第3話:生きづらかった原因と正体
手違い
手違いねぇ…
その言葉を聞いた時、真っ先に腑に落ちたのは、生前の母親がいつものようにヒステリーを起こした際に放った一言だった。
「3人目なんて想定外だったのよ!!」
彼女が3人兄妹の末っ子の私にそう罵ったことがあった。
いや!知らんがなー!!!
と内心全力でツッコんだ。
母は身体が弱く、父は転勤族で仕事も忙しく、家にあまりいなかった。
母は見知らぬ土地で、ワンオペで子供を3人育てていた。
育児ノイローゼってやつだろう。
自分がつらい分だけ、1番幼く反抗しない私によく当たり散らした。
幼少期から繰り返されたが、私には申し訳なさそうに笑顔を浮かべるしかできなかった。
「まぁそりゃ八つ当たりもしたくなるわなぁ」と思っていたが、大人になってから考えると自分の機嫌は自分でとってほしいものだった
母の地雷を踏まないように、常に機嫌や顔色を窺い、
息を潜めて円満な家族を保とうと道化のように務める日々。
母は私につらく当たった日は、寝ている私のところに来て、深いため息と共に私の頭を優しく撫でた。
彼女なりの懺悔と後悔。
自己嫌悪で壊れてしまいそうなことが、彼女の手のひらから伝わり、幼いながらにも理解できてしまった。
サンドバッグにされる私の痛みは、彼女にぶつけることもできず、自分の中で処理していくしかなかった。
そうこうしているうちに、私は心を守るために、現実から心を引き剥がして離人症的なものになってしまったと思っていた。
診断を受けたわけではない。
そこまでする興味もなかったしね。
いや通りでねぇ…
完璧主義で神経質、きっちりした彼女が『想定外の子』なんておかしいと思ったんだ。
「なるほどねぇ。
私は想定外にできた子らしかったけど、それってこの手違いのせいだったってこと?
現実にうまく馴染めなかったのも、人間じゃなかったからってこと?」
怒るでもなく、泣くでもなく、ただそう静かに問いかける私に、4人はただただ、ひざまずき、うつむいていた。
沈黙は肯定。
あの絶望的に不幸というわけでもなく、
かといって満ち足りた人生でもない、
他人を信用することも心を開くこともなく、
何をしても希薄な現実味、
周囲との残酷なまでの温度差、
いつもどこか違和感がある。
生きづらさに苦しんだあの100年が手違いかー!
私が自立してからの母は、とても穏やかな人だった。
私の家族も巻き添えの被害者。
まぁ1番の被害者は私だけどね?
そして死後の今、本来儀式が必要なはずなのに朝礼中に現れてしまった。
まさかこれもまた、手違いじゃないの…?
「凪は凪だよ!ぼくたちを助けてくれたでしょ!」
アッシュの言葉が脳内に響く。
たぬきの尻尾も降りてきた。
そうだ、生前に愛するこの子たちに出会い、そして再会できたことは揺るぎようがない。
抱きしめた尻尾の温もりが確かな証拠だ。
私は尻尾に顔を擦り寄せる。
それにしてもいい毛並みだな。
何食べてんだろ。
「ちょっと、どこかで詳しい話を聞けますか?ここは広すぎて落ち着かないし」
そう言うと、金髪の筋肉が「それでは1番現状がわかりやすい外の応接間に行きましょう」と答え、案内をしてくれることとなった。
そして私は今、ずーっと螺旋の階段を降りている。
エレベーターはないのか?
天界なんだし、転移とかあったっていい。
歩くのがめんどくさくなってきた。
あの場で話を聞けばよかったかなぁと考えていると、巨大なドンに咥えて持ち上げられた。
「ドンさんや、宙ぶらりんはちょっとつらいよ」と伝えると、ドンはアッシュの背中にポイっと私を乗せた。
おぉ!快適快適ぃ!!ふかふかだ…
これは冬毛だな…季節があるのか?
というか私たちはどれだけ高いところにいたんだろう。
朝礼ってことはこの階段を上り下りして定期的に集まってるのかな…
だるー!!
想像しただけでサボりたくなる。
そうこうしているうちに、外に出た。
今は夕暮れ時のようだ。
私はただただ、目の前の光景に圧倒された。
私たちは、とんでもなく大きな木の中にいたようだ。
しかも、その木は透き通っている。
柔らかいクリスタルとでもいうのだろうか、見たことのない素材だった。
枝葉は風に優しくなびいている。
頑丈な根が張り巡らされ、一体どこまで伸びているのか見当がつかなかった。
夕日に照らされ、煌めく巨木はどんな言葉を使っても描写できない。
湖の真ん中に丘のような島ができていて、そこにこの巨木があるようだ。
水面に夕陽が反射して、巨木が揺らめいて見える。
どうやら本当に私は、とんでもないところに来てしまったらしい。
「怠惰様、こちらでございます」
あ、はい と我に帰る
お?
怠惰様って言った?
たいだってあの怠惰?
なまけもの?
上位の神って話は!?
聞いてたんと違う!!!
【こぼれ話】
ムーン「子供の頃の凪を癒していたのはこの私!」
ねむ「ゴロゴロ音効果すごいよねぇ」




