第80話:潜入調査
「この商店ってどこにあるの?」
私がそう言うと、フクくんが描いてくれた地図のコピーをハクちゃんが持ってきてくれた。
「ここです」
指差された先の店は、結構な広さがある。もちろんフクくんが上空から見て描いただけで正確な測量がされているわけではないが、この位置は…
「ねぇ、これビール工場の近くじゃない?」
ハクちゃんが私から地図を奪い取った。
「凪様、不正を働いた商店は、店を取り上げるべき、そうは思いませんか?」
「偶然だね、私も同じことを考えていたよ」
ニヤァっという笑みがふたりとも隠せなかった。
「さ、そうと決まれば私は明日ちょっと偵察に行ってくるよ!
ハクちゃんはもうあの辺りで顔が割れてるから、この件についてはしばらくは大人しくしててね」
翌日、私はさっそく、さもお金持ってます感漂うセレブな服を神力で2人分作った。
「咲さん!あそーぼ!」
咲さんのアパートの外から叫ぶと、窓から咲さんが顔を出した。
「凪さん!どうしたんですか?珍しいですね?」
「ちょっとさぁ、セレブごっこしよー!」
私はそれだけ説明して、咲さんにセレブな服を着せる。私もこんなに高いヒールを履いたのは久しぶりだ。婚活パーティーにぶち込まれた時以来だろうか。
そのまま咲さんを連れて神隠しの要領で商業エリアに一緒に転移すると、今日も街は賑わっているが、私たちの格好は想定通りだいぶ周囲から浮いている。
「いい?堂々と振る舞ってね。私たちは代表神に遣わされたセレブ。でも買いはしないからね、出来るだけ大きな声で私に合わせてセレブのフリしてね」
咲さんは「なんのこっちゃ」という顔だが、彼女は素直すぎて台本を用意すると棒読みになりそうなので、話を合わせてもらう方針でいく。
確かこの辺のはず…と思うと、一際人間達で賑わうお店があった。あそこだ。
私たちはカツカツとヒールを鳴らし、中に入っていくと注目の的だ。
そりゃそうだ。人間界のファッションの流行など天界では関係ない。異様な雰囲気の謎の人型が入ってきたようにしか見えない。
アクセサリー、雑貨、化粧品、人間界にあった老舗のデパートの1階の様な雰囲気だ。察するに、オーナーはどこかの世界線の神隠しにあった人間か、その子孫だろう。
「まぁ!咲さん見て!素敵なものばかりね!ぜーんぶ欲しくなっちゃうわ。でも怠惰様は許してくださるかしら…」
私が大きな声でそう言うと、咲さんはギョッとした顔で、こちらを見て固まっている。さりげなく肘で小突く。
「本当ですわね!怠惰様はお優しい方ですもの!こんなに素敵なお店があるのをご紹介しましょう!きっと貸切ってくださるはずですわ」
お!?ナイスアシスト!
「そうね!ぜひそうしましょう!オーナーはいらっしゃらないのかしら…代表神様にご紹介しても良いかお伺いしたいのだけど…」
そんな寸劇を繰り広げながら店内を物色していると、店員から声をかけられた。
「ご婦人方、よろしければ奥のお部屋へどうぞ」
人間界でも受けたことのないVIP待遇である。
私はさりげなくカバンの中にサングラスを仕舞うフリをしながら、スマホの録音ボタンを押した。
奥の部屋とやらにいくと、フッカフカのソファに案内され、しばらくすると全ての指に宝石の指輪をはめたゴッテゴテのおばさんがやってきた。
「ようこそおいでくださいました。まぁ何と洗練されたお召し物でしょう。この辺りではなかなかお見かけしないスタイルで驚いてしまいましたわ」
お?これはいわゆる『よぉけったいな格好したはりますなぁ』的なあれだろうか。
こちらこそ『けったいなメリケンサックつけたはりますなぁ』と言いたいところだ。
「わたくし達、実は最近神隠しに遭いまして、人間界の最先端の流行しか存じ上げませんの。
でも聞けば、怠惰様も最近、わたくしたちと同じ世界線からやって来られたとか。同郷のわたくしたちに、とても良くしてくださっているの。ね?咲さん?」
「え、えぇ、そうですわね。とっても羽振りの良い方で、こちらが驚いてしまうほどですわ」
あ、これはこないだのお掃除レクチャー代として適当に10万リーフあげて「じ、時給10万ってことですよ!?」と白目剥いてた時の話だな。
「えぇ、本当に。とっても敏腕な眷属の方々がどんどん事業を拡大しているとか…そういえば、ここのお店も他店に比べてとっても品のある様に見えますが、この辺りの老舗か何かでして?」
私が話をすると、オーナーのおばさんは鼻息荒く、食いついてきた。
「まぁ、そんな!ほんの200年ほど前に始めた小さなお店でしてよ。年商も30億リーフ程度ですし。怠惰様の事業にくらべたらきっとまだまだですわ。おほほほほ」
だいぶ盛っただろ、と内心突っ込んだが、ここは盛ってくれた方がありがたい。
「まぁ!それではきっと領地にも大変貢献してらっしゃるのね。ちなみに仕入れ先はどちらですの?
怠惰様は繊細なお方ですから、一つ一つこだわりを持っていらっしゃって」
匂いや肌触りが好かんとか、そういう持ち物にこだわりはあるが、基本使えりゃ何でもいいタイプである。
嘘をつくときは一部真実を混ぜるといいってやつだ。
「全て各エリアの一級品を仕入れておりますわ。仕入れ先にも、とことんこだわり抜いて、店主とも懇意の仲ですし、製造過程まできちんと確認したもののみをお取り扱いしておりますわ」
「素晴らしい審美眼ですわね。早速、帰って怠惰様に報告いたしますわ。
怠惰様がいらっしゃる時間は貸切にしていただけるかしら?もちろんその分の料金は、言い値でお支払いしましてよ。
そちらにご迷惑をかけるわけには参りませんもの…」
「えぇ!もちろんでございますわ!ただ…丸1日となると、通常の1日の売り上げから計算しますので、相当な額になってしまいますが…」
「あら、どれくらいですの?」
「2000万リーフほどかと…」
あらやだ、算数はお苦手でして?
私は先ほどから黙っている咲さんを小突きながらにっこり頷く。
「怠惰様なら問題ございませんわ!きっと、ここからここまで全部ちょうだいなんて言ってしまわれる様な豪快な方ですわよ」
おほほほほほほ、と3人で高笑いし、店を出た。少し歩いて離れたところで録音を停止し、ちゃんと録れているかを確認する。
よしよし、しっかり聞こえる!
「あのー何だったんですか、今の」
「ん?あぁ、あの店、潰そうと思ってね。いやぁなんだか久々の駆け引きで楽しかったけどドキドキしちゃった!いてくれて助かったよー!あ、もしかしてあの店で買いたいものあった?」
「いえ、あの店は匂いがキツくて獣人さんたちが近寄らないようなのでどうでもいいです」
それには私も気づかなかった。さすがケモナーは見ているところが違う。ならばあそこをケモ耳も集うビアホールにして見せましょう!
その晩、録音を聴いたハクちゃんの盛大な高笑いが夜の森に響き渡った。
読んでいただきありがとうございます!
本人は真面目にやってるのにどこか間抜けな潜入調査でしたわね。
もし『このキャラ好き』『この場面笑った』みたいなものがあればぜひ教えてください。
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