個性の集積地
「そういえば琴さん、取材はどうだったの? コンタクトは取れた?」
鳥居が琴さんに尋ねる。その声は心なしか、いつになく真面目なトーンに切り替わっていた。
「ああ、ばっちりや。よく聞くような怪談話やからガセネタかと思ったんやけど、本物のようやで。話もちゃんと聞いてきた。後で詳しく話すな」
琴さんの顔からも先ほどまでの軽薄な笑顔が消え、完全にプロの仕事モードになっている。
「涼の方も、あっちと連絡取れた?」
「ええ、取材の許可は取れましたよ。もっとも、『勝手に入って勝手にやってくれ』といった投げやりな感じでしたがね」
涼さんはメガネのブリッジをクイと押し上げながら頷いた。
「よっしゃーーっ!! 終わったーーっ!!」
その時、編集部の奥から鈴々莉さんが大声を上げ、1枚の大きな半紙を豪快に掲げてみせた。そこには、今にも紙を破って飛び出してきそうな、おどろおどろしくも緻密な妖怪の姿が描かれている。彼女はそれをドヤ顔で十一さんの目の前に叩きつけた。
「ほれっ! 挿絵はこれで文句ないだろ!」
十一さんはそれを両手で受け取ると、じっくりと視線を滑らせる。
「……まあ、いいだろう」
表情一つ変えずに、ぽつりと深く頷いた。
「そこはたまには褒めろっつーの!!」
「それは締め切り内に提出して初めて評価に値するものだ」
「キーッ! 本当にイケすかない奴!!」
「同感だな。珍しく意見が一致した」
沸点低くヒートアップする鈴々莉さんと、眉一つ動かさずに冷淡な皮肉を返す十一さん。目の前で始まった火花散る応酬に俺があわあわと狼狽していると、隣から優しげな声が降ってきた。
「大丈夫よ、いつものことだから。お互いに表現者としてのプライドがあるの」
映子さんがおっとりとした笑みを浮かべながら教えてくれる。
「そういうもんすか……?」
「ええ。ああ見えてお互いの腕を誰よりも認め合っているのよ。十一さんの小説の挿絵は鈴々莉ちゃんにしか描かせないし、普段まったく本を読まない鈴々莉ちゃんも、十一さんの小説だけは欠かさず読んでいるもの」
「「余計なこと言わないで(言うんじゃない)!!」」
二人の声が見事なまでにハモった。
「ほらね?」
映子さんは上品に口元に手を当ててフフッと笑う。
そんな賑やかなやり取りが繰り広げられていると、奥の扉が開いてジョーさんが入ってきた。
「琴も涼もお疲れさん。話は聞けたか?」
「バッチリ」
琴さんが親指を立ててサムズアップしてみせる。
「よし、じゃあ会議すっぞ」
咥え煙草のジョーさんの一言で、幽玄堂の作戦会議が始まるのだった。




