表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/34

【第30話】神代家の温かな夜と新な約束


 (むらさき)(いろ)()まっていた(そら)が、(うそ)のように()(わた)った夜空(よぞら)へと(もど)る。激闘(げきとう)余韻(よいん)()れていた神代(かみしろ)()(にわ)は、(ふたた)(おだ)やかな静寂(せいじゃく)(つつ)まれていた。


 魔王(まおう)支配(しはい)から()(はな)たれたベルリナは、リリシアの(うで)(なか)で、安心(あんしん)したように(ふか)吐息(といき)をついている。


「……お姉様(ねえさま)本当(ほんとう)に、お姉様(ねえさま)なのね」


 ベルリナの(ひとみ)には、もう漆黒(しっこく)()(もん)()えない。(もと)()(とお)った(あお)(ひとみ)が、リリシアの(なみだ)()れた(かお)(うつ)()していた。


「ええ、本当(ほんとう)よ。もう、どこにも()かないわ」


 リリシアは(いとお)しそうに(いもうと)(ほほ)()でる。その光景(こうけい)を、(おれ)安堵(あんど)(とも)見守(みまも)っていた。


 (たたか)いは()わった。(おれ)たちの日常(にちじょう)は、(まも)られたのだ。


 (いえ)(なか)(もど)ると、そこにはいつもの、(あたた)かくて(やわ)らかな空気(くうき)(なが)れていた。


 (たたか)直後(ちょくご)高揚感(こうようかん)と、安心感(あんしんかん)()ざり()って、(おれ)たちの(こころ)()たしていく。


 キッチンでは、ステラが手慣(てな)れた様子(ようす)(あたた)かい紅茶(こうちゃ)()れてくれている。彼女(かのじょ)(うご)きには、機械的(きかいてき)(つめ)たさなんて一欠片(ひとかけら)もない。そこにあるのは、(おれ)たちに(やす)らぎを(あた)えようとする、少女(しょうじょ)(やさ)しさだ。


「マスター。紅茶(こうちゃ)です。……(あつ)いので、()をつけて()んでくださいね」


 ステラは(すこ)しだけ(ほほ)()めながら、(おれ)湯気(ゆげ)()つカップを()()す。彼女(かのじょ)(ひとみ)には、(おれ)への信頼(しんらい)と、一緒(いっしょ)()きていきたいという(ねが)いが、素直(すなお)宿(やど)っていた。


「ありがとう、ステラ。……本当(ほんとう)に、美味(おい)しそうだな」


 (おれ)がそう()ってカップを()()ると、ステラは(うれ)しそうに()(ほそ)めた。彼女(かのじょ)は、(おれ)(よろこ)んでくれるだけで、自分(じぶん)(しあわ)せになれると()っているんだ。


 一方(いっぽう)、リビングのソファでは、咲季(サキ)がベルリナに、今日(きょう)(にわ)(ひろ)ったというレオパードゲッコーの(はなし)(たの)しそうに()かせている。


本当(ほんとう)に、綺麗(きれい)模様(もよう)でしょう? (わたし)ね、この()()つけた(とき)本当(ほんとう)運命(うんめい)(かん)じたのよ!」


 咲季(サキ)は、キラキラとした(ひとみ)(かた)る。彼女(かのじょ)言葉(ことば)端々(はしばし)から、(いのち)(いつく)しむ(こころ)(つた)わってくる。彼女(かのじょ)妖艶(ようえん)()みは、(いま)(やさ)しい母親(ははおや)のような包容力(ほうようりょく)()ちていた。


 ベルリナも、咲季(サキ)(はなし)(みみ)(かたむ)け、(すこ)しだけ表情(ふょうじょう)(ゆる)める。彼女(かのじょ)もまた、魔王(まおう)(のろ)いから解放(かいほう)され、(ひと)としての感情(かんじょう)()(もど)しつつあるのだ。


 (たたか)いの余韻(よいん)()()り、今日(きょう)という()()()いた安堵(あんど)が、この(いえ)(つつ)()んでいる。


 キッチンに()った、(おれ)

 ()んなの(つか)れた(こころ)(からだ)(いや)すための、特製(とくせい)煮込(にこ)料理(りょうり)準備(じゅんび)している。


 (なべ)(なか)では、厳選(げんせん)された野菜(やさい)(にく)が、じっくりと()(とお)され、黄金色(こがねいろ)出汁(だし)複雑(ふくざつ)旨味(うまみ)(かな)でている。


 (おれ)は、()べらでスープを撹拌(かくはん)する。湯気(ゆげ)(かお)()れ、芳醇(ほうじゅん)(かお)りがキッチンに充満(じゅうまん)していく。


 料理(りょうり)とは、ただの作業(さぎょう)じゃない。(おれ)存在(そんざい)を、この世界(せかい)(つな)()めるための、大切(たいせつ)儀式(ぎしき)なのだ。


 (なべ)(ふた)(ひら)いた瞬間(しゅんかん)

 (しろ)蒸気(じょうき)のカーテンの()こう(がわ)で、(つや)やかな具材(ぐざい)(おど)るように(かがや)いた。


 (おれ)は、最後(さいご)(かく)(あじ)となる香草(こうそう)()らした。(みどり)(あざ)やかな(いろど)りが、料理(りょうり)(いのち)()()む。


「できたぞ。みんな」


 (おれ)(さら)(なら)(はじ)めると、リビングからは、和気藹々(わきあいあい)とした(わら)(ごえ)()こえてきた。


 リビングに(かお)()すと、そこにはリリシア、ステラ、咲季(サキ)、そして(あら)たな家族(かぞく)となったベルリナの姿(すがた)があった。


 ベルリナは、まだ(すこ)()れない様子(ようす)で、リリシアの(となり)(すわ)っている。


「……(なに)よ、その(どろ)まみれのジャガイモみたいな男は!?」 


 ベルリナが、(おれ)をじっと()つめて、(かお)(ひそ)めた。


 その表情(ひょうじょう)、その(つめ)やかな侮蔑(ぶべつ)(ひび)き。


 ――(おれ)は、(おも)わず(いき)()んだ。


 (はじ)めてリリシアと()った(とき)彼女(かのじょ)(おれ)容姿(ようし)をけなした、あの高慢(こうまん)反応(はんのう)と、(まった)(おな)じだったからだ。


「ああ……」


 (おれ)苦笑(くしょう)した。

 (なに)()らなくても、その(しん)にある傲慢(ごうまん)さと、裏返(うらがえ)しにある純粋(じゅんすい)さは、姉妹(しまい)そのものだ。


「ベルリナ、失礼(しつれい)ですよ!この(ひと)があなたを(すく)ってくれたこの(いえ)(あるじ)(わたし)大切(たいせつ)(ひと)......カズキよ」


「初めましてでいいのかな?......ベルリナ......それにしてもリリシアと(まった)(おな)じことを()うから(おどろ)いたよ......」


 (おれ)言葉(ことば)に、リリシアがハッとして()まり(わる)そうに(かお)()らした。


「……姉様(ねえさま)が、こんな……(へん)人間(にんげん)(もと)に? (しん)じられないわ」


 ベルリナの悪態(あくたい)は、リリシアが(おれ)()かれていく過程(かてい)で、最初(さいしょ)()せた感情(かんじょう)(かさ)なる。


「……いや、()てよ。リリシアと(おな)じ......」


 そう気付(きず)いたときだった!


 ベルリナの顔色(かおいろ)が、(きゅう)蒼白(そうはく)()わった。

 彼女(かのじょ)()()がろうとして、その(ひざ)(ふる)え、ガクリと(くず)()ちた。


「……ッ! 身体(からだ)が……(うご)かない……!」


「ベルリナ!」


 リリシアが()()んで、彼女(かのじょ)(ささ)える。


 ステラが(はや)くもベルリナの手首(てくび)()り、魔力(まりょく)脈動(みゃくどう)診断(しんだん)した。


「……駄目(だめ)です。この世界(せかい)には、彼女(かのじょ)たちの魔力(まりょく)(みなもと)がない。…… リリシアさん同様(どうよう)、このままでは彼女(かのじょ)存在(そんざい)維持(いじ)することができません!」


 ステラの指摘(してき)に、リリシアの(かお)から()()()いた。


 (おれ)(むね)に、(するど)痛み(いたみ)(はし)る。


「カズキ……(わたし)、どうすれば……」


 リリシアが、(ふる)える(こえ)(おれ)(たす)けを(もと)める。


 姉妹(しまい)だからこそ、(おれ)との接吻(くちずけ)による(あい)供給(きゅうきょう)(ゆる)されない。


 だが、彼女(かのじょ)には、(あい)供給(きゅうきょう)が必要なのだ!


 接吻(くちずけ)以外(いがい)方法(ほうほう)......。


 「和希(かずき)くん、リリシアさんが()ってる(あい)のドロップよ!」


 咲季(さき)(おれ)躊躇(ちゅうちょ)している理由(りゆう)気付(きず)(こえ)をあげる。


可能性(かのうせい)(ひく)いけどリリシアさんと姉妹(しまい)のベルリナさんなら効果(こうか)があるかもしれないわ」!


「……()べるんだ。これなら、お(ねえ)さんの(あい)が、エネルギーとして(きみ)(ささ)えてくれるはずだ」!


 ベルリナは、(おそ)(おそ)るドロップを(くち)(はこ)()みこんだ。


 ......その瞬間(しゅんかん)


 ベルリナの表情(ふょうじょう)が、(おどろ)きに()わった。


「……ッ。(あたた)かい……。(からだ)(おく)から、(なに)かが()ちて()るわ……」


 ベルリナの(ほほ)()()(もど)ってくる。


 それは、(たん)なる供給(きょうきゅう)ではない。姉妹(しまい)(あい)という、(かたち)のない(たましい)のエネルギーそのもの。


 咲季(サキ)が、安心(あんしん)したように、(おれ)(となり)(かた)()()ろした。


 ステラも、データ(じょう)ではない本当(ほんとう)(しあわ)せに、(ほほ)()めている。


 リリシアが、ベルリナを()()めながら、(おれ)()(わら)った。


 (はじ)めて()った(とき)の、あの()すような(つめ)たさは、もうどこにもない。


 そこにあるのは、家族(かぞく)としての、(あたた)かい(きずな)だけだ。


「……ありがとう、カズキ。貴方(あなた)(つく)ってくれたこの場所(ばしょ)が、(わたし)たちの唯一(ゆいいつ)(かえ)(いえ)よ」


 ベルリナも、(すこ)しだけ()ずかしそうに、でも本当(ほんとう)()みで、(おれ)()(うなず)いた。


「……お姉様(ねえさま)()きな(ひと)だけあって、(すこ)しは、(みと)めてあげても()いわ」


 (みんな)(わら)(ごえ)が、(よる)静寂(せいじゃく)(やさ)しく()らす。


 (おれ)は、この(にぎ)やかな時間(じかん)大切(たいせつ)に、(こころ)(きざ)()んでいく。


「さぁ、食事にしよう」


 今日(きょう)料理(りょうり)(あじ)は、多分(たぶん)一生(いっしょう)(わす)れないだろう。


 姉妹(しまい)(そろ)い、咲季(サキ)やステラも一緒(いっしょ)食卓(しょくたく)(かこ)む。


 (だれ)(ひと)()でも()けていたら、この(あじ)()なかったはずだから。


 (おれ)は、食後(しょくご)片付(かたづ)けを()えて、(にわ)()た。


 夜風(よかぜ)が、(おれ)(ほほ)()でる。


 魔王(まおう)という、(おれ)たちの(てき)は、まだ()えてはいない!


 けれど、(おれ)()っている。

 物語(ものがたり)は、一度(いちど)勝利(しょうり)()わるほど、(あま)くはないことを。


 夜空(よぞら)(かがや)く、数々(かずかず)(ほし)たちが、まるで(おれ)たちの未来(みらい)見透(みす)かしているかのように、(しず)かに、(つめ)たく(またた)いている。


 (おれ)は、(こぶし)(にぎ)(なお)彼女(かのじょ)たちを(まも)()くと(ちか)った。


「……(なに)()きても、(おれ)()げない。(まも)る。何度(なんど)だって」


(だい)31()(つづ)く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ