不器用たちのエピローグ
⚪︎鳥居小夜視点
うー……恥ずかしい、泣いてしまった。人前で涙を見せるなんて、一体どれくらいぶりだろう。でも……でも、本当に心配したんだから。
『ワンナイト』の本当の意味を聞かされた時は、恥ずかしさのあまり思わず矢木くんに平手打ちを食らわせてしまった。けれど、こればっかりは流石に自業自得、当然の報いだと思う。
「いやー、今回のMVPはどう考えても矢木だな!」
ジョーさんが呑気な声を上げてパチパチと拍手する。思わずじとーっと睨みつけたけれど、当のジョーさんは知らん顔で気がつかないふりを決め込んでいる。
そもそも元を正せば、ジョーさんが採用時に矢木くんの特殊な能力や適性をろくに確認もしなかったから起きた事故なのだ。……まあ、確認しなかったからこそ彼を採用することになり、結果として全員の命が助かったわけだけれど。
(うーん、結果オーライ……なのかな?)
……そんなわけあるか!
それはそれ、これはこれだ。事務所に帰ったら絶対にたっぷり説教してやる。
「けど本当に矢木っち、すごかったよー! どうしてあの呪いの中を普通に歩けたの?」
「いやあ、俺も何が何だかサッパリで……」
頭から全身墨だらけになった鈴々莉さんが、目を輝かせて矢木くんを褒めちぎる。自慢の綺麗な金髪も、今は見る影もなく真っ黒だ。
鈴々莉さんにストレートに褒められ、矢木くんがどこか照れくさそうに頭を掻きながら答えている。……その仲良さしげな光景を見ていたら、なぜか胸の奥が少しだけモヤッとした。あれ? なんだろう、この変な感じ……。
自分の妙な感情に首を傾げつつ横をふと見ると、十一さんがどこか呆けたような、珍しい表情で佇んでいた。いつも冷静沈着なあの十一さんがぼんやりしているなんて、珍しい。さすがに限界まで疲れたのかな。
「十一さん、大丈夫ですか?」
「あ……あ、ああ、大丈夫だ」
声をかけると、十一さんはハッと意識を取り戻したように返事をした。
「うー、早くお風呂に入って髪洗いたい……」
鈴々莉さんが自分の真っ黒になった髪を手にとって溜め息をつく。その時、彼女と十一さんの視線がバッチリと噛み合った。
「何だよ十一! この格好に文句でもあんのかよ! 笑いたければ笑えばいいだろ、ちくしょー!」
「いや、そういうわけでは……」
ヤケクソ気味に噛みつく鈴々莉さんに、十一さんは珍しくしどろもどろになっている。本当にどうしたんだろう。
隣を見ると、琴さんが何かに気づいたようにニヨニヨと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ははーん……十一さん、鈴々莉が『黒髪美人』になった姿がまさかのタイプなんやろ?」
「そ、そんなわけあるか!」
図星を突かれたかのように声を荒らげ、十一さんはプイッとあからさまに視線を逸らしてしまった。
「え、うそ、まさか図星!?」
冷やかし半分で言ったはずの琴さん自身が、一番びっくりして目を丸くしている。
「十一さんも、なんやかんや人の子やったんやな……」
「断じて違う!!」
しみじみと感心する琴さんに、十一さんは必死の形相で強く否定した。
「そうだよ琴さん、十一がこんな姿褒めるわけないじゃん。きっと見て心の中で大爆笑してるんだよ」
当事者の鈴々莉さんはといえば、まったく気づく様子もなく、あっけらかんと笑って手を振りながら否定している。
「はぁ……あんたら、もうちょっと素直になりや」
二人のあまりの噛み合わなさっぷりに、琴さんは深々と溜め息をつくのだった。




