奇妙で賑やかな日々の始まり
⚪︎矢木剛斗視点
正式に採用が決まり、俺は思わず小さくガッツポーズをした。
「ねぇ、矢木くん。実家の家業って何やってるの? 本当に退魔師とかそういう関係ではないの?」
「ほんまやな。体質言うても、ただの偶然とは思われへんで」
鳥居と琴さんが首をかしげる。
「ですが、もし怪異関係の家系なら、私たち七人全員が誰も知らないというのは考えにくいですね」
「狭い業界だしねぇ。私たちもみんなそれぞれバラバラの流派だし」
涼さんと映子さんも不思議そうに尋ねてくる。
「俺んち、石屋なんですよ」
「石屋? 石屋って……あのお墓とかを作る?」
鈴々莉さんの問いに、俺は頷いた。
「『矢木石材店』っていう小さな会社なんですけど。昔から親父の手伝いで墓地に行ったり、お地蔵様を作る作業を手伝ったりしてたんですよね。もしかしたら、その影響かもしれません」
「なるほどな。九十九神や信仰の観点から言っても、十分あり得る話だ。盲点だったな」
「研究してみる価値は十分にありそうだな」
十一さんとジョーさんも納得したように頷く。俺自身、幼い頃からお墓や仏像に囲まれて育ってきたからオカルトへの抵抗感が薄く、だからこそこの求人にも思い切って応募したという経緯があったのだ。
「じゃあさ! 折角だし矢木っちのその能力に名前をつけない? うち、すごく良い案があるんだけど!」
鈴々莉さんがパンと手を叩いて突然提案してきた。
「妖怪の注目を一身に集めて引き受ける役目か。俺にも一つ浮かんでるぞ」
「私も思い浮かんだんですが……ちょっと縁起が悪いかもしれませんね」
「まあ、答えは一つしかないな」
「矢木くんだしねぇ」
「名前もまんまやしな」
「やっぱり、みなさんそう思います?」
どんなカッコいい名前が出てくるんだろうと、胸がドキドキと鳴る。少年漫画に出てくるような響きの技名だったら嬉しいな。
「じゃあ、せーので言ってみようよ! せーの――」
『スケープゴート!!』
見事に全員の声が重なった。
「あの……それって、あんまり良い意味の言葉じゃない気がするんですけど……」
「確か、人々の罪や災いを『ヤギ(山羊)』に背負わせて荒野に放つ……っていう伝承が由来だったっけかな」
「俺、生贄っすか!?」
――こうして、俺の「幽玄堂出版社」での奇妙で賑やかな日常が、幕を開けたのだった。




