第78話:芸術の神へのお願い
失敗したか?やっぱちょっと邪悪な色が入ってたもんな。最悪、大衆浴場の湯沸しタンクに放り込もう。
そんなことを考えていると、リザードマンが大きな手でビターン!っとスライムを潰した。潰してもスライムなので、すぐ戻るのだが…
「上下関係を叩き込まないとわからないようだな」
そう言いながら、スライムをビヨンビヨン引っ張ったり、こねくりまわしている。
「えっあの…ちょ、やめ…すみませんでした」
あのレベルの邪悪スライムは、コンビニ前のチンピラくらいってことか。それなら使い道はありそうだな。
生前もっと悪いことをしたのだろうが、御神木を通る過程で、浄化されてあの程度になったのなら、かわいいもんだ。
「どう?使えそう?」
「あぁ、助かる。調教すれば問題ない」
がんばれチンピラスライム。
「じゃあ私はちょっと芸術の神のところに行って、相談してくるよ」
私はそう言ってヴァルトとリーさんが夢中になっている地図を取り上げた。これはフク君が作ってくれた地図だからね。
「今日はありがとう。炊き出しはしばらく続けるから、また進展があったら連絡するよ。明日は風呂焚きと掃除以外は自由に過ごしてて」
私はそう言い残して芸術の神の家に転移した。前に通りかかって場所を知っていたのが幸いだった。
芸術の神の家の横には、人間界でいう大きな港にある倉庫のような、バカでかいガレージのアトリエがあり、そこで創作活動をしている人間や眷属たちがいる。
いつもドアが開きっぱなしなのは色々な匂いや粉塵が貯まらないためだろうか。
「すみませーん!芸術の神はいますかー?」
返事がない。みんな自分の創作に夢中だ。しょうがない。私は神力でリレーのスタート合図に使う空砲を作り、引き金を引く。
パァアアァアンッ!!と言う破裂音がアトリエ内に響く。そこまでして皆ようやく、自分の世界から帰ってきたようだ。
「怠惰の神なんですけど、芸術の神を呼んできてくれます?」
しかし誰も動かない。自分の作品に戻りたいようだ。
「えー…呼んできてくれた方には漏れなく、居住エリアの1区画を好きにデザイン、巨大オブジェ設置等、好きにする権利を与えます」
一瞬で目がギラっと変わり、蜂の巣を突いたように散り散りに芸術の神を探しに走っていった。
わぁ…秋エリアの人って感じ…あれ、その代表が私?うっそだぁ。
待っている間に、近くに岩がないか探していたが、どういうわけか岩がない。大きめの石でもいけそうだが、それもない。
どうしたものかと考えていると、複数人の弟子なのか、眷属なのかに担がれて芸術の神がやってきた。
しまった。勝者がこんなに出るとは思ってもいなかった。
「あー…では、皆さんはこれから私が芸術の神にお願いする大きなプロジェクトの幹部になって仕切って頂くということでどうか一つ…とりあえず芸術の神を床に置いて制作に戻ってください…」
そう言うと、ガッツポーズとともに、芸術の神は無造作に床に放置された。
「なんか…苦労してるんですね」
「うちの子たち、餌をぶら下げるととんでもない奇行に走るのでやめてもらえますか…」
よろっと立ち上がった芸術の神に、とりあえずごめんと言うしかなかった。
「あの、この間の武神の城を直してもらった時のお礼をしようと思ったんだけど彫刻用の大理石ってどんなのかわかんなくて…
岩の神を呼ぶから直接頼んでもらってもいい?」
そう言うと、芸術の神は「えぇ!?いいんですか!?岩の神と会えるんですか!?すぐ行きましょう!」と歓喜した。
「あ、岩があれば呼び出せるんだけど、なぜかこの辺りに岩がなくて。なんか岩ない?」
「あぁ、それならみんな彫刻やら画材やらに使いました。岩ならこれとかどうですか?早く呼びましょう」
そう言って指差された先にあったのは、私と同じ背丈くらいある、頬に手を当てた綺麗な女の人の石像だった。岩を彫ったのだろう。
私、これにビンタするの?餌を前にした弟子の奇行はあんたゆずりだよ。
まずは手に神力をこめて、石像のおでこをしばらくノックしてみた。しかし、返事がない。次に揺らしてみたり、さすってみたりしたが、返事がない。
あまりの反応のなさに、気づいたら殴っていた。
「ちょっと!?なんですか!?って地神様じゃないし!ビンタやめて!?」
石像と同じく頬を押さえた岩の神が出てきた。
「なら早よ気づけや!」
今ならうちの庭の岩を殴って呼び出した時の、地神様のパワハラの意味がわかる。
「地神様には許可は取ってあるから、この芸術の神の所望の大理石作って」
そう言うと芸術の神は突如すごい剣幕で要求をまくし立て始め、岩の神が勢いに押されて壁際に追い込まれている。
専門外なので何を言っているのかさっぱりわからないが、しばらくその様子を見守った。
どうやら満足のいくものが手に入ったらしい芸術の神は、にっこにこで戻ってきた。
「そんなに大きな大理石で何を彫るの?御神木?時の神?」
「あの…その…怠惰様のところのムーン様を彫っても…?」
芸術の神はなんだか照れくさそうに、もじもじとしながら、質問で返してきた。
なんでムーン…?その立派な大理石で?大理石ってお金持ちの家の床とかに使われるやつでしょ?思わず怪訝な顔をしてしまう。
「あの美しさを再現できるかわかりませんが、ぜひやらせてください!」
なんだこのムーンを嫁にくださいとでも言われているような気持ちは。
お?でもこれなら——
「じゃあ、居住エリアの都市計画と建築デザイン、設計諸々やってよ。さっきの捕獲組と一緒に!報酬はムーンのモデル料ってことで!」
「もちろんやります!」
タダで丸投げ完了!よし、今日と明日はのんびりしよう。まるで気分は金曜日の退勤後。
とりあえず地図とどこに何人くらい住める建物を建てるかだけ先に作ってくれと頼み、家に帰った。
門の前には鬼の形相をしたハクちゃんがいた。
わ、わたし何かしただろうか…無駄な買い食いとかしてないよ?
「凪様、商業エリアの数店舗の帳簿に不審な点が見つかりました。許しません」
読んでいただきありがとうございます!
神、みんな自分の影響を受けた眷属に振り回されていますね。
もし『このキャラ好き』『この場面笑った』みたいなものがあればぜひ教えてください。
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