扉の向こうとカメラの目
⚪︎日影映子視点
私達は扉の手前で立ち止まった。
私は持ち慣れた一眼レフカメラのジャックへ、霊力で編み上げた青白いコードを差し込む。瞬時に目の前へ浮かび上がる霊力のホログラムディスプレイと空中キーボード。カタカタと軽快にプログラムコードを打ち込み、カメラを『トリッキーコード』の支配下に置く。浮上させたカメラを扉の隙間から滑り込ませると、コード構築とは別のサブウィンドウへ、内部の映像がリアルタイムで映し出されていった。
「なるほど……。俺、映子さんがカメラマンって聞いたとき、ちょっと意外だったんですよ。でも、たしかにこの能力ならうってつけですね!」
背後から覗き込んでいた矢木くんが、感心したように声を漏らす。
「ふふ、まあね。取材カメラマンって言ったら、普通はもっとアクティブで活発な人がやるイメージだものね」
自嘲気味に苦笑いを浮かべると、矢木くんが顔を青くして慌て始めた。
「あ、いやっ! そういう悪い意味で言ったんじゃなくて……!」
「大丈夫よ。私のこの能力なら、自力じゃ入れない隙間や高い場所からでも、いろんな角度で安全に撮影できるから」
「あーあ、矢木くん。映子さんの触れてはならぬ『暗黙のタブー』に触れちゃったなぁ」
隣から琴ちゃんがニヤニヤしながら割り込んでくる。
「えっ……!? そ、そうなんですか!? すみませんっ!!」
矢木くんは青ざめた顔で、今にも床に土下座しそうな勢いで謝り倒そうとしてきた。
「こらこら、琴ちゃん。新人さんにそういう嘘を吹き込んじゃダメでしょ。……大丈夫よ矢木くん、そんなタブー聞いたこともないから。私だって初耳よ」
メガネの奥の目を細め、笑顔で琴ちゃんを嗜める。矢木くんは「良かった……」と胸を撫で下ろした。
「まあ、アクティブなカメラマンのイメージっていうなら、どちらかといえば琴ちゃんの方がぴったりよね」
「あはは、イメージだけなら正直私もそう思いますわ。ただ私、喋りが本業の取材記者なんで!」
顔を見合わせてくすくすと笑い合う。
「琴さん。後輩を面白半分で騙すような冗談は、ほどほどにしてくださいね?」
背後から涼くんの穏やかな声が響いた。振り返ると、顔は満面の笑みを浮かべているものの、その目は一切笑っていなかった。
「す、すいませんでした!! 矢木くんもほんま堪忍やで!!」
今度は琴ちゃんが顔をひきつらせ、慌てて頭を下げるのだった。




