第4話:創世記と怠惰の神1
通された『外の応接間』というのは、地面に轢かれた分厚い絨毯に、大量のクッションが敷き詰められている。
ちょうど巨木の根っこ同士が丸く囲っている場所に作られたようだ。
中央には、ローテーブルの上に果物や軽食が用意されていた。
私は促されるまま座ると、もふもふたちは周囲の根っこの上に鎮座して見下ろしている。
おかきは私のすぐそばにいてくれた。
私は、おかきの手をぷにぷにしながら「まず、あなたたちは誰ですか?」と聞いてみた。
リクガメの手は、表面は硬いのに、ぷにぷにしていてたまらないのだ。
見事なスライディング土下座を見せてくれた赤髪が答えた。
「まず、私は炎、金髪の彼が大地、ふわっとしている彼女が風、水色のゆるっとしてるのが水を司る神の眷属でございます」
ほう!
「名前はないのですか?」と聞いてみると、特に個体名はないと言われた。
不便なので、炎、大地、水、風と、とりあえず呼ぶことにした。
そして改めてエンが話し始めた。
「まずは此度の件、御身の尊厳を損なうような事態を招きましたこと、深く、深く陳謝いたします。
我らの愚かしさゆえ、多大なるご心労をおかけし、もはやどのような言葉を尽くしても、この罪過を贖うには足りぬと存じております…」
んー長い!!
「あの、普通に話してもらえますか?
丁寧すぎて長くてまどろっこしくて…
それに私が暮らしていた国は、自然を祀る文化があったので、正直あなたたちに敬われるのが居心地が悪くて」
と私は話を遮った。
しかし、「そう言うわけには…」と拒否された。
「じゃあ、神様?命令ってことで敬語なしで。
あと謝罪はもういらないから、状況を説明してほしい」
こう言えば逆らえないはずだ。
少しの沈黙の後、覚悟したように「わかった」と了承してくれた。
フウが今度は話し始める。
「本来は、規律や秩序を司る神の眷属が朝会にはいるのだけど、今日は何故か入れなかったのよねぇ。
この周囲一帯に入ろうとすると、何も見えないのに壁があるとか言って…私たちも内側から引っ張ってみたんだけど、本当に指先すら何かに弾かれたのよ」
「結界はったからねぇ」とおかきの声がする。
「え?なんで?」とおかきを見る。
というかそんなことできるの?
さすが防御特化の亀だ。
「あいつがいると邪魔だったからぁ。
凪が嫌いなタイプだし、規律の力が近くにあると、凪がこっち来れなくなっちゃうからさぁ」
え、嫌いなタイプ…?
脳内お花畑とか?
それともお局嫌がらせ系?
セクハラ親父なら処すまでだし…
根性論系か…?
融通効かないお役所系タイプか?
それにしても規律の力か…
本来儀式が必要って言ってたやつかな
「つまり、私が儀式なしでここにくるには、規律の力を無効化しておく必要があって、近寄れないように結界を張って、その人だけ中に入れなくしたってこと?」
と声に出して言うと、
おかきはゆっくりうなずいた。
「……だそうです。」
私の声だけは他の人にも聞こえているから伝わったはずだ。
「そんなことができるのですね」とスイが目を細めて言う。
先ほどから、スイはうちの子たちに興味があるようだ。触りたそうに、ソワソワしている。
生命の母は海っていうもんな。
生物が好きなのかな。
仲良くなれそうだ。
「それで、怠惰の神って何のことなんですか?上位の神とか言ってましたけど…なまけものが何で上位に?」
続いてダイチが説明してくれる。
「歴史と構造から説明した方がいいだろう。
まず、怠惰様がいた星が誕生した時点で、この天界も同時に発生したと言われている。
その頃は我らの主人である4柱と、時の神だけがいた。
星が成長するにつれ、生命が生まれた。
そして、世界を細かく切り取り、カテゴライズする生物が生まれた。
それが人間だ。
進化の過程で、人間はどんどん『言語』を用いて概念を生み出し、繊細なコミュニケーションをとるようになった。
群れで暮らす生物が、そんなことをすれば、どうしたって摩擦が起き始める。
生き残るため、子孫を残すため、
あらゆる欲や感情が認識されるようになった。
そして、その欲や感情をこの御神木様が吸い上げた結果、人間の精神を源にしたあらゆる神々が発生し始めた。
人間が欲や感情、文明を発達させればさせるほど、その新しく生まれた人間由来の神々の神力は強くなった。
しかし、時が流れ…
戦争、環境破壊、文明の限界がきて人類は滅びた。
その瞬間…
新たに生まれた人間由来の神々も一緒に滅亡した。
そして新たにまた人類が発生し、また滅びた。
それを繰り返した。
何度も、何度も。
その度に消える神々を憐れんだ5柱が、力を合わせて、時間軸をずらしながら、複数の世界線を作った。
時間をずらすことで、どこかの世界線では人類が存在しているという状態を保つことで、新しい神々が消えなくて済むようにした」
「ほぇ〜…
でもさ、何でそもそも人間が滅びないように救済しなかったの?神様なのに」
そう言うと、4人は不思議そうな顔をした。
スイが言う。
「人間は、文明を発達させるほどに、
大地を、海を、空を汚す動物です。
人類が不在の浄化期間が星には必要です」
フウがそれに続く。
「5柱にとって大事なのは、人間由来の神々が消えなくて済むようにすることで、特定の人類が滅びようが、関係なかったしね。
人間由来の神々は、面白くて別れは本当につらかったわ。
もう直ぐ『その時』だって、星を見ていれば自然由来の神々にはわかっていたから」
なるほど…
余命宣告を本人たちは知らずに、自分たちだけが知っているような状態というのは残酷だ。
現状は、神々にとっては、とても良くできたシステムだ。
1人感心していると、ダイチが話を本題に戻した。
「それで、どの世界線においても、
休みたい、楽をしたい、だらだらしたい、ぼーっとしていたい、ねむりたい、何もしたくない、安らぎたい、といったような感情が1番集まる。
その分だけ神力となるんだ。
単なる『なまけもの』とはくくれないが、便宜上、『怠惰』と名付けている。
だから、人間由来の神々の中で最も神力が強い。
それが上位の神ということだ」
めっちゃわかるぅ…
疲れすぎてると3大欲求すらわかないもんね。
社畜経験者としては痛いほどわかる。
宝くじ当たんないかなーと言う感情も金欲かと思いきや、要は『楽に手に入れたい』と言うのが根っこだもんな…
改めて考えると、あらゆる感情が『怠惰』につながるな…
私、最強では?
「なんにもしなくても、御神木様が私の神力を集めてくれるんでしょ?
ただこの子達と、もふもふだらだらしてればいいなんて…
天国かよ!」
と歓喜の私に、エンが言う。
「いや、神力の分与えられた土地の管理と運営がある。広大な分、大変だぞ」
…………えっ
【こぼれ話】
スイ「正直あの時は後任の怠惰様とかいったん置いておいて神獣様たちと戯れたくて仕方なかった」




