焦燥と閃光
⚪︎司涼視点
ジョーさんや鈴々莉さんの苛烈な攻撃を起点にして、小夜さん、琴さん、そして十一さんが一斉に前線へと突っ込んでいく。私は重厚な扉の影に身を隠しながら、操り糸のように展開した骸骨を滑らせ、前衛で刃を交える三人へ滑らかな後方支援を届けていた。もちろん、後方に控える矢木くんの護衛も決して怠ってはいない。入り組んだボイラー室の廊下から、いつ新手の怪異が飛び出してこないとも限らないからだ。
「俺は大丈夫なんで、涼さんは前に行ってください!」
必死に叫ぶ矢木くんの声には、隠しきれない焦燥が滲んでいた。たぶん、この子は根が真面目で正義感が強いのだろう。普通の高校生なら、眼前に広がる圧倒的な超常の脅威に腰を抜かしておかしくない場面だ。にもかかわらず、彼は十一さんから借り受けた雷の剣を固く握りしめ、自分も戦力になろうと前を向いている。
「いざとなれば、自分で自分を守りますから!」
「馬鹿言っちゃいけませんよ」
私はあえて冷ややかに、突き放すようなトーンで言葉を返した。
「私たちは長年訓練を重ねてきましたし、怪異に対する膨大な知識の積み重ねもあります。君にはそのどちらもない。一時の度胸だけでどうにかなる現場だとでも?」
矢木くんはぐっと言葉を詰まらせ、悔しそうに押し黙った。横にいた映子さんも小さく頷き、私の意図を汲んでフォローを入れてくれる。これくらい厳しく言っておかないと、この猪突猛進な少年は自ら危険に飛び込みかねない。
……とはいえ、純粋な善意と好意から出た言葉に対して冷徹な正論で返すのは、私としても少し良心が咎めるものだが。
「えっ……!?」
その時、自機カメラのモニターを操作していた映子さんの声が上ずり、指先が凍りついた。彼女の画面に表示された霊力測定メーターの数値が、尋常ではない速度で跳ね上がっている。
遠く前線から、小夜さんが私たちの名前を切迫した様子で叫ぶ声が聞こえた。長年の戦闘勘から、私は条件反射的に操っていた骸骨の位置を動かし、高濃度の霊気が集中した地点と自分たちの間の直線上に盾として滑り込ませた。
——だが、結果から言えば、この判断は致命的な余計だった。
直後、空気を一瞬で灼き切るような凄まじい爆撃音が響き渡る。本能が鳴らす烈しい警報に従い、私は即座に矢木くんと映子さんの襟首を掴むと、全力で横の床へと身を躍らせた。
レーザーのように解き放たれた高圧の光線は、一瞬にして盾にした骸骨を塵一つ残さず焼き尽くし、そのまま私たちがつい先ほどまで立っていた頑丈な壁を易々と貫通していった。
もつれ合うようにして地面を転がる矢木くんと映子さん。あまりにも間一髪の回避だったため、熱線の余波が私の右膝をかすめていた。まるで強力な電流が駆け抜けたかのような激痛が走り、肉の焦げる匂いと激しい痺れが足を支配する。
「涼くん!! 涼くんが怪我しました!」
跳ね起きた映子さんが青ざめた顔で駆け寄り、前衛の仲間たちへ向けて必死に声を張り上げた。そのボサボサの髪には、破砕された壁の破片や粉塵が白く付着している。
「涼さん!!」
「いやはや……格好がつきませんね」
激痛に耐えながら額に油汗を浮かべ、自嘲気味に呟く。長年訓練してきたなどと大見得を切った直後にこの不面目なざまだ。
すると突然、視界が浮き上がった。矢木くんが傷ついた私を当然のように「お姫様抱っこ」の体勢で抱え上げたのだ。細身とは言え私だって成人男子なんですが。一瞬、横にいた映子さんのメガネの奥の目が妙な光を放って輝いた気がしたが、彼女はすぐさまぶんぶんと首を横に振って妄想を振り払った。
「またあの攻撃が来るかもしれません! 一旦、安全な場所へ下がりましょう!」
「……すみませんが、お願いできますか?」
大人の面目も丸潰れだが、背に腹は代えられない。私はおとなしく高校生の腕に収まりながら、危険なボイラー室から一時撤退すべく運ばれていくのだった。




