第82話:全部いただくわ
「凪様!凪様!起きてください!」
ふぇ…?抱きしめていた、たぬきでよだれを拭いて、声のする方を見る。
「ハクちゃん。もう時間ですか」
眠い目を擦りながら起き上がる。
「貸切にするよう先ぶれを出しましたよ!いざ!断罪イベントですよ!」
そういえば最近、悪役令嬢を断罪する漫画にハマってたなこの子。
昨夜、玄関前で待ち伏せしていた私は、ハクちゃんが帰ってくるなり、どうにかこうにか泣き落とし、水神様が買い漁った漫画の費用は私のお小遣いじゃなくて謝礼費扱いにしてもらった。
説得してる時にうっかり漫画の画面が開いてしまい、私も直前まで読んでいたことがバレたときは血の気が引いたものだ。
だから今日は朝早くに起こされようがハクちゃんには逆らわないのだ!
私は大人しくもぞもぞと温かいベッドの中で着替える。
「ハクちゃん、一応ギルマスたちも呼んでおいてほしい。来られたらでいいからって」
「アオ!ギルマスたちを例の店に呼んで来なさい」
わぁハクちゃん、やる気満々だ。アオくんは白狼キッズの中で1番早いもんねぇ。
今日は護衛兼制御役としてドンがついてきてくれることになっている。
さ!行くぞドンさんや!
大きくなったドンに乗って、昨日もふもふできなかった分、背中に抱きついて顔をずりずり埋める。このちょっとかたい毛がまた良いのだ。
ハクちゃんも後ろからフェンリルの姿でついて来ている。上空に飛んでいるあのでかい姿は…
「ハクちゃん、フク君も呼んだの?」
「はい、フクさんはフラッシュ暗算ができますので」
計算機扱い!?いつの間に!?
「凪たちがバタバタしてる間に、計算ソフトやら電卓叩くのがめんどくさくなって、そろばんを極めたらフラッシュ暗算できるようになったって言ってたぞ」
ドンが補足してくれた。さすが怠惰の眷属。努力のベクトルがどうかしている。
店に到着すると、店頭には今日もケッタイなメリケンサックのおばさんと、他にも何人かの人間がいた。
ハクちゃんが、同じ血の匂いがすると耳元で教えてくれた。
前回はセレブの格好だったが、今日はヒッピーのようなゆるゆるの格好なので、同一人物と気づいていないようだ。
「代表神様、お待ちしておりました。お連れの方々がまた独特でらっしゃいますね」
「あら、あなたの指についてる武器の方がよっぽど独特では?」
うちの子たちを遠回しに、けったいなやつらを連れてるな、と言われるのは流石に不愉快だ。
「なっ!——いえ…さ、中へどうぞ」
「いえ、ここで。早速ですが、このお店、全部いただくわ」
「まぁ!ご覧にもならずに全てお買い上げ頂けるのですか!?」
「いいえ、不正を行うような店は没収、という意味です。また、未払い分の税をお支払いください」
「「「は…?」」」
オーナー一族は開いた口が塞がらない。私よりも先にハクちゃんが断罪イベントを始めてしまった。
「な、何をおっしゃっているのです…?妙な疑いはおやめください。それよりも、ここは人目もありますので、中でお茶でも飲みながらいかがですか?」
「いやぁここでいいよ。だって、香水なのか何なのか知らないけど、今日はいっそうくさいんだもん」
大きな犬の神獣、フェンリル、フクロウ、ボサボサの神、人目を引かないわけがなかった。ギャラリーが集まってきてしまった。
でも私ですらきついと感じるニオイを、室内でドンたちに浴びせたくないし…
「ちょっと通してくれ…!」
人ごみをかき分けながらギルマスたちもやってきた。
「あら、これは何事かしら?」
ヴァルトと一緒にリーさんも来たようだ。
「断罪です!」
人型になったハクちゃんがキリッ!と答えた。
「あなた方は、これまでの納税額、周囲の聞き込みの話からするに、約100年前より脱税を行なってきましたね。
当時は前怠惰様がいなくなり、住民たちも混乱の影響を受けたそうですね…そんな折にちょうど店主が亡くなった空き物件…
うまいこと利用したものですね!」
それは私も知らなかったなーと思いながらもここはハクちゃんに任せる。
同じく初耳だったギルマスが声を荒げた。
「はぁ!?なんだそれ!?
お前ら、俺たちがせめて少しでも直接居住エリアに寄付してくれないかって頭下げてまわった時、散々自分達も資金繰りに困っているって断ったじゃないか!他の店主たちは協力してくれたのに!」
ギルマスぅ…そんな事までしてくれてたのかよぉ…良いやつかよぉ…
「さてさて、えっと?年商30億リーフでしたっけ?
税率は1割、それが100年かぁ…」
私はチラッとハクちゃんを見る。
「まぁ凪様!それは彼らがきっと控えめにおっしゃった年商ですよ?
だって、1日の売り上げから換算した貸切料金が2000万リーフですよ?それが365日となればいくらでしょう、ねぇフクさん?」
「年商73億リーフ、税率1割で100年となると本来の納税額は730億ですね」
フク君がツラツラと答える。
「そ!そんなわけないじゃないですか!そこまで言うなら証拠を出してくださいよ!
先日いらしたそちらのお遣いの方たちが、聞き間違えたのではなくて?今日は来ていないようですが」
「あら、あんなにお話ししたのに、もうお忘れかしら?寂しいわね、ここにおりましてよ?」
おほほほっと笑う。
「な!あ!あの時の!で!でも!だからなんだって言うの?証拠は?」
口々に反論するオーナーたち、怒号を浴びせる周囲の野次馬。大混乱である。
「Gib laut」
私がそう言うと反射的に大きなドンが思い切り吠える。
これは私が人間時代にドンに教えていた『吠えろ』という命令だ。
あまりの迫力に周囲は静まり返った。
「それではみなさん、聞いてください!証拠音声をどうぞ!」
ポチッとな!
念のため持ってきていたポータブルスピーカーにスマホを繋ぎ、先日の茶番劇の音声を大音量で流す。
みるみるうちにオーナー一族の顔が青くなっていく。
ちょうど良いところで止める。
「さて、各エリアの一級品を集めたんでしたっけ?なーんにもない廃墟から何を仕入れてたの?ほこり?」
私が口を開くと、周囲から再び怒りの声が上がる。
「何が懇意だ!俺たちから強奪するように仕入れてたくせに!従わなければ潰してやるって!」
「だいたいあそこの店主のじいさんが亡くなったのだって、お前らが散々嫌がらせして引退に追い込んだからじゃないか!」
「あのウィンドウに飾ってあるハンカチの刺繍…リンから安く買い叩いていたのはお前らか…!」
おぉっと!ここでヴァルト参戦!
想像よりも悪どすぎておおごとになってまいりましたー!
住民の集会前に、さっさと片付けたかったのだが、ニオイのせいで大混乱になってしまった。
読んでいただきありがとうございます!
ハクちゃんがイキイキして大変、好です!
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