第79話:許しません
あぁ…さようなら私の金曜日。
ハクちゃんがもう『許しません』って言っちゃってるもんなぁ。『許せません』じゃないってことは何かしら制裁を加えるって意味だもんなぁ…
「とりあえず仁王立ちはやめて、中に入ろう?家の中で話そ?」
門をくぐると、ドンとアッシュがいた。
「何やってんの?」
「いや、ハクちゃんがね、今にもその店主を襲いに行きそうだったから見張ってたんだよ。大変だったんだから」
珍しくアッシュがまともなことを言っている。
「今にも店主を問い詰めに行きそうだったから、とりあえず店主は人間か獣人だから、確実にその勢いで行かせたら死ぬし、凪はそれを許さないって説得したんだ。それからずっとここで凪の帰りを待ってたから、一応見張ってたんだ」
おぉ、さすがドンさん。それでハクちゃんも流石にドンとアッシュには勝てないだろうし、どうにかこうにか怒りを堪えて待ってくれていたのか。
「そっか、ふたりもハクちゃんもありがとうね。とりあえず落ち着いて、どう処すか決めようか」
私の時間を奪った罪は重いぞ人間。
「それで、何がおかしいって?」
私がこたつに入りながらハクちゃんに説明を促すと、まずあの好奇心の神の家の周りにあったリーフ入りの小袋の山の話になった。
あれには、どこの店舗のものかと日付、金額が小袋の中の紙に書かれていたそうだ。
それを元に店舗ごとに好奇心の神とその眷属たちが帳簿を徹夜でつけたらしい。
そしてハクちゃんがダブルチェックしたところ、帳簿の数字自体には間違いがないものの、明らかに数字と実態が合わない店舗、すでに廃業しているのにその廃業後も献上され続けている形跡、いろいろな不審点が出てきたそうだ。
「えー、つまりどう言うこと?」
詳しいことはわからんが、とりあえず誰がどう悪いのか教えてくれ。
「この不審な店舗たちの、経営者たちを調べたところ、どうも同じ血族なのです。
すでに廃業した店舗から、ある程度納税することで、経営実態があるように見せられます。そのお金の出所がこの大きな商店なんです。
この商店は規模の割に納税が少ないのですが、このダミー店舗から仕入れていることにすれば、その分を横領できるんです!
そしてその仕入れ額を利益の一部かのようにダミー店舗から納税しているのです!」
「なんかわかったようでわからんけど、その同じ一族っていう証拠は?」
「本人たちを探しました。同じ血の匂いがしました」
そ、そんなことまでわかるの…?
そういえば私が見てたアニメのフェンリルもそんなようなこと言ってたシーンがあったな…無意識のうちに能力にオプションが付いてしまっていた。
「店舗が本当に潰れてるかどうかは?」
「見に行きました。廃墟でしたし、近隣の店舗の方たちに聞いたところ、最初は答えてくれなかったのですが、ちょっと問い詰めたら前の店主が亡くなってから店が開いているところは見たことがないと!」
もはや刑事である。
「つまり周囲を黙らせておける影響力がある一族ってことだよなぁ。
でも計画がお粗末すぎるからたぶんいくら未納なのかわからないだろうな。裏帳簿をつけるほど計画的な人たちとも思えないし、どんぶり勘定の横領は厄介だなぁ…」
「そう!そこなんです!」
バンッ!と机の上にある帳簿を叩いた。
「私は!私はいくら取り戻せるんですか!?」
ハクちゃんの手の下敷きになった帳簿がグシャッと握りつぶされた。
それは———ハクちゃんのお金ではない。それはハクちゃんもわかっているはずだ。
取り戻したいものはお金じゃないんだよね。
『許せない』
その気持ちに今は支配されている。彼女は本来の自分を取り戻したいのだ。
人間だった頃、真面目にあがいて身体を壊すまで働いた。仕事ができない先輩たちのフォローまでした。
歴代の売り上げ記録さえ何度も塗り替えた。
なのに、その評価と給料は先輩のものになった。ずっとそうだった。
私がフォローしてなかったらとっくに破綻しているプロジェクトなのに。
自分の仕事に追加して、定時に帰る先輩の分まで残業してフォローしたのに。
真面目な人ほど報われない。
きっといつか誰かがちゃんと評価してくれる。神様は見ている。そんなことはなかった。信じるだけじゃ救われない。
どうにか未払いの残業代だけでも取り返してやろうという気力が湧いたころには時効だった。
残ったのはもう働けないかもしれない壊れた自分の身体だけ。
許せない…許せない許せない許せない!この世界の何もかもが許せない!
あの頃の燃えかすは今も私の中に残っている。
私の人間時代の記憶や癖は眷属に影響する——
私はハクちゃんと向き合わないといけない。
「ハクちゃん、大丈夫。この家のことも、みんなのこともちゃんと私が守るから。ハクちゃんがここにいてくれるだけで私は嬉しいよ。
だからそんなに焦らなくてもいいんだよ。絶対に今後お金に困ることはないから。見てくれてたでしょ?」
ハクちゃんは握りしめたくしゃくしゃの帳簿を見つめている。
「今まで私がこの天界をどれだけ引っ掻き回してきたか。信じられない?」
「………信じられます。信じています。でも…!」
「でも許せないんだよね?
それは私も一緒だよ。天罰はちゃーんと下さないとね?」
ふふっと私が笑うと、ハクちゃんも笑い始めた。
「そうですね。ふふふふ」
「一緒に地獄を見せてやろう」
読んでいただきありがとうございます!
凪はやられっぱなしでは終わりません!
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