第75話:ギルドをつくる
白狼ファミリーと一緒に出発しようとしたところ、カピバラーズが大衆浴場の視察に行きたいと言うので、先に私は、元のフェンリルの姿になったハクちゃんに乗せてもらって、好奇心の神の家に向かった。
「おはよー。帳簿できた?」
そう聞くと、徹夜したらしい神と眷属たちがぐったりしながら頷いた。
そりゃあんだけの小袋からお金出して数えてたら一晩はかかるわな…
小袋で埋め尽くされていた時にはわからなかったが、「この家、どうやって建っているんだろう」と不思議なくらい歪な形をしていた。煙突のある赤い屋根に、オレンジのような黄色の壁なのだが、屋根のてっぺんに向けてひねり上がっている。
これはこれで芸術なんだろうか…モダンすぎてわからん。
私がそんな観察をしていると、人型になったハクちゃんは猛烈な勢いでお金の山々と帳簿の紙を照らし合わせてチェックしていた。
流石の早さである。
この場はハクちゃんに任せ、私は昨日炊き出しをしたところに向かった。転移すると、すでに勇者パーティがいた。
「あ、遅くなりまして。時間決めとけば良かったね」
そう言うと、稽古していたから問題ないと言われた。
この人たちは私とは違う異世界の冒険者なのか…?私なら寝て待ってるぞ…
とりあえず物置小屋を開けて、鍋やら材料を出して炊き出しの準備をしてもらっていると、ロウ君とキッズたち、カピバラーズが到着した。
炊き出しはロウ君たちに任せ、カピバラーズには、大衆浴場はここをまっすぐ行くとあるが、今日はお湯を沸かしていないから冷たいプール状態だと伝えると、黙って頷いて3匹揃って歩いていった。
言いしれぬ謎の貫禄に、住民たちがたじろいていて面白い。
「さて、君たちにはやってほしいことがあります。
もちろん、やるかやらないかは自分たちで決めてもらって構わないから、話だけでも聞いてくれる?」
私がそう言うと、勇者パーティのリザードマンのような大きな獣人が、おそらくまだ私を信頼していないであろう視線で言った。
「話を聞くだけなどと。神の命令なんか断れるわけがないだろう」
うーん。ここまで放置されたんだから、神に不信感を持って当然だ。仕方がない。
それにしても彼は何のトカゲが獣人化したのだろう…ワニ…?コモドドラゴン…?とにかく強そうだ。
「いや、本当にどっちでもいいよ。断られても、他にやってくれる人を見つけるか、私が眷属を作ればいい話だからね。
ただ、できれば私はこの居住エリアを仕切るのは住民の方がいいだろうと思ってる。神がいないと回らない環境だと、碌なことにならないからね。今回みたいに」
そう言うと、リザードマンの立派な尻尾をビターンと地面に叩きつけた。
いや、ほんと好奇心の神がすいませんね。あとでちゃんとシメときますんで…という気持ちでいっぱいになる。
反対に勇者は好意的に受け入れてくれているようだった。
「とりあえず話してくれますか?我々に何をしてほしいんです?」
「ギルドをね、仕切ってほしいんだ」
私は町の中央の井戸の広場の奥に作った、大きな建物を指差す。
人間や獣人が出入りしやすいように、大きな出入り口が2つ、もともとこのエリアの建物の建築様式であっただろうものをイメージして、木材の柱や梁に白い漆喰の三角屋根の建物だ。
そちらに向かって歩くと、彼らも後ろからついてきた。
「ギルド…?ってなんですか?」
「まず、ここの人たちは農耕だとか、商人と契約してる人くらいしか、きっと仕事がないでしょ?
だから大衆浴場の湯沸かしや清掃、あとトイレや町全体のそう言う細々した管理業務を住民にやってもらう。あとは今後のこのも考えると子供達に読み書きや計算を教える必要もあるから、それもやってもらう」
私は扉を開けて中に入り、壁に設置された大きなボードの前に立つ。
「そういうのを、『クエスト』…『依頼』として、住民に受けてもらうんだよ。ここにはそのクエスト内容や報酬を書いた紙を貼る。
その中から自分で選んだものを受注して、依頼を達成したら報酬をギルドが払う」
なるほど…と彼らは話に食いついてきた。自分たちだけで養わなくても、住民が自分で稼ぐようになれれば彼らも出稼ぎに行かなくて済む。
黒い狼の獣人が首を傾げる。
「だが、俺たち全員はそのギルドには必要ないだろう?それに、その報酬を払う金はどこから出るんだ?依頼も誰が出すんだ?」
ごもっともである。
「さっき言ったような、居住エリアの保全や基礎に関する依頼は、好奇心の神か私から定期的に依頼を出す。
好奇心の神は商業エリアの売り上げの一部をもともと居住エリアの管理費として受け取ってるんだよね。報酬はそこから出す。
それが還元されなくなって、ここが荒れたから、商人たちは商業エリアに住み着いちゃったんだと思う。彼らもこっちに住むように伝えるよ」
何せ毎日とまでは言わんが風呂に入ってほしいからな。
私は続ける。
「で、そのギルドマスターを勇者に頼みたい。住民からの信頼も厚いみたいだしね。
で、他の皆さんには交代で治安警備隊として、交代で見回りをしてほしい。人数が足りないなら、保全費用から新たに雇ってもらって構わない。
実は商業エリアで近々お酒を売ろうと思っていてね。酔っ払いとかが出るようになるかもしれないから」
『お酒』と言った瞬間、パーティの人間たちの目が輝いた。黒い狼以外の獣人たちはそれが何かわからないようだった。
「金があるやつが、依頼を出すこともできるってことですよね?商業エリアのやつらが一時的に手伝いが欲しい時だってあるだろうし」
「そうだね。勇者の言う通り。
ただ相手は商人だ。難癖つけて、報酬の支払いを渋る可能性もある。そこで強い人がトップにいて欲しいんだよね。
どう?やってくれる?」
まぁあれだけ律儀に好奇心の家の神の周りにお金を納めていたのだから、そんな商人はここにはいなさそうではあるが….
私が勇者にそう聞くと、腕を組んで考え込んでいる。少しして口を開いた。
「確かに、それができたら理想だと思う。ただ、俺にトップができるとは…」
まぁ、急にこんなこと言われても決められないよなぁ。
「そんなに身構えなくてもいいよ。トップってのは何かあった時だけ出ていけばいい。
それにそもそも居住エリアは、秋エリアの2番目の神の管轄だし、手に負えないことなら好奇心の神に押し付けていいよ。
あそこの眷属も1人は、ギルマスの部下として交代制で常駐させるつもりだよ。
それを渋ったり、放り出して遊びに行くようなら私に教えて欲しい。今度こそ制裁を加えるから安心して欲しい」
「ふふふふふ」と笑うと、「「「お、おぉ…」」」と言うどよめきが返ってきた。
「まぁちょっと考えてみてよ」
私たちはいったんギルドの建物から出る。
勇者はしばらく、入り口の階段に座り、炊き出しのご飯を笑顔で食べる子どもたちを黙って眺めていた。
今日の味付けは味噌ベースと卵か。具は何だろう…こないだ作ったキノコ入れたやつかな…美味しそうだなぁ…
パンっ!と太ももを叩き、立ち上がった勇者が口を開いた。
「わかった。やります」
「ありがとう!他の皆さんはどうする?」
引き受けてくれてよかったー!私は他の狼獣人、鷹のような鳥の獣人、リザードマン、人間3人の他のメンバーにも聞く。
「まぁギルがやるなら、俺たちもやるよ。もう神に振り回されるのも嫌だしな」
リザードマンが代表して答えてくれた。
よし!!
「あと、あの昨日の後宮にいたという女の人を雇えないかな?受付にピッタリだと思うんだよね」
私がそういうと、黒い狼の獣人の耳が反応した。あれは警戒している時の動きだ。
「リンリーのことか?」
「名前はわからない。黒髪の所作が綺麗な人。あの人は農耕とか、他の簡単な仕事で燻ってていい人材じゃない。絶対に。彼女は他人の動かし方を知ってる優秀な人だと思う」
私がそう断言すると、彼は複雑そうな顔をした。しかし、尻尾は喜びの時の動きをしている。
犬と狼獣人では、尻尾に出る感情は違うのだろうか?なかなか興味深い。
それにしてもいい加減勇者の名前を覚えねば。さっきギルと呼ばれていた。ギルマスのギル、ギルマスのギル…あれ?もうギルマスで良いか。
読んでくださりありがとうございます!
もし『ここが好き』『この場面笑った』みたいなのがあれば教えてください!
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