現場への道中
「うお、重っ……!」
俺は社用の軽ワゴンの荷台に、次々と機材を詰め込んでいく。撮影用の三脚やライト、大型バッテリー。それから長時間取材のためか、キャンプ用のテントや折りたたみイスといった休憩道具まである。
「ごめんね、矢木くん」
ボサボサのロングヘアの間から覗く丸メガネの奥で、映子さんが申し訳なさそうに目を細めた。これらの機材の多くは、カメラマンである映子さんが使うものらしい。
「これくらい大丈夫ですよ!」
額に浮かんだ汗をグッと拭いながら答える。なるほど、これはわざわざ力仕事用にアルバイトを雇うわけだ。だが、高校3年間を野球部で鍛え上げてきた俺にとっては、これしきの重労働、屁でもない。
「現場でもアシスタントとして頼むから、よろしくね」
映子さんは胸の前で両手を合わせ、拝むようなポーズで微笑んだ。
「おーい、準備はできたか……って、もう終わらせたのか。早いな!」
建物から出てきたジョーさんが、綺麗に収まった荷台を見て驚きの声を上げた。その隣には、涼さんも続いている。
「手伝おうと思って出てきたんだけど、ごめんね、全部やらせちゃって」
「いえ! バイトで雇ってもらっている以上、俺がやって当然です!」
「ふん……これだけの量を一人で運び切るとは、大したもんだな」
なんと、あの気難しい十一さんから珍しく褒め言葉が飛んできた。
「ありがとうございます!」
思わず背筋を伸ばして一礼する。三年間で体に染み付いた体育会系の習性は、そう簡単には抜けないらしい。
「さてと、じゃあ行くか。映子、乗れ」
今回の現場へは、荷物搬送用の軽ワゴンと、社員が移動するための大型ワゴンの二台に分かれて向かうらしい。ジョーさんが荷物ワゴンの運転席に乗り込む。
映子さんは、十一さんに向かってすまなそうに手を合わせる仕草をすると、助手席へと乗り込んだ。
「十一さん、今日は席譲ってね」
「構わん。ゆっくり寝ていけ」
一足先に、ジョーさんと映子さんを乗せた軽ワゴンがエンジン音を響かせて発進していった。
「あの……車によって何か違いでもあるんですか?」
気になって尋ねると、十一さんはフッと短く鼻を鳴らした。
「乗れば分かる」
それだけ言うと、十一さんは大きくため息をつくのだった。
その直後、大きめのワゴン車がヘッドライトを眩しく照らしながらこちらへ近づいてきた。運転席の窓から身を乗り出し、賑やかに手を振っているのは琴さんだ。
「さーて、私らも行くでー!」
俺たちは促されるまま、大型ワゴンへと乗り込んだ。
——なるほどな。
走り出して数分後、俺は十一さんの言っていた「乗れば分かる」の意味を痛烈に理解していた。
車内では、さっきから琴さんと鈴々莉さんがノンストップで喋り倒している。そこに時折、鳥居が相槌を打つ形で会話に加わっていた。
「お前たち……もう少し静かにできんのか」
助手席の十一さんが、後部座席を振り返って眉をひそめる。
「あっ……すみません!」
鳥居が慌てて縮こまるが、すかさず鈴々莉さんが割り込んだ。
「小夜ちゃん、謝んなくていいって! これがうちらのテンション上げる儀式なんだからさー!」
「そうそう! 私は営業やから普段は外回りばかりで会社におらんしな。こういう時にコミュニケーション円滑にしとくのは大事なことやで!」
「……物は言いようだな」
十一さんは半ば諦めたように頭を振ると、懐からキセルを取り出そうとした。
「あーっ! 車内は禁煙!!」
速攻で鈴々莉さんからツッコミが飛ぶ。
十一さんはチッ、と小さく舌打ちをすると、仏頂面のままキセルをしまい、シートに深く寄りかかって腕を組むのだった。




