第67話:戦ってそれだけかなぁ
「ねぇ、なんで怠惰ちんはそんなに神力を集められるの?」
戦の神がこたつで暇つぶしにAIと将棋をしながら聞いてくる。すっかり拗ねてしまっているようだ。
「怠惰の神は先代も最強だったんでしょ?そういうもんなんじゃないの?」
「いや、先代も強かったけど、そこまでじゃなかったよ。君は他の代表神よりも頭一つ飛び抜けてるどころじゃないんだよ」
初めて聞きましたけど?
「それは…なんでだろうね?解像度の問題かもね?———知らんけど」
魔法の言葉「知らんけど」
なんて便利な言葉でしょう。
「解像度?」
戦の神は首を傾ける。この神、と言うか他の神々もだけど顔だけは良いんだよなぁ。スチルにしたら課金する人いっぱいいるだろうなぁ…
「凪、頭の中、話それてるよ」
たぬきにツッコまれて我に返る。いかんいかん。
「解像度っていうのはそうだなぁ…例えばさ、『ありのままの自分を愛されたい』っていう人間の感情って、どの神の神力になると思う?」
戦の神は腕組みをしながら考える。
「そりゃあ愛の神と…承認欲求の神じゃない?」
「と、思うじゃん。でもさ、要はそれって、『あなたのためになんの努力もしない自分でも愛して欲しい』『存在そのものを愛して欲しい』って言ってるようなもんじゃない?
そう考えると誰の神力にもなる?」
戦の神は、あらまっと口を抑えて答えた。
「怠惰だね」
私は頷く。
「そうなんだよね。多分そういうのを感じ取って勝手に集めてんじゃないかなぁ…知らんけど。
さっき戦の神はさ、自分の勢力を拡大したい、相手の勢力を貶めたい、根本が変わらないって言ってたけど、戦って本当にそれだけなのかな」
広い和室できなことおかきとドンがダラダラしている。あんなもふもふを前に、私には戦争を起こそうなんて気持ちは全くわからない。
アオくんがこちらにやってきた。
「さっき勝ったから、おにぎり食べていい?」
最近の我が家ではご褒美がおにぎりなのだ。
「いいよー!好きなの食べなよ。シャフくん、握ってあげてー」
先程のアオくんの走る姿が蘇る。あの子は他の子と違って地形を活かして走るから勝てるのだ。
賢いんだろうな。落魂が他の子よりも濃かったのかもしれない。
「あーーーー!!!!わかった!!」
突然の私の大声にうちのケモ耳たちが全員ビクゥッとした。
「ごめん…」
「何がわかったの?」
戦の神が机に頬をつけてこちらを見ている。
「いやね、確かに君の言う通り、戦の根本は変わらない。勢力争いだよ。でもさ、知略を巡らせること自体がもう戦なんじゃないの?どうしたら相手を貶められる?自分が優位に立てる?って。
戦うだけなら、武神の神力になるじゃん。そもそも、君が最初に言ってたじゃん。『ココ』で遊ぼうって」
私は前に戦の神が私に話しかけてきた時のように、こめかみを人差し指でトントンする。
「んー知略…戦術ってこと?兵法とかそう言う話?それならもうやっぱり表だった戦が起きていない以上意味ないよ?」
もう!人間界をちゃんと見てよね。
「シャフくん、おにぎり作り終わった?ちょっと君の部屋にいくよ」
私はシャフくん、戦の神と、シャフくんの部屋に向かう。
「ちょっと最近よくやってるFPSのゲームやったみて」
「え、こんな状態でランクマはいやですよ」
「カジュアルでもなんでも良いから!」
そんな会話を戦の神はなんのことかさっぱりだと言う顔をして聞いている。
「えふぴーえす…?らんくま?何言ってるの?」
「FPSっていうのは、一人称視点のシューティングゲームのこと。ほら見て、シャフくんがやってる画面には、自分が動かしてるキャラの手と前景しか写ってないでしょ」
ほうほう…と戦の神が黙って聞いている。
「で、まずこのゲームは、飛行機から降りるところから始まる。
マップ上の好きな場所に着地できるけど、他のプレイヤーも同じくそうするから被ることもある。
まず着陸したら、落ちてたり格納されている武器を漁って、装備を整える。武器は主に色んな種類の銃だったり、手榴弾だったり…
どこに何が落ちているかはわからないから、まずはあるもので戦って、防具も武器も徐々に倒した相手から奪ったり、拾ったりして、自分に合うように整えていくんだよ」
やばーい!弾がない!というシャフくんの言い訳は無視する。
「で、このマップのこの安全地帯がどんどん狭まっていく。どこに収束していくかはわからない。そこに向かいつつ、敵がいたら戦ったり逃げたりして、最後まで生き残ったら勝ち。
色んなマップがあるから、どう動くか、どう地形を活用するか、自分の使うキャラクターはどんなスキルを使えるのか、どのタイミングで発動するのか、逆に敵はどう出てくるのか、色んなことを考えながら生き残らないと勝てない。
さっき言ってたランクマはランクマッチって意味で、オンラインで世界中の人がマッチングして戦って、勝ったらポイントが増えていく、負けたら減っていく。そうやってポイントでランクがついていくんだよ。高ランク帯の人は高ランク帯の人としかマッチングしない。
————聞いてる?」
いつもの胡散臭い笑みが消えて、目を見開いて食い入るように画面を見ている。
薄紫の瞳が眼光を放ち、獲物を前にした蛇のような目だ。
「この…安全地帯がどこに収束するかはランダムなんだよね、きっと」
「たぶん?私もちょっとかじっただけだから知らなーい。法則があるのかもしれない。武器にも色々あって、射程距離や威力が違うんだよ。
あ、シャフくんそれもう負けるじゃん」
「これは…戦だね…」
「そうでしょ?こういうゲームはいっぱいあって、個人でやるのもあればチームでやるのもあるし、大会に出てお金を稼いでいるプロチームとかもあるんだよ。
あとは普通にスポーツなんかもそうじゃないかな?サッカーとかさすがに知ってるでしょ?何人をどこに配置するのか、相手に合わせた動き、そういうのって十分戦略、戦の神力になるんじゃない?ガチでやってる人はいっぱいいるよ」
戦の神は今も食い入るように画面を見ている。これは本人にもやらせた方が早いかもしれない。
しょうがないのでゲーミングPCをもう1台神力で作ってあげた。
「じゃ、シャフくん、あとはよろしく!」
これで戦の神の神力問題はなんとかなるんじゃなかろうか。
良いことしたなぁ…
居間に戻ると、時の神がまたしても号泣していた。
「グスッ…2度見ると…ぅぅっ…違う解釈も出てきて…余計悲じい………」
わかる、とてもわかる。解像度があがるとね、あの時どんな気持ちであのセリフを言ってたんだろうとか考えちゃうとね…
散々泣いたあと、時の神は帰って行った。
その夜…
「あぁ!!くっそ!!あとちょっとだったのに!」
「ここ!ここ!1枚ヤってる!」
シャフくんの部屋からする騒音がとにかく騒がしかった。寝れん。うるさい。いつ帰るんだ。
「「だぁぁあああぁっ!!!」」
もう!!
「うるっさいわ!!!」
シャフくんの部屋のドアを勢いよく開けて叱った、
———のだが…
「なんであそこで撃ち負けちゃうのかな。僕言ったよね?残弾数の管理大丈夫かって。回復ないなら渡すって。あそこでやり合うよりは先に安地の有利なとこおさえようって。
なのに余計なとこで撃ち合って弾を余計に使うわ、有利な地形も取られるわ…どういうこと?
あとスキル、ゲージ溜まったからってむやみやたらに使わないで。ほら、次いくよ」
私などおかまいなしに、シャフくんが正座して戦の神に説教されていた。
大変だ。戦の神が本領発揮している。うちのニートがプロになってしまいそうだ。
よし、ゲーミング部屋を家から離れたところに作ろう。これはもうとめられない。




