巫女の相棒と、言えない秘密
⚪︎鳥居小夜視点
私の名前は鳥居小夜。
鳥居神社の巫女だ。
我が家は代々、妖魔退治を生業にしている。
古くは平安時代にまで遡る由由しき家系だ。
私も鳥居神社の跡取りとして、妖魔を倒すことを当然だと思って生きてきた。
……ジョーさんに会うまでは。
以前、現場でご一緒した際にエンドライトの技術を見せてもらった。
幽霊や妖魔を力任せに退治するのではなく、願いを聞き届け成仏させるという。
その話に目から鱗が落ち、深く感銘を受けた私は、こうして行動を共にするようになったのだ。
ジョーさんが、ここまでいい加減な人だったのは想定外だったけれど。
私は下から跳ね上げるように骸骨の顎を棍でかち上げる。そのまま空中で回転し、隣の骸骨の頭を薙ぎ払った。矢木くんを背に庇う形で、押し寄せる骸骨たちの前に立ち塞がる。
「矢木くん、大丈夫!?」
「なんとか……」
声にまったく力がない。事前知識もないまま突然こんな怪異の渦中に放り込まれれば、無理もない。私も初めて退治の現場に連れて行かれた時はそうだった。……幼稚園児の時だったけれど。
頭を飛ばされた骸骨が、転がった頭骨を拾い上げて首にカチリと装着し、再び戦線に復帰する。体の一部が欠けた者も、倒れた仲間のパーツを強引に取り付けて立ち上がってくる。
「キリがないわね。……よしっ!」
私は指笛を鋭く吹いた。すると闇の中から二羽の鳥が現れ、私の左右の肩に止まった。
右肩にとまったのは八咫烏。日本神話にも登場する三本足のカラスだ。主に攻撃を担当し、刃のような羽を飛ばしたり、私と連携して敵を切り裂いたりする。
左肩にとまったのは、黄金色にピカピカと輝く金鵄。こちらは防御担当だ。光で敵の目を眩ませたり、防御障壁を張ったり、傷を癒やす力を持つ。
本来の金鵄にそんな力はなかったらしいが、我が家で長い年月をかけて祀られるうちに特別な力を宿すに至ったという。
二羽とも我が家に代々伝わる式神であり、大切な私の相棒だ。
「鳥居……!? その鳥は!?」
「矢木くん、見えてるの!?」
尋ねてくる矢木くんに、逆に私の方が驚いてしまった。そういえば、能力者にしか読めないポスターが読めたと言っていたっけ。一番悪いのは説明を怠ったジョーさんだけれど、私もてっきり同業者(能力者)だと思い込んで疑っていなかった。
だけど、見えているということは……まずい!!
「八咫烏は敵を羽で攻撃!! 金鵄は障壁で矢木くんを守って!!」
——シーン。
威勢よく命じたものの、二羽ともまったく反応を示さない。チラリと矢木くんを見ると、彼もまた不思議そうにこちらを凝視している。
「八咫烏!! 金鵄!! お願い、動いて!!」
「鳥居!! なんか二羽ともすごく困惑してるぞ!!」
二羽は首をかしげ、困惑した様子で私の顔をじっと見つめている。頭の上に大きなハテナマークが浮かんでいるかのようだ。そうしている間にも、骸骨の群れは刻一刻と迫ってくる。
私はもう一度矢木くんを見た。彼は心配そうにこちらを伺っている。
……同級生の前では絶対に呼びたくなかったのに!
「『クーちゃん』は羽で攻撃!! 『ピーちゃん』は障壁で矢木くんを守って!!」
その掛け声がかかった瞬間、二羽は嬉しそうに甲高く鳴き、パッと羽ばたいた。
八咫烏のクーちゃんが鋭い羽を弾丸のように飛ばして骸骨を牽制し、金鵄のピーちゃんが眩い光の障壁を広げて矢木くんを優しく包み込んでいく。
「クーちゃんにピーちゃんって、随分可愛い名前だな」
矢木くんが緊張を和らげ、少し口元を緩ませて笑った。
「だ、だって仕方ないじゃない!! 幼稚園の頃に名前をつけたんだから!!」
私は真っ赤になった顔を隠すように、拗ねた声を張り上げた。
黒い八咫烏だから、クーちゃん。
ピカピカ光る金鵄だから、ピーちゃん。
昔、幽玄堂に入ったばかりの頃も琴さんにさんざん揶揄われたトラウマがあるのだ。
(……この依頼が終わったら、こんな事態を招いたジョーさんに絶対説教してやる!!)
私は心の中で、強く強くそう誓うのだった。




