新しい日常と幽玄堂の恋愛事情
⚪︎ジョー視点
廃病院でのあの激闘から、早くも一週間が経過した。
傷だらけだったメンバーたちの身体もすっかり癒え、幽玄堂にはいつもの穏やかな日常が戻ってきている。いや、矢木という新しいアルバイトを正式に迎えた、新しい日常と言うべきか。
あの苦労の甲斐あって、廃病院を特集したうちの雑誌は近日発売の予定だ。苦労した分だけ内容はまさに迫真。特に、件の廃病院で亡くなった院長が霊となって活躍する人情物の小説と、それに添えられた挿絵がかなり良い出来栄えに仕上がっている。
今日は編集部でその記事の最終チェックを行っている最中だ。
「ああ、もうっ!!」
突然、事務所の扉が勢いよく開き、小夜が苛立ちを隠そうともせずに踏み込んできた。
「どうしたんや小夜ちゃん、珍しいな」
内勤作業をしていた琴が、驚いたように目を丸くして尋ねる。日頃から感情を表に出すことが少ない小夜が、ここまであからさまに怒りを露わにしているのは確かに珍しい。
「学校からここに来るまでに家に寄ったら、またお見合いの話ですよ!! 私、まだ高三ですよ!?」
小夜は吐き捨てるように言うと、収まりのつかない苛立ちを込めて鞄を机の上にドカッと置いた。
「それ分かる!! うちも家でよく言われる!!」
机で空想に耽りながら筆を振っていた鈴々莉が、その言葉に激しく同意した。ガタッと椅子を鳴らし、食いつくように身を乗り出してくる。
「ふーん、名家のお嬢様がたも大変なんだな」
俺が咥え煙草のまま気楽に声をかけると、隣でPCを叩いていた映子が頬杖をつき、二人に同情の眼差しを向けた。
「小夜家も、雪墨家も名門中の名門だものねぇ。うちの家もそこそこ名門ではあるけれど、私自体の霊力は低いからそんなに期待されてないし、弟もいるから気楽なものよ」
古くから続く退魔士の家系というのは、同じ家業の者同士で婚姻を結ぶことが多い。優れた霊力の血筋を途絶えさせず、より強く残すためだ。
「うちも私だけが特別霊力高いから妖怪退治やっとるけど、本来はそこまで霊力いらん家柄やからな。そこら辺はフリーやで」
「いいなー……」
「ズルいー……」
ケロッと言ってのける琴に対し、小夜と鈴々莉が声を揃えて恨めしそうな視線を送る。
「ま、まあ……年頃の女の子なんやし、恋愛くらいは自由にやりたいわな」
二人の圧倒的な圧力を正面から受け止め、琴はタジタジになりながら冷や汗を拭うのだった。




