黒い雷と縛鎖の呪い
⚪︎鳥居小夜視点
「琴さん! どれくらい持ちそうですか!?」
「正直、かなり厳しいわ! 小夜ちゃんと違って常時浮いてられるわけやないからな!」
琴さんは壁やボイラー室の備品に飛び移り、足を地につけないよう必死に身を躍らせている。だが、まともな足場がない状態では満足な攻撃を打てない。それは空中を泳ぐ私も同様だった。クーちゃんの翼や棍で上空から攻撃を仕掛けるものの、足場がないため威力が乗らない。
その時、雷喰いの巨大な腕が激しい音を立てて振り下ろされた。十一さんが咄嗟に槍の柄で受け止めるが、その顔は苦痛に歪み、吐き出す息も荒い。
「鳥居、宮板! 一旦逃げて戦況を立て直せ! ここは俺が食い止める!」
「そんなことできるかいな! 鈴々莉に恨まれるわ!」
「そうです! 何とかみんなで戦況を打開しましょう!」
十一さんの叫びに、私と琴さんは同時に拒否の声を上げた。けれど、そう叫んだところで一撃で事態を覆せるような良案が浮かぶわけもない。
容赦なく振り下ろされる雷喰いの猛攻が、十一さんを追い詰めていく。その瞬間だった。
先ほどヒビを入れた雷喰いの腕の骨が、圧力に耐えかねて豪快に砕け散った。その破片が凶器となって吹き飛び、運悪く上空のクーちゃんに直撃する。バランスを崩した私は、そのまま地表へ墜落してしまった。
「っ……!」
背中に鈍い痛みが走り、呼吸が詰まる。それ以上に恐ろしいのは、地に触れた瞬間から身体を縛り上げる影の存在だった。どろりとした闇がまといつき、指一本すら動かせない。
見上げれば、雷喰いが再びその口内に強烈な放電を滾らせていた。今度は黒い呪い混じりではない、純粋な殺意を秘めた雷撃の準備だ。
巨大な顎が傾き、その死の視線がはっきりと私を捕らえる。
「小夜ちゃん! ?こいつ……!」
上空から琴さんが必死の攻撃を打ち込んでくれるが、雷喰いは私から視線を逸らそうとしない。
(……ああ、ここまでなのかな)
諦めとともに、私はそっと目を閉じた。
思えば、私の人生は幼い頃からずっと退魔と妖魔退治に捧げられてきた。八木くんじゃないけれど……私も一度くらい、普通の女の子みたいに青春というものを味わってみたかったな。
「鳥居ーーっ!!」
覚悟を決めたその瞬間、耳を割るような叫び声が響いた。
目を開けると、墨で描かれた黒い矢印に飛び乗った八木くんが、猛スピードでこちらへ滑空してくるところだった。
彼は迷いなく私と雷喰いの間に割り込むと、私を庇うようにして直撃の雷光をその身に受け――弾丸のような勢いで吹き飛んでいった。




