一難去って
⚪︎矢木剛斗視点
「すげえな……」
俺の口からは、ただそれしか言葉が出なかった。正直、幽霊やら妖怪やらの類なんて端から信じていなかったし、今回の「取材」だって単なる気味の悪い廃墟探索くらいにしか思っていなかった。実家の稼業の関係でこういう気味の悪い場所には慣れているつもりだったが、目の前で繰り広げられた光景は、まるで漫画やゲームの世界そのものだった。
「矢木くん、大丈夫だった?」
骸骨の群れがほぼ全滅した頃、鳥居が俺に声をかけてきた。彼女の両肩には、さっき「クーちゃん」「ピーちゃん」と呼ばれていた二羽の鳥がちょこんととまっている。あんなド派手な大立ち回りを演じた後だというのに、彼女は何事もなかったかのように爽やかな笑顔を浮かべていた。
「あ、ああ……おかげさまでな」
正直、頭の中はまったく状況に追いついていなかったが、ひとまず身体は五体満足だ。
「矢木も無事だったようだな。流石は俺が見込んで採用しただけの男だ!」
ジョーさんが大袈裟に手を開きながら、俺の肩をポンと叩いて褒めてくる。だが、その態度が火に油を注ぐことになった。
「ジョーさん、何考えてるんですか!? 一般人の矢木くんを、能力の確認もしないでこんな危険な現場に連れてくるなんて!」
「まったく……いい加減な奴だとは思っていたが、ここまでとはな。心底あきれたぞ」
「これは後日、面接の立ち会いルールを見直す必要がありますね」
鳥居、十一さん、涼さんという『幽玄堂の常識人トリオ』から一斉に集中砲火を浴び、ジョーさんは目に見えてしどろもどろになり始めた。
「ち、違う! これには深〜い理由があってだな! 俺は矢木の秘められた……そう、隠された力を見込んでだな……!」
「俺の、隠された力……!?」
ジョーさんの言葉に、思わず胸がときめく。え、何それ、俺に実はとんでもない霊能力とか覚醒の兆しがあるってこと!? まんま漫画の主人公みたいで格好いいじゃないか!
……が、ジョーさんはそのまま口をつぐみ、気まずそうに泳ぐ目線を宙に彷徨わせている。
「言いながら必死で言い訳考えてるやろ、ジョーさん」
琴さんが呆れ顔でズバリとツッコミを入れた。
俺の胸のときめきは、一瞬で氷点下まで冷め渡った。
「でも、あの骸骨たちが一斉に矢木くんに向かっていったのは事実だし、気になるわね」
助け船を出したのは映子さんだった。
「カメラの解析データを見たけれど、骸骨たち狙うように操られた訳でも、矢木くん自体に直接ターゲット指定の呪いや印が刻まれているわけじゃなさそうなのよね」
「そう! そうなんだよ映子!! 俺はまさにそれが言いたかったんだ!」
「もう……映子さんはジョーさんに甘いんだから」
とってつけたように身を乗り出すジョーさんに、鳥居がジト目を向ける。だが、ジョーさんはすぐに表情を引き締め、真顔になった。
「……理由は定かではないが、矢木が怪異を引き寄せるターゲットになっているのは事実だ。ここまで来て一人で帰す方がかえって危険すぎる。矢木、このまま俺たちに同行してもらうぞ。いいな?」
「はいっ! 荷物持ちでもなんでもやります!」
ジョーさんの確認に、俺は威勢よく即答した。
「矢木っち、度胸すわってんねぇ。あんな化け物の群れ見た直後なのにさ」
鈴々莉さんが意外そうな顔で感心してくる。
「根性と度胸だけは俺の必殺技なんで!」
俺がおどけて腕組みをし、力こぶを作ってみせると、ドッと周囲から軽い笑いが起きた。さっきまで死線の渦中にいたとは思えない、どこかゆるい雰囲気が場に広がる。
「よし、骸骨どもを裏で操っている親玉が必ずこの廃病院の奥にいるはずだ。気を引き締めて行くぞ!」
ジョーさんが編集長らしくパンと手を叩き、その場の空気をキュッと締め直した。
「……誤魔化せたと思うなよ、ジョー。会社に帰ったらみっちり説教だ。いいな、鳥居」
「もちろんです。今日という今日は徹底的に言わせてもらいます!」
「ま、まあ待て二人とも。矢木も無事だったことだし、そこはまあ……ね?」
「……説教役、司(涼)に代わってもらってもいいんだぞ?」
十一さんがボソリと呟いた瞬間、ジョーさんの顔から血の気が引いた。
「……大変申し訳ございませんでした」
即座に深々と頭を下げるジョーさんの姿に、再びドッと大きな笑い声が響き渡るのだった。
矢木くんの一枚絵も載せてみました〜




