和解
⚪︎矢木剛斗視点
俺は女性陣が休んでいる車へと急ぎ足で向かう。
――って、よく考えたら今はまだ着替えている真っ最中じゃないか? と思って足を止めかけたその時、鳥居が一人だけ車の外でぽつんと立って待っていた。どこかうつむき加減で、その表情は髪に隠れてよく見えない。
「鳥居っ! さっきは本当にすまんかった!!」
俺は近づくやいなや開口一番、その場で深々と頭を下げて謝罪した。
「うん……琴さんから、さっきの事情はだいたい聞いたから」
鳥居は相変わらず俯いたまま、小さな声で答える。俺は頭を下げたまま、焦りながら必死に言葉を繋げた。
「あの、その……鳥居のことが可愛くないとか、そういう意味で言ったわけじゃないんだ! ただ、映子さんが普段からスッポンポンだったら、この出版社の人達はみんなそういうことに慣れちゃってて、細かいことを気にしない体質になってるのかなって言いたかっただけでだな……!」
しどろもどろになりながら必死に弁解すると、それを聞いた鳥居は思わず「ふっ」と息を漏らして吹き出した。彼女は小さく笑いながら、少しだけ顔を上げる。その頬は、恥ずかしさからかほんのりと赤らんでいた。
「さすがに、どれだけマイペースな映子さんだって、わざわざ丸裸で外を歩いたりはしないよ……たぶん、だけど」
鳥居はちょっと自信なさげにクスリと苦笑する。いや、あの人ならガチでやりかねない気がするから何とも言えないけどさ。
「とにかく、本当にすまなかった。俺は馬鹿だから、みんなに突っ込まれるまで自分の発言のやばさに全然気づけなくて……。もちろん、映子さんと鳥居を比べて見下したりしたわけじゃないんだ」
「私、映子さんと比べられて、魅力がないから、みんな気にしないって言われてるんだと思ってた。流石に私でもそれは傷つくよ……。けど、そうじゃなかったんだね」
鳥居はどこか優しい笑みを浮かべて許してくれる。だが、そこから彼女はなぜか、もじもじと落ち着かない様子で指先を合わせ始めた。
「あのさ、矢木くん……。さっきみんなの前で言ってたことって、本当に本気で思ってくれたの?」
「本当だ! 比べたりしてないって!ガチで本当だから!」
「そっちじゃなくて……」
鳥居はさらに顔を真っ赤に染め上げ、もじもじと身悶えするように俯く。
――そっちじゃなくて?
え、俺さっき何か別のことも口走ってたか……?
「その……私のこと、普通に可愛いって思ってくれてるって……それに、『映子さんに比べても全然ひけをとらない』って、みんなの前で大声で絶叫してたって、さっき涼さんからスマホのメッセージが琴さんにきたんだけど……」
――うぉいっ!! 涼さん、なんて言う情報を流してくれてるんだよっ!?
俺の顔面からも一気に沸騰したような熱が吹き出し、頭が真っ白になりかける。しかし、ここで逃げたら男がすたる。俺は意を決して、真っ直ぐに鳥居の目を見据えた。
「……マジだ。本気で思ってる。俺は、鳥居のことが可愛いって思ってるよ」
「そ、そっか……」
ぴたりと言葉がやみ、俺たちの間に甘酸っぱい沈黙が走る。
――やばい、恥ずかしすぎる!! これ、直視したら心臓が持たないぞ!! 何か別の話題を、早く何か話題を探さなきゃ……!!
「そうだ! さっきは怒らせちまったお詫びと言っちゃなんだけど、今度任務が一段落したら美味いものでも奢るよ! 景気づけにラーメンか? それとも奮発して焼肉でもどうだ、好きなだけ食っていいぜ!」
照れくささを必死に隠そうと、俺は思わず心持ち大きめの声で威勢よく提案した。……って、これじゃあただの脳筋な体育会系男子のノリじゃないか。
「ううん、そんなの気をつかわなくていいよ」
鳥居は慌てて両手をブンブンと振って断ろうとする。
「いや、俺の気がおさまらないんだって!」
「じゃあ……」
鳥居は少しだけ考え込むように首をかしげ、それから嬉しそうにパッと顔を輝かせた。
「じゃあさ、今度の休みの日に、街の新しいケーキビュッフェとかに行かない? 私、前からずっと行ってみたいと思ってたんだけど、一人じゃ行きづらくてさ。こういう甘いところって男の人は恥ずかしいかもしれないけど、どう?」
「おおっ! ケーキビュッフェか! 問題ないぜ!任せとけって!」
こうして、俺たちは無事に仲直りを果たし、お互いに顔を見合わせて照れくさそうに微笑み合うのだった。




