第7話:規律の神の眷属
「事情はわかりました。
実務くん、あなたは仕事に戻ってください。
ちゃんとちょこちょこ休憩をとって仕事してくださいね」
あ、また帰り乗ってきます?と犬を促したが、首がもげそうなくらい全力で拒否されてしまった。
それにしても規律の神の眷属とやらは厄介だ。
「いるよね、そういう上司ー!」
「この時代にいつまでFAX使わせんだよみたいなねー!」
って、ここに人間が他にいたら絶対愚痴っている自信がある。
「今その規律の神の眷属ってどこにいるの?おかきの結界で近くに入れないんでしょ?」
そう聞くと、ダイチが遠くを指差した。
「正確には規律や秩序の神だな。
眷属はあそこで座っているやつだ。
昼頃まではちゃんと起立してたんだけどな」
ぉおん?と目をやると、ちんまり膝を抱えて三角座りをしている人がいた。
「おかき、結界解ける?ドン、ちょっとあの人引っ張ってきて」と指示を出す。
2匹とも迅速に動いてくれた。
待っている間に、人間そのものにしか見えない実務くんたちについて聞いてみた。
「あの制服を着ているのは、お察しの通り人間よ。
『神隠し』って聞いたことあるでしょ?
神々がたまに遊…視察に行くんだけど、戻ってくる時に、巻き込まれてしまう人間がいるの。
大抵は、記憶を消して元の世界へ戻すんだけど、戻っても居場所がないっていう人は働いてもらってるの。
あの人たちは、人間界よりは長いけど、寿命で死ぬわよ」
『遊びに』って言いかけたな。
フウは何気なく言ったが、
神々の戯れに巻き込まれて、身内が行方不明になる人からしたら、たまったもんじゃないだろう…
やりたい放題だな…
視界の端で、ついにスイがムーンに挨拶をしているのが見えた。
ムーンより、たぬきの方が人懐っこいよ?
あ、猫パンチされてる。ちょっと嬉しそうだ。
「ぅわぁぁああああっ!!」
声が近づいてきた。
来た来た。
ドンが首根っこを咥えて引きずってきて、ベシャッと放り投げた。
昔よくあぁやってタイヤ咥えて遊んでたねぇ、とおかえりのなでなでをする。
規律の神の眷属は、モノクロ写真時代の軍服のようなきちっとした服装に、チェーンのついたモノクルをつけている、イケおじだ。
「な、なんだこの獣は!私を誰だと思っている!」と文句を言いながら、体勢を立て直している。
獣だと?
「あなたこそ、私を誰だと思っているの?」
私はにっこり笑って尋ねる。
イケおじは、バッ!と勢いよく他の眷属を見て、スイの『た・い・だ・さ・ま』という口パクで顔が真っ青になった。
「失礼いたしました!」
と、ピシッと姿勢よく直立した。
「私、あなたの部下の手違いで、最も過酷な世界線の人間になっていました。
死んで目が覚めたらここに来て、今事情を聞いているところです。
あなたは何かご存知でしたか?」
そう聞くと、「何も知らない」と言う旨しか返事がなかった。
「あなたたちの仕事はとても細かく、照合作業は本当に大変そうですね。
やり方を変えた方が良いのではないですか?」
イケおじは堂々と胸を張って答えた。
「確かにあの作業は細かく、非常に重要な仕事です。
それなのに実務の人間たちと来たら、パソコンだの、訳のわからない関数だのと楽をしようとして…
あんなに何度も滅亡を繰り返す人類が生み出したものなど信用なりません。
現在の方法が、長く続けてきた最適なものなのです。
安易に方法を変えて、間違いが起こってはなりませんから」
あぁ
なるほどね
私はエンに言った。
「こいつはダメだ。頭が悪すぎる。解任しよう」
「なっ!!」
顔を真っ赤にし、怒りをあらわにする規律の眷属を見る私の目は、さぞかし冷ややかだっただろう。
【こぼれ話】
ムーン「イケメンでもひげをさわろうとするから思わずパンチしちゃった」
ねむ「スイは猫パンチうれしそうだったけどね」




