山裾の廃病院
女性陣の賑やかな喋り声をBGMに、車に揺られること約一時間半。俺たちは目的地の現場である、隣県の山裾に佇む廃病院へと辿り着いた。
「うわー……これは雰囲気ありますね。本当に何か出そうだ」
思わず呟きが漏れる。所々の窓ガラスが割れ、壁にはツタが絡まり、静まり返った闇の中にボロボロの巨大な建造物が浮き上がっていた。まさに『いかにも何かが出そう』という不気味な空気を全身で漂わせている。
「『何か出そう』じゃなくて、出てもらわなきゃ困るんだよ」
一足先についていたジョーさんが、咥え煙草の煙をくゆらせながら言った。火を指先で消し、慣れた手つきで灰を携帯灰皿へと落とす。
「お疲れ様。十一さん、席を譲ってくれてありがとうね。おかげでゆっくり寝られたよ」
車から降りてきた映子さんが優しく微笑む。一方の十一さんは、車から降りた瞬間に待ちかねた様子でキセルを取り出し、火を灯していた。
「気にしてない」
「いえいえ。男性同士で、色々と積もる話もあったでしょうから」
映子さんの丸メガネの奥で、一瞬だけ目が怪しく輝いた気がしたのは……きっと気のせいじゃない。
「映子さん、助手席でぐっすり寝ててジョーさんに手ぇ出されんかったか?」
琴さんがニヤニヤとからかうように言うと、映子さんは困ったようにふんわりと笑いながら手を振って否定した。
「大丈夫だよー。私なんかに手を出す男の人なんて、どこ探してもいないって」
「おいおい、人を獣扱いするな。こう見えても一応、聖職者なんだから」
心外だと言わんばかりにジョーさんが肩をすくめると、間髪入れずに鳥居から厳しい追撃が飛ぶ。
「獣と聖職者だったら、まだ獣と言われた方が信憑性ありますけどね」
「言うねぇ、小夜ちゃん」
鳥居の容赦のない辛辣なツッコミに、琴さんがクスクスと笑う。
「……映子さんのあれって、本気で言ってるんですかね?」
映子さんのあまりの謙遜ぶりに俺がおずおずと尋ねると、隣にいた涼さんが苦笑いを浮かべて答えてくれた。
「まあ……映子さんはご自身の容姿に関しては、徹底的に無頓着な方ですからね」
「映子さん、謙遜もそこまでいくと逆に嫌味だってー!」
「本当にそうですよ……」
鈴々莉さんが呆れ顔で声を上げ、鳥居もどこか元気なさげに頷いて賛同した。
「けどやっぱり、二人乗りなら男の人同士で乗っていった方が良かったかしらね?」
おっとりと笑顔を浮かべる映子さん。……だが、その瞳の奥にはやっぱり、どこか邪で妖しい輝きが宿っているように見えてならなかった。




