校閲、資料担当 鳥居小夜
「それにしても、鳥居がバイトなんてしてるのは意外だったな」
応接室を出て、薄暗い廊下を二人で並んで歩きながら俺は話しかけた。
隣を歩く鳥居小夜は、クラスでも一際目を引く存在だ。綺麗な黒髪を後ろで一つにまとめ、涼しげで端正な顔立ちをしている。学校の制服を着こなす姿は凛としていて、いかにも「クラス委員長の優等生」というオーラを漂わせている。そんな彼女がこんな怪しげな出版社で働いているなんて、誰が想像できただろうか。
「私の実家、神社なんだ。だから小さい頃からそういうオカルトとか民俗学の知識には詳しいの」
「へえ、そうなの? 確かに『鳥居』って、いかにも神社っぽい苗字だもんな」
「その縁と伝手があってね。私はここで、原稿の校閲とか資料の整理を担当してるわけ」
そう語る鳥居は、少しだけ胸を張って誇らしげな笑みを浮かべた。普段の学校で見せるお堅い表情とは違って、どこか年相応の可愛らしさがある。
「それにしても、矢木くんの方こそ本当に驚いたよ。どうしてここに?」
「街角のポスターでアルバイトの募集を見かけてさ。体力仕事っぽかったから応募したんだよ。……まあ、流石に電話して即面接、即採用になるとまでは思わなかったけどな」
「あはは、ジョーさんって本当にいい加減だから……」
鳥居はあきれたように苦笑いを浮かべた。
「そういえば、あのジョーさんってのが本名なのか?」
「えっ……そこすら名乗ってなかったの!?」
鳥居は目を見開いて驚愕し、本日何度目かわからない盛大なため息をついた。
「本名は『錠=クロイツ』。ドイツ人の父親と、日本人の母親を持つハーフだよ。普段はみんな『ジョーさん』って呼んでるけどね」
「へえ、やっぱハーフだったんだ。道理で彫りが深くてイケメンなわけだ」
たわいもない会話を交わしながら歩く。学校での鳥居は真面目で成績優秀な雲の上の存在で、野球バカの俺とは住む世界が違うと勝手に思っていた。とっつきにくい奴なのかと思っていたが、案外フランクで話しやすい。
「ねえ、矢木くんは何か特技とかあるの?」
「俺の特技? んー……『ど根性』だな! 土壇場になれば、結局はそこに行き着くだろ」
胸を叩いて胸を張ると、鳥居は可笑しそうに笑った。
「ふふっ、なるほどね。体育会系の矢木くんらしいや。雑用も多くて大変だと思うけど、頼りにさせてもらうよ」
「おう、任せとけ!」
顔を見合わせて、俺たちは自然と声を合わせて笑い合ったのだった。




