第65話:戦の神の隠し事
「え…?」
戦の神は、笑顔を保ったまま、首に手をやり、少し斜めの角度でこちらを見て聞き返してきた。
ふーん…神とはいえ人間と一緒なのかなぁ…
「知ってる?人間って、作り笑いをすると、左の口角の方が高く上がるんだよ。あとは誤魔化したいことがある時、首元に手を置いたりね。
今のあなたみたいにね」
これは人間由来の神だからそうなるのだろうか…自然由来の神々も一緒なんだろうか…今度試してみよう…
はぁああぁ…と戦の神は深いため息に、脳内トリップから引き戻された。
「なんで気づいたの?僕が神力に困ってるって。他の誰も気づいてないのに」
「んーまぁ色々あるけど確信したのはあの『イベント』に人間たちがきてたことかな。
あれは『戦』ではなかったでしょう。それなのにわざわざ自主的に取り仕切って、あんなに大勢を集めて。
『戦』って聞いた神隠し出身の人間たちから、神力を集めようとしたんじゃない?
ハクちゃんたちの賭け事は、集客と本当の狙いの目眩しってとこかな。
うまいことうちの子たちを使いましたなぁ」
「そこまでバレてましたか…」と戦の神が小さな声で言うと、「バレてましたねぇ」とアッシュが返事をしたので、「おやアッシュさん、なんのことかお分かりなんですか?」と聞くと、「ちっともわかりませんねぇ」と言うので、「でしょうねぇ」と、どうでもいいやり取りをして遊んでいた。
それを見ていた戦の神は、人間もそれくらいわかりやすければ良かったのに…と、夜空を流れる魂たちを見つめながら、改めて呟いた。
やっぱり問題はそこなのか。
「それで、何が聞きたいの?
私が学校で逆恨みで裏で女子たちに一致団結して無視されてたこと?
ブラック企業で、効率化しようとしたら止められて、働きすぎて身体壊して働けなくなった話?
結婚しなかったせいで裏で好きかって言われてたころの話
でもそんな小競り合い聞いても大して役に立たないでしょ?」
いま思えばどれもこれも、どうでもいいが、眷属に影響が出てるということは私の中に残っているのだろうなぁ。
全部返り討ちにしたのに…
「そう…なのかな。昔はさ、戦争はどんぱちやってたし、個人間の諍い、小さい組織内での内乱、そう言うのもわかりやすかったんだ。
だから人間たち自身も、戦を認識しやすかった。だけど今…一番神力が集まる、怠惰ちんのいた最難関の世界線では、事が水面下で動いていて、一部の人間しか認知できない。
他の世界線でもちょうど今、大きな戦の閑散期が重なってて、かつてないくらい神力が集まらないんだよ」
戦の神はそう言った。
せめて戦い、攻防がある、と人間が認知しないと神力として吸収できないのだろうか?
でもそれなら、スポーツからでもいくらでも生じている感情だろうし…
SNS上でだって起きている。水面下の不特定多数に紛れ込むことで、自分は『正しいことを言っているだけ』と、攻撃していることを自覚していないから、戦の神の神力にはカウントされていないのか?
国同士の戦争となると、確かに私がいた人間界では、世界大戦は、すでに始まり、常に起こっていると言われていた。しかし、戦場はネットやスパイを介した情報戦がメインだ。
私もその辺りの情報は流石に持っていない。困った…
そもそもその辺りの解像度が低いと、神力の吸収にまで影響するのか?
うーん…私が考えていると、戦の神は意外そうな顔をした。
「もしかして助けてくれるの?」
「え?助けるとまではいかないけど、手伝うことはできるよ。めんどくさくなければ。
伝わってなかった?あのイベントの時、天守閣を落として、紙飛行機の墜落も見せて、戦の神の顔を立てたのに」
思いつきではあったが、戦を彷彿させる様なネタを仕込んでいた。規律君が投擲機を作り出してたし…
「あれ、やっぱりそう言う事だったの?……ふはは…!ゾクゾクするね」
なんだこの神、変態か?
「まぁあのハクちゃんとシャフくんが一緒に小躍りするくらい大喜びしてたし、もふもふ応援団も見れたし。
何より一番めんどくさい規律の神を引き摺り出して場を整えるとこやってくれたし。恩には報いましょう」
そう言っている間に気がついた。うちにはネット界の申し子、シャフくんがいるではないか!
私はシャフ君の部屋に向かった。
「おーい!そこのチベスナニート!ちょっと頼みがある!」
ゲームをしていたシャフ君は、こちらを見もせず「昨日稼いだからニートじゃないもーん」と言い返してきた。
あれ?こいつ、私の眷属だよな…私に似てきていないか…?
「あのさ、シャフ君ハッキングとかそっち方面に強いじゃん?
いま水面下で人間界がどういう動きをして情報戦という名の戦争をしてるのかを、戦の神に教えてあげて欲しいんだけど。
ちょうど今各国SNSとかの情報操作とか色々激しく動いてると思うんだよねぇ。
報酬は戦の神から自力でもぎ取ってくれ」
そう頼むと、シャフ君はいいっすよと快く引き受けてくれた。そんなに昨日儲かったのかしら…でもこの子、天界のお金持ってても使い道ないのに…
ひとまず、明日から授業をするということで、戦の神は帰って行った。
あーぁ、なんやかんやちっともだらだらできないや。そう思いながら、縁側に戻ってアッシュの抜け毛をむしって八つ当たりするのだった。




