水槍の祝詞
⚪︎鳥居小夜視点
私は映子さんのディスプレイに映し出された景色を覗き込む。そこに映っていたのは、激しい炎を纏った巨大な車輪だった。今で言えばお祭りの山車に使われるような、古めかしい木製の車輪。激しい火に包まれているというのに燃え尽きる様子はなく、しっかりと原形を留めている。そして車輪の中央には、ざんばら髪に無精髭を蓄えた男の顔が浮かんでいた。
「これは……輪入道ですね」
私の言葉に、隣にいた矢木くんが声を上げる。
「輪入道って、妖怪のアニメなんかで子供の頃に見たことがあるぞ」
「うん、その認識で合っていると思うよ」
私は矢木くんに頷く。怪異を前にしても落ち着いている矢木くんを見て、この状況にすっかり馴染んでいるなと感心してしまう。本当に度胸が据わっている。
「小夜ちゃんは妖怪博士なんだよ!」
すずりさんが胸を張って矢木くんに言った。なんだか恥ずかしくて、私は慌てて手を振る。
「は、博士だなんて言い方はやめてくださいよ。ただ、子供の頃から家にあった妖怪の書物で勉強させられていただけですから」
「妖怪博士はすげぇな。子供の頃、クラスで人気があっただろ? 俺の友達にも昆虫博士って呼ばれてるやつがいたし」
「そ、そんなわけないじゃない。下手に知識をひけらかしたら、みんなを怖がらせちゃうよ」
「それもそうか」
納得してくれた矢木くんを見て、私は密かにホッと胸を撫で下ろす。
……昔、調子に乗って妖怪の知識を喋りまくり、おじいちゃんにこっぴどく叱られたことがあるなんて、絶対に内緒だ。
「輪入道ってのは分かったが、わざわざボイラーを動かす意味が分からんな」
ジョーさんが顎を撫でながらつぶやく。
「そうですね……ちょっと奥の方は映らないかな」
映子さんももどかしそうに画面を操作していた。
「何にせよ、退治することには変わりあるまい。そういった事情も念頭に置きつつ仕掛けるほかあるまいな」
十一さんは輪入道相手では分が悪いと判断したのか、手にしていた炎の剣を消した。あとに残ったのは、燃え尽きた半紙の炭かすだけだ。
「ジョー、聖水の瓶を貸せ」
「ほれ。缶コーヒー一本で手を打とう」
冗談めかして差し出された瓶を、十一さんは平然と受け取る。
『神水を宿す瓶よ、穿貫の蒼流と化せ』
さらさらと半紙に文章を書きつけ、それを瓶に貼り付ける。すると次の瞬間、半紙は透き通る水の槍へと変化を遂げた。全体的に青く、穂先は透明で、まるで内部を清流が流れ続けているかのように見える。
十一さんは軽く突いたり払ったりと動作を繰り出し、手元へとなじませていくのだった。




