チカチカ光る蛍光灯の奥
⚪︎日影映子視点
「ねぇ、何か暑くない?」
鈴々莉ちゃんが、大胆に服の胸元を手で掴んでパタパタと仰ぐ。鈴々莉ちゃんは私と違ってスタイル抜群の美人さんなんだから、男性の前でそんなにガードが緩いのはマズイと思う。
「す、鈴々莉さん! 男の人もいるんですから駄目ですっ!」
慌てて小夜ちゃんが止めに入る。幽玄堂の年上男性陣は全然気にしていないみたいだし、矢木くんは目のやり場に困って必死で明後日の方向を見ている。……ふふ、いい子ね。
「でも、本当に暑いわね。いくら夏だからって、地下の廊下でこの温度の上昇はおかしいわ」
黒の厚手ローブに身を包む私にとって、この急激な蒸し暑さはかなり厳しい。ローブの中で汗がポタポタ滴り落ちる。
「……何かいるな、これは。気を引き締めるぞ」
ジョーさんも神父服の首元を少し緩める。そのふとした色気のある仕草に胸がドキッとする。……ダメダメ、今は作戦中なんだから集中しないと!
その時、頭上の廊下の蛍光灯がチカチカと不気味に点滅し始めた。
「うわっ、びっくりした!!」
矢木くんが露骨に肩を跳ねさせて驚く。
「こ、これも心霊現象ですか!?」
私はすぐにカメラのレンズを向け、怪異波長用のフィルターを通して蛍光灯を映し出す。
「霊気の類は感知できませんね。怪異による直接的な怪光現象ではなさそうです」
「つー事は、実際に物理的な電気が通ってるって事か」
病院ほどの規模になれば、自家発電や非常用電源の設備がどこかに残っているはずだ。おそくだけど、この異常な室温の上昇とも照らし合わせると……。
「……たぶん、ボイラー室でしょうか?」
「ああ、おそらくそうだろうな。そして、火の怪異か何かが何らかの理由でそれを稼働させている」
私とジョーさんは互いに深く頷き合う。
「……たぶん、あれじゃね?」
鈴々莉ちゃんが筆の先で廊下の奥を指さした。その表情はいつもの冗談めかした彼女ではなく、鋭い退魔士としてのものに切り替わっていた。
重厚なドアの隙間から、橙色の光が漏れ出している。電気のような均一で人工的な灯りではない。時折あやしくゆらゆらと揺らめく、まるで意思を持った炎のような灯りだ。
熱気と怪異の気配が混ざり合う扉を前に、私もぐっと気を引き締めるのだった。




