オカルト取材のドレスコード
「じゃあ荷物を下ろすぞ。女性陣は車を使って着替えていいぞ」
ジョーさんが軽ワゴンに積んであったバッグを手渡していく。着替え? 動きやすい服装ってことだろうか?
「じゃあお先に~」
琴さんが荷物を受け取ると、女性陣が移動用のワゴン車の中へと入っていった。
「覗いちゃダメだからね!!」
鈴々莉さんが釘を刺すように言い、パチンとカーテンを閉めた。
「俺らは荷物を下ろすぞ」
「あ、それなら俺がやります」
「あー、そうだったな。じゃあ頼むわ。俺らも着替えたら手伝うから」
そう言うと男性陣もそれぞれの荷物を抱え、藪の中へと消えていった。
俺は1人で黙々と荷下ろしを始める。薄気味悪い森の中に、虫と鳥の声だけが虚しくこだましていた。恐怖心には耐性がある方だと思っていたが、改めて1人きりになると結構怖い。俺は恐怖を振り払うように、次々と荷物を車から下ろしていった。
やがて女性陣の着替えが終わったようで、車から降りてくる気配がした。……だが、その格好を見た瞬間、俺は口をぐうの音も出ないほど開けて唖然とした。
「矢木くん、お疲れ様。みんなは?」
「あ、ああ……みんななら先に着替えるって藪の中に行ったよ」
鳥居は鮮やかな赤い袴の巫女服を身に纏っていた。髪も可愛らしい花の簪で綺麗に結い上げている。学校の制服姿しか知らなかったが、ものすごく似合っていた。
「先にやっててくれたんだ、ありがとうね」
映子さんが優しく微笑みかけてくる。映子さんは身体のラインをすっぽりと包み込む黒いローブ姿だった。だが、生地の上からでも隠しきれない胸元の主張が凄まじい。
「何や何や矢木くん、ボケっとして私らに見惚れてたんか?」
からかうようにニシシと笑う琴さんは、比較的まともな格好に見えた。ダメージジーンズの上に白い羽織を羽織り、手には長めの数珠を巻きつけている。
「どうどう? 矢木っち、似合ってるっしょ!」
鈴々莉さんは……なんというか、ド派手な赤いチャイナドレスを着ていた。
「チャイナドレス……ですか?」
「ちーがーう! 道士服!! 動きやすいようにスリットを入れただけだから!」
鈴々莉さんは裾を持ち上げてひらひらと揺らしてみせる。大胆に入ったスリットから健康的な生足が覗き、正直どこに目を向ければいいのか困ってしまう。それを見た鈴々莉さんは、俺の反応に満足したようにニシシと笑った。
「雪墨、揶揄うな」
男性陣も着替えが終わったようで、藪の中から合流してきた。十一さんが呆れたように注意を促す。
「だってー、この服気に入ってるのにみんな全然反応してくれないじゃん!」
「そりゃ、お前の化けの皮を知っているからな」
「何だと!?」
十一さんの衣装は、まるで時代劇に出てくる昔の武芸者のようだった。着物から黒い袴へと履き替えている。
「よし、荷物を下ろすぞ」
ジョーさんの格好は神父そのものだった。くたびれた黒の神父服に、首からは銀色のロザリオが下げられている。
だが—— 一番目を疑ったのは涼さんの格好だった。
頭の上には不気味な動物の骨の頭飾り。上半身はまさかの裸で、その上に禍々しい模様のポンチョを羽織っている。さすがにズボンは履いていたが、その腰回りには藁のような腰蓑まで装着されていた。完全にシャーマンか何かのアレだ。
「どうしました、矢木くん。……まあ、言いたいことは分かりますが」
俺の視線に気づいた涼さんが苦笑いを浮かべる。
「あっ、虫除けスプレー要る人いますか?」
そりゃあ、そんな肌の露出が多い格好をしてたら一発で刺されるだろ!
全員があまりにも濃すぎる衣装に身を包んでいるせいで、動きやすさ重視で着てきた俺の普通のジャージ服が、逆に浮いて見えるほどだった。
俺はここを、真剣にオカルトを取材する出版社だと思っていた。……もしかして俺、とんでもなく怪しい宗教団体に足を踏み入れてしまったんじゃないだろうか。
俺の高校最後の夏休みアルバイトは、早くも暗礁に乗り上げそうだった。




