営業担当はネクロマンサー
⚪︎司涼視点
私の名前は司涼と申します。
株式会社『幽玄堂出版社』の営業を担当しております。
以後お見知り置きを。
私も以前は退魔士一本でやってまいりました。しかし、収入がなかなか安定せず不安定な日々が続いておりまして……。何か副業を、と考えていたところ幽玄堂の求人を見つけ、これ幸いと応募して今に至ります。
本当は事務方の仕事を希望していたのですが……退魔の世界に生きる方々というのは、この世ならざるものと対峙してきたせいか、非常に精神力が強いというか、個性が強烈というか……。
結果として消去法で私が営業を務めることになりました。
ただ、幽玄堂は非常に居心地が良い職場です。私の扱う術に嫌悪感を示す方は少なくありません。ですが、幽玄堂の皆さんだけはごく当たり前のこととして受け入れてくれた。
実にありがたいことです。
元来温厚な性格の私ですが、この会社のためならいくらでも尽力したいと思っております。
……温厚なタイプと申し上げましたが、仲間や居場所に危害を加える不輩だけは容赦いたしません。
絶対に、ね。
「矢木くん、その壁の後ろに隠れていてください」
映子さんの咄嗟の判断は見事でした。矢木くんのバッグを引いて壁際へ逃がしたのを見逃さず、私はすぐさま骨を召喚して強固な防壁を構築しました。応急処置ではありますが、目の前の骸骨どもに破れるほどヤワな壁ではありません。
私は群がる骸骨の集団へ静かに意識を集中させ、呪文を紡ぐ。我が家は日本でも非常に珍しい『ネクロマンサー(死霊術師)』の家系です。小夜さんのような神道系や、映子さんのような魔術系は散見されますが、ネクロマンサーの血筋となると己の家系以外では見たことがありません。
やがて、私の視線の先にいた骸骨たちの動きがピタリと止まりました。
「いい子ですね。……あなた方は、あちらの骸骨たちを攻撃してください。ご自身が砕かれようとも、決して手を止めずに」
次の瞬間、私が支配下に置いた骸骨たちが一斉に向きを変え、仲間の骨どもへ襲いかかりました。壮絶な同士討ちの始まりです。死者を冒涜するように操るこの術は、時に強い倫理的な嫌悪を抱かれます。
「すげー……! 骸骨同士が殺し合い始めた……!?」
物陰から矢木くんが感嘆の声を漏らしました。……この少年はどちらでしょう。私の術に引き出すのは驚きか、それとも拒絶でしょうか。
「涼さん凄いです! その格好も伊達じゃないんですね!」
「あ、ありがとうございます。……ただ、格好についてはあまり深く触れないでいただけると助かります」
少し照れくささに頬を緩めながらお礼を言いました。どうやら彼には嫌悪感の欠片もないようです。嫌われ慣れているとはいえ、やはり拒絶されれば凹みますから……胸を撫で下ろしました。
「けど、流石は廃病院ですね。こんなに骨が落ちてるなんて……」
「いえ、これらは外部から召喚されたものですね。操る際にも相応の抵抗感がありましたから」
「そうなんだ……じゃあ、どこかにこれを操ってる『親玉』がいるってことですか?」
「そうなりますね。病院とはいえ、これほどの人間(あるいは人型)の骨が野ざらしにされていたら、それはもうオカルトではなく大事件になってしまいますから」
苦笑いを浮かべて返答します。やはり一般の方だとそういう発想になるのも無理はありません。
そうこうしているうちに映子さんの囮が作動し、混乱した敵群を、私が操る骸骨たちが一方的に蹂躙していくのでした。




