ、家業とか暗い話題はナシナシ! 普通に恋バナとかしようよ!」
鈴々莉さんがパパッと手を振って、強引に話題を切り替えた。
「じゃあ、まずは理想のタイプについて! はい、十一!」
鈴々莉さんはビシッと人差し指で十一さんを指差す。
「なぜそんなことを言わねばならんのだ……」
十一さんは深々と溜め息をついた。だが、ここで素直に答えなければ鈴々莉さんが延々と絡み続け、仕事に戻らないと察したのだろう。半ば諦めたように肩を落とした。
「……はぁ、俺の理想は高いぞ」
「へぇ、意外ですね。あんまりそういうのに拘らなさそうなのに」
俺が思わず呟くと、十一さんは気を取り直したように言葉を続ける。
「退魔士という稼業に理解があるのは当然として、文章を練ったりする『一人の時間』を尊重してくれる人。あとは、スマートフォンやパソコンを俺が使わないことを許容してくれる人だな。それから……」
顎に手を当て、真剣に考え込む十一さん。
「要するに良妻賢母タイプでしょ?」
「家に帰ったら、三つ指ついて『お帰りなさいませ』って言ってくれるような人とかですか?」
俺と鳥居が口々に予想を口にすると、十一さんは心外だと言わんばかりに顔をしかめた。
「お前たちは俺を何だと思っているんだ。逆だ、逆」
心底呆れたように吐き捨て、十一さんは言い切る。
「どちらかと言えば、お互いに言いたいことを言い合える関係の方が好ましい。俺も言いたいことは言うし、もちろん相手もそれでいい。互いを高め合える関係が理想だな」
ビシッと言い切った直後、十一さんはハッと自分に引き戻されたように、わずかに頬を赤らめて照れくさそうに視線を逸らした。
「あはは! 十一、女の人を分かってなさすぎ! そんな都合のいい人いるわけないじゃん!」
すかさず鈴々莉さんが爆笑する。
「くっ……俺は言ったぞ。ならお前はどうなんだ」
「私も理想は高いよー! まずは、私の絵の仕事や表現活動をちゃんと認めてくれる人!」
「まあ、そこは譲れんよなぁ」
琴さんをはじめ、みんなが納得顔で頷いた。
「鈴々莉さんの性格なら、いつも一緒にいて楽しい人とかが好きなんですか?」
「うーん、それも何か違うんだよね。私、絵を描いたり構想を練ったりする時は一人になりたいから、その時間はちゃんと欲しいかなぁ」
「そうなんですか。あとは……優しい人とかですか?」
鳥居の問いかけにも、鈴々莉さんは少し首を捻る。
「もちろん性格が悪い人は無理だけど、あんまり気を使われすぎても嫌なんだよね。思ってることはハッキリ言ってもらった方がスッキリするし。私自身もハッキリ言うタイプだしさ」
自身の恋愛観をあっけらかんと言い切る鈴々莉さん。
「……そんな都合のいい男がいるはずなかろう」
十一さんが呆れたように肩をすくめ、そこからいつものように二人の口喧嘩が始まってしまった。
「あの……琴さん。俺、恋愛のことってよく分からないんですけど」
口論を続ける二人を横目に、俺は琴さんにそっと耳打ちした。
「あの二人、なんで付き合ってないんですか?」
「……わからん。まさに幽玄堂の七不思議の一つやな」
顔を見合わせ、俺と琴さんは同時に首をかしげるのだった。




