【第32話】勧誘大戦争で放課後ハプニング!
和希たちが通う、私立伊邪那岐学園の放課後は、穏やかな夕暮れとは程遠い、熱気と騒がしい声の渦に包まれていた。
ベルリナが転校してきて、初めての放課後。
彼女とリリシアという、誰もが目を見張るような美しい姉妹が同じ教室に居るという事実は、学園の中にある全ての部活に、衝撃を与えていた。
それは喉から手が出るほど、欲しい人材の登場でもあった。
俺、神代和希は、教室から出た瞬間から、後に三人の美少女を連れて歩く保護者のような役割を担う羽目になっていた。
「面白いことになりそうね!」
咲季が興味を示してついてくる。
「和希、今日の放課後は、部活の見学をするのよね? 私、新たな経験と出会えるのを、楽しみにしているのよ」
リリシアが胸を弾ませて、優しく笑う。
「和希! 私、お姉様と一緒の部活がいいわ。この学園で、一番楽しい場所を探しなさい! 私を退屈させたら、分かっているわね?」
ベルリナも、腕を組んで上から目線で、俺に指示を出す。
ステラは、無表情のまま、俺の歩幅に合わせて、一定の距離を保つ。
「マスター、部活への参加は、情報を集めるのに役立ちます。……ただ、怪しい誘いには、私が厳しくチェックをしますから」
「……頼むから、平和に見学だけにしてくれよ」
そんな俺の願いも虚しく、廊下に出た瞬間、運動部や文化部の代表たちが、獲物を狙うような顔で立ちふさがった。
「リリシアさん! ベルリナさん! 私たちの陸上部へ! 練習すれば、全国だって夢じゃないですよ!」
「待て、美人は茶道部だ! その動きを見れば、分かる!」
「君たち、その静かな雰囲気……科学部の研究員に向いてるぞ! ぜひ実験に!」
――こうして、伊邪那岐学園で、未曾有の勧誘大戦争が幕を開けた。
まずは、校庭に連れ去られたステラだった。
サッカー部の部員たちが、ボールを差し出して誘う。
「君、その涼しい顔で、マネージャーをやってみないか? ……あ、ちょっとボールも蹴って見てみなよ!」
ステラは首を傾げる。
「……シュートですね。分かりました」
ステラは、ボールを地面に置き、微かな動きで足を振り抜いた。
その一撃は、人間の足の力では到底無理な速さで、空気を裂いた。
ドォォォォン!!
ボールは、ゴールネットを突き破り、後方の防球ネットすら貫いて、校舎の壁に深い傷を残した。
「……計算のミスでした。力をもっと弱くするべきでしたね」
静まり返るサッカー部。
部員たちは、恐怖で固まってしまう。
俺とリリシアは、顔を見合わせて、必死の言い訳を考える。
「あ、あの……彼女、最近筋トレにハマってて……体操の影響かな!」
「そうそう! 和希の練習のおかげだわ! それに彼女が蹴った瞬間に突風が吹いていましたよ。本当に!......老朽化も問題ね......」
隣で、咲季がクスクスと肩を震わせている。
「ふふっ、ステラちゃん、最高よ。今度は私の護身術を教えてあげようかしら?」
次は、野球部に捕まったベルリナだ。
無理矢りマネージャーの服を着せられ、グランドに立たされる。
「君、可愛いから俺たちののヤル気も上がるよ!」
ベルリナは、マウンドに立つと、呆れたように鼻を鳴らす。
「貴方たち……私を出汁につかおうとするなんて、分きまえないにも程があるわ。……どうせなら、あの球を投げる役目がいいわ!
私の魔術を目に焼き付けなさい!」
「要はアイツを倒せばいいんでしょっ!」
ベルリナは、ボールを握るのではなく、捕手に向けて手をかざした。
「……虚空より滴りし赤き怒り。全てを融かして形を失い焼き払え!......赫き絶望!......ファイアーボール......!!」
ベルリナの声と共に、ボールに魔力が纏い、凄い音を立てて炎の塊となって、捕手のミットを焦がし後方まで吹き飛ばしてしまう!
野球部は全員固まる。
幸い魔力の残量が少なかったので大事には至らなかった......。
「消火だ! 消火!!早く誰か消化器を持って来い!」
俺は、騒ぐ部員たちに向かってまた苦しい言い訳をするはめになる。
「あー! 彼女、手品が趣味で炭酸ガスを使った演出です!」
「カズキの言う通り、これは学芸会の練習なの! 危なくないですから!」
リリシアも慌ててフォローしてくれる。
その後ろで咲季が笑いを堪えきれずに俺たちの背中を叩く。
「あそこで、ファイアーボールを放つなんてベルリナ、あなた最高ね!」
「咲季さん、揶揄わないでください......」
ベルリナが顔を赤くしてリリシアの後ろに隠れる。
そして、最後に、リリシアが合唱部に誘われる。
リリシアは歌うことは好きだが、彼女が歌うと、学園中に突然、花が咲き乱れる事態に発展する。
「リリシアさん、先ずはこの合唱曲を一緒に歌いましょう! その後、ソロパートを任せますね!」
リリシアが一言、口を開こうとした瞬間、風が止まった。
花が舞い、鳥が集まる。彼女が歌うたび、学園中に花が咲き乱れ、まるで楽園のような景色が広がる。
俺は、必死にリリシアの口を覆った。
「彼女の実家はお金持ちでほんのサプライズ演出をさせてもらいました......」
咲季が笑い出す。
「あはは! リリシアさんの歌を聴いたら、この学園が楽園になって機能しなくなっちゃうわね!」
この騒動を通じて、彼女たちは、一躍有名人になり生徒たちの心を掴んでしまった。
部活の勧誘は、いつしか「彼女たちの凄さを見に行こう」という、見学ツアーに変わっていた。
俺は、休む間もなく説得と言い訳に走り回り、喉がカラカラになっていた。
日が落ちるころにようやく、勧誘の波が落ち着いた。
教室に戻った俺たちは、疲れ切っていた。
「和希、大変だったね。……私たちのせいで、ごめんね」
リリシアが言う。
「気にしなくていいよ、リリシア。君たちは、悪くないから」
ベルリナも、机に突っ伏している。
「……思ったよりも、学園って、面白いんだね。……でも、お姉様と一緒にいられることが一番楽しいわ」
ベルリナは、小声で言い、顔を赤くした。
俺は、二人の姿を見て、安心した。
そして次の日の放課後。
そろそろ、本題の、部活を決めなければならない。
俺たちは、再び部活の体験を再開した。
リリシアとベルリナは、図書室の一角にある「文芸部」の部室を訪れた。
そこは、他の部活と違って、非常に静かで、落ち着いた空気が流れていた。
読書が好きなリリシアにとって、心の癒しとなる場所だ。
ベルリナも、姉と一緒に、静かに本を読むことができるので、納得した様子だ。
「ここなら、お姉様の隣で、ゆっくりできるわね。……和希、私たちは、ここにするわ」
リリシアも頷く。
「ええ。ここなら、心を込めて、物語を紡ぐことができそうです」
最後は、ステラを連れて、理科室にある「科学部」へ行った。
ステラは、複雑な実験器具を目にして、初めて、興味を持ったようだ。
ステラは、部長の熱心な誘いに応じて、部員として活動することになった。
「マスター...... この部活は、私の力を活かせる可能性が高いです。…… ここで学び、マスターのためになることを、したいです」
ステラが真剣な顔で言う。
……俺は、入部手続きの用紙を提出してやり、安心の息を漏らした。
ようやく、いつもの時間が戻ってきた。
夕方の学園の廊下は、オレンジ色の光に照らされていた。
咲季が、俺の隣で、冷たい飲み物を差し出した。
「お疲れ様、和希くん。……今日の騒動も、結果的には、皆なが納得できる場所に落ち着いたわね」
俺は校門近くのベンチに咲季を座らせ皆んなを待った。
咲季は、俺との時間が嬉しいのか優しい顔で笑った。
俺は、咲季の笑顔を見て、心の底から、安心した。
波乱な一日だったけど、リリシアたちは、自分の居場所を見つけたんだ。
「カズキ。......マスター。......和希。......」
三人が手を振りながら掛けてくる。
「さぁ、帰って食事にしよう」
夕日を背に、俺たちの絆は、明日へと、向かって、より深さを増していく。
和希たちの物語は、まだまだ、これからだ。
(第33話へ続く)




