第34話:初めての商業地区
私は50万リーフを持って咲さんのところに来ていた。
カピバラーズに知識を与え、お世話になっていたこと、銭湯事業を軌道に乗せてくれたこととしてのボーナス付与だ。
咲さんは、最初は遠慮していたが、喜んで受け取ってくれた。
「これで欲しかった小説シリーズが大人買いできます!」
あ…人間界のお金は守銭奴が……
リーフとは換金できないし…
「ごめん、人間界の本は買えないんだ…」と伝えると、天界の本だと言われた。
「え!?天界の小説があるの!?」と思わず大きな声が出る。
「ありますよ!絵画とかもあるし。
ほら、秋エリアって芸術の神様がいるじゃないですか。あそこに雇われた人間たちや先住生物の人たちとかが色々作って、商業地区で売ってるんですよ」
目から鱗だった。
「ちょっと行ったみたいな…」と呟くと、「じゃあ今から行きましょう!」と即断された。
この人、何でこんなにフットワーク軽くて、ハキハキしてるのに友達いないんだろう…
私はいったん、ドンを連れていくことにした。
カピバラーズは、自分たちはお留守番しているが、銭湯に使えそうなものがあったら買ってきてほしいと、我が家の露天風呂から声をかけてきた。
ハクちゃんから、今日自分と家用と、銭湯事業の分として、使っていいお小遣いを分けて2袋渡された。
銭湯用の袋の方が重いのが何だか切ない。
で、どうやって行くのかと聞くと、徒歩だと言う。
それはちょっと話が違ってくるなー!
バスとかなんか最悪乗合馬車みたいなのがないとなー!
あ、ドンに乗ればいいじゃん。
「すっごい考えてることがお顔に出てますけど、すぐ着きますから安心してください。コツがあるんです。
天界って御神木様を中心に、時計回りにエリアの季節が進んでいきますよね?なので、時計回りに逆らわないように、斜めに御神木様から離れるように突っ切って進んでいくと、商業地区やその向こうの居住地区まですぐに着くんです。
逆に、反時計回りで動くと、すっごい抵抗を喰らうと言うか遅くなります。
あ、でも神様たちには適用外だったような…」
次から次に新ルールが出てくる…
時の神と御神木様と関係がありそうだな。それなら時計回りに歩く歩道とかできるんじゃないか…?
ひとまず、今日は人間の咲さんが一緒なので、ルール通り斜めに秋エリアを突っ切って、商業地区に向かった。
体感1時間くらいだろうか。
徒歩1時間は全然すぐって言わないんだよ…
それにしても…なんか臭う…
他の神のエリアのトイレ問題だろうか…
秋エリアは、浄化スライム義務を課そうか…
そんなことを考えていると、目的地についたようだ。
元々冬に近い秋エリアの領地から時計回りに斜めに出発したので、冬エリアの商業地区らしい。
朝市のように出店が並んでいる。
「ね!早かったでしょ?10分くらいですかね?」
何を言っているんだこの人は…?
あ、『神様たちには適用外』は、時計回りに進むと早いっていうのも適用外なんじゃないか?
着いた時点でももう疲れた…
満員電車で出社した時点で、もう帰りたい時みたい…
「ジャーキー!!凪っ!!ジャーキー!!」
ぅおおおおぉ!!
一応リードをつけてきたため、とんでもないスピードで引きづられた。
肉屋の前に連れてこられた。
「あ、あの…ジャーキーはありますか…あと骨とか……」
息も絶え絶えである。
肉屋のおばちゃんが、「犬科の獣人用のでいいのかい…?というか…あんた人間かい…?その連れているのは…?」と、戸惑っている。
そうか、天界には完全な犬がもういないのか。
何で私が人間じゃないって分かったんだろう?
「いや、私は神で、この子は犬の神獣。あ、別に気を使わなくていいよ。ここではただの客だから!やっぱ冬エリアだから保存食が多いね?」
「へっ!?」
おばちゃんが、カチコチに固まった。
「だから気にしなくって良いよぉ。おばちゃんのおすすめどれ?」
「あ、えっと、これとこれかね?」
「じゃあそれちょうだい!この子みたいな子が他にもいっぱいいるから、いっぱい欲しいなぁ…ここにある分、全部だといくら?」
「全部!?えっと………22,000リーフだね」
「んんー!これからも通うから15,000でどう!?」
「赤字になっちまうよ!21,000リーフ!」
「んー…!!もうひとこえ!!」
「んーじゃあ2万リーフでどうだい!?その代わり、絶対また来ておくれよ!」
「わーい!ありがとう!!また来るよ」
気づいたらドンがもう齧り付いている。よほど美味しいらしい。
ドンが幸せそうで何よりだ。
ニッコニコで見ていると、周囲に人が集まっていることに気づいた。
人混みをかき分けて、咲さんが来た。
「凪さん…神が値切るなんて前代未聞ですよ…普通権力を見せつけるために『釣りはいらない』くらいの姿を見せないと…」
え…?
だってうち、お小遣い制だし…




