第56話:捨てられた世界
御神木様と会話ができるなら中にエレベーター作るとか、なんか色々できるんじゃないか?
あ、だめだだめだ。話がそれてしまう…無限に広がる思考を回収した。
「昔は御神木様と意思疎通できたんだよ。だから魂の処理の仕方を教えてもらえたんだ。
僕たちが決めたことを星に設定してくれたのも御神木様だ。
でも今は空っぽなんだよ。
たぶん、君たちで言うところの、プログラムされた機能が動いてるだけって感じなんだと思う。
見捨てられたんだよ。この天界は」
ふぅ、と息をついて水神様は続けた。
「病や紛争から逃れてどんなに上手く生きても、「寿命」として必ず誰にでも死がやってくることで、自分にとって善く生きることを目指し、死を恐れ、人間があらゆる感情を覚え始めた。
そして新しい神々が発生して天界が賑わい始めた。僕たちはそれを喜んで受け入れていたんだ。
でもある日、突然目の前で笑って話していた人間由来の神々が突然消えた。
一斉に、みんな悲鳴を上げることもなく、一瞬で消えたんだ。
原因は人間が滅んだことだってすぐにわかった。そこでようやく、僕たちは自分たちがしたことの重大さに気がついた。
僕たちは人間が滅びないように、色々と介入したりしてみたんだ。それでも何度も、何度も滅びてしまう。
その上、元々天界にいた動物が獣人化し始めた頃から御神木様とコミュニケーションが取れなくなった。だから今は、あくまで機能面だけ動いているんだよ。
この天界は、僕と時の神のせいで御神木様に見捨てられたんだ」
水神様は、誰にも言えなかったことを懺悔のように私に話した。
「ん?じゃあやりたい放題じゃん?」
「え?」
「いや、この天界って、何のためにあるんだろうなって思ってたんだよ。
もしかして生物のバックアップ機能か、何か私たちよりも大きい存在の箱庭とかなんじゃないかって。
なんて言うのかな、ほら、私がよくゲームで建築物作ったり住民を呼び込んだりして、ゲーム内に世界を作ってるじゃん。人間時代に、あんな風に自分が生きてるこの世界が、本当はゲームの中だったらどうしようとか考えたことあったんだけど、まさにそんな感じ。
動物が獣人化し始めた頃からってことは、もう生物のバックアップとして機能しないとか、バグったとか、もしくは飽きられたとか…
いずれにせよ見捨てられたなら、私たちの好きにすれば良くない?」
背後から、「そうかここが…ここがいわゆるフラグってやつだったのか…」と時の神がシャフ君に解説を受けている声が聞こえる。
水神様とのギャップがすごくて面白い。
水神様は、珍しく怯えた表情をした。
「でもそんなことしてたら、いつかここも滅んでしまうかもしれないよ?怖くないの?」
???
「人間として生きてた頃は、いつ大震災が起こるか、隕石が衝突するか、戦争が始まるか、病気になるか、事故に遭うか、どうやって、いつ死ぬかなんかわかんなかった。それと一緒でしょ?
いつか終わりは来るかもしれないし、来ないかもしれない。まぁ来ないに越したことはないけどね。
私はこの子たちとそれまでもふもふ平和に暮らせたらそれでいい」
とことこ歩いてきたおかきの頭を撫でる。
きなことドンはひそひそと、「これ聞いてなかったふりした方が良いのかな」と話している。
ふふふふと思わず笑ってしまう。
「内緒ね。特にアッシュはおしゃべりだから絶対だめ」と私はきなことドンに言う。
「なんか…やっぱり元人間は強いな。
前にほら、強盗事件があった時にさ、珍しく怒ってたでしょ。
君は完全に群れの中のボスだった。君を筆頭に群れが動いてたのを見て、こんなことができる神が他にいるだろうかって思ったんだ。
それで今回は『やりたい放題できるじゃん』なんて…
なんかずっと思い詰めてたのがバカみたいだよ」
水神様は、肩の荷が降りたようなスッキリした顔をしていた。
「このこと言ったら嫌われてこの家にはもう入れてもらえなくなるかと思ってたけど、時の神も出てきちゃったしもう白状するしかない!ってなったんだけど、嫌われなくて良かったー。
さ、時の神、交代してー。今日動物ドキュメンタルのシリーズの更新日だからー」
照れ隠しのように、そそくさと水神様は立ち上がって時の神の方に歩いて行った。
あの2柱は一体どれだけ長いこと背負ってきたんだろう。途中からお互いとすら意思疎通できなくなって…
ん?動物のドキュメンタル?
「待って、何そのチャンネル。有料?サブスク?
うわ!何で勝手に新しいの登録してるんですか!これ月額高いやつじゃん!」
「だってそのサブスクでしかこのシリーズ見れないんだもん」
「『だもん』じゃない!水神様のサブスク料金は私のお小遣い分から出てるんですからね!事前に許可取ってよ!許可しないけど」
「凪ー、身体拭いてぇ。時の神の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった」
ひぇええぇー!アッシュとたぬきの毛があぁああぁ!
「今日も我が家は賑やかでした」と、おかきがつぶやいているのが聞こえた。




