表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/34

【第21話】断罪の朱筆と偽りの福音


 激闘(げきとう)余韻(よいん)(ただよ)旧校舎(きゅうこうしゃ)屋上(おくじょう)に、(よる)(とばり)がゆっくりと()りてくる。


 「……。……はぁ。……。本当(ほんとう)に、……(ひど)()にあったわ」


 咲季(サキ)(みだ)れた(かみ)(ゆび)(ととの)えながら、満足(まんぞく)げな、それでいてどこか虚脱(きょだつ)したような溜息(ためいき)()らした。彼女(かのじょ)背中(せなか)から()びていた禍々(まがまが)しくも(うつく)しい蝙蝠(こうもり)(つばさ)は、(あるじ)満腹感(まんぷくかん)(しめ)すように、(あわ)粒子(りゅうし)となって空気(くうき)()けていく。


 「……。……和希かずき……。……まだ、身体(からだ)が……(あつ)

わ……」


 一方(いっぽう)和希(かずき)(うで)(なか)()けたような表情(ひょうじょう)()かべているのは、異世界(いせかい)聖女(せいじょ)リリシアだ。供給(きゅうきゅう)という()(ふか)接触(せっしょく)()(あと)彼女(かのじょ)は、普段(ふだん)(りん)とした(たたず)まいが(うそ)のように、和希(かずき)(むね)(ほお)()せて、(あま)やかな吐息(といき)()()していた。


 「……。リリシア、もう(てき)はいないから。……。……そろそろ(はな)れてくれないか。……。心臓(しんぞう)(わる)い」


 「……。……いやよ。……。(いま)(はな)れたら、……(わたし)、……自分(じぶん)()えてしまいそうで……」


 リリシアの(ほそ)指先(ゆびさき)が、和希(かずき)制服(せいふく)をギュッと(つか)んで(はな)さない。和希(かずき)困惑(こんわく)しながらも、彼女(かのじょ)(ぬく)もりを拒絶(きょぜつ)できずにいた。勇者(ゆうしゃ)としての覚醒(かくせい)が、(かれ)(うち)にある守護(しゅご)本能(ほんのう)否応(いおう)なく刺激(しげき)しているのだ。


 「……。勝手(かって)にやってなさい。……。(わたし)は、この(のこ)()(あつ)めるだけで手一杯(ていっぱい)なんだから」


 咲季(サキ)()ややかに()(はな)つが、その(ほお)(あか)()まっていた。サキュバスとしての本能(ほんのう)が、(ふた)()(あいだ)(ただよ)濃厚(のうこう)親密度(しんみつど)を、最高級(さいこうきゅう)のデザートのように感知(かんち)しているからだ。


 だが、その(あま)やかな空気(くうき)は、突如(とつじょ)として飛来(ひらい)した「(いち)(ぽん)()」によって()()かれた。


 (いぬ)いた(おと)()てて、和希(かずき)足元(あしもと)のコンクリートに()()さったのは、金属(きんぞく)ではない。それは、鮮血(せんけつ)のように赤いあかいインクを(したた)らせた、一本の『万年筆(まんねんひつ)』だった。


 「……っ!? (だれ)だ!」


 和希(かずき)瞬時(しゅんじ)にリリシアを背後(はいご)(かば)い、虚空(こくう)(にら)据え(すえ)た。(さき)ほどまで霧散(むさん)していたはずの禍々(まがまが)しい気配(けはい)が、旧校舎(きゅうこうしゃ)(かげ)から濃密(のうみつ)湧き(わき)()がってくる。


 「……。……やれやれ。……。ベルナルドの()(のこ)した駄作(ださく)片付(かたず)けてくれたのは感謝(かんしゃ)するが、……余計(よけい)なアドリブを()れてくれたものだ」


 (かげ)(なか)から(あらわ)れたのは、漆黒(しっこく)外套(がいとう)(まと)った、(かお)のない(おとこ)だった。(いな)(かお)がないのではない。(かれ)(かお)があるべき場所(ばしょ)には、無数(むすう)文字(もじ)(うごめ)き、表情(ひょうじょう)(かく)していたのだ。


 「……。貴方(あなた)、……ベルナルドの仲間(なかま)……? ……。いいえ、違う(ちがう)わね。……。その傲慢(ごうまん)魔力(まりょく)(しつ)……。貴方(あなた)が『(しん)作者(さくしゃ)』ね?」


 咲季(サキ)(ひく)(うな)る。彼女(かのじょ)本能(ほんのう)が、()(まえ)存在(そんざい)を「絶対(ぜったい)相容(あいい)れない天敵(てんてき)」だと()げていた。


 「……。サキュバスの()()てが、勝手(かって)役名(やくめい)()めるな。……。(わたし)はただの編集者(へんしゅうしゃ)だ。……。物語(ものがたり)予定(よてい)された終焉(しゅうえん)迎える(むかえる)よう、(あか)()れるのが仕事(しごと)でね」


 (おとこ)(ゆび)()らすと、足元(あしもと)()()さった万年筆(まんねんひつ)から(あか)いインクが(あふ)()し、地面(じめん)複雑(ふくざつ)魔法(まほう)(じん)描き(えがき)()した。


 「……。カズキ、(あぶ)ない!!」


 リリシアが(さけ)ぶと同時(どうじ)に、魔法(まほう)(じん)から無数(むすう)(あか)(くさり)飛び(とび)()し、和希(かずき)たちの退路(たいろ)()つ。


 「……。設定(せってい)上書(うわが)きする。……。聖女(せいじょ)リリシアは、勇者(ゆうしゃ)への(あい)(わす)れ、深淵(しんえん)孤独(こどく)へと()ちる……」


 (おとこ)言葉(ことば)が、物理(ぶつり)(てき)重圧(じゅうあつ)となって襲い(おそい)()かる。言霊(ことだま)現実(げんじつ)侵食(しんしょく)し、リリシアの表情(ひょうじょう)から急速(きゅうそく)(ひかり)()えていく。


 「……。……あ、……あぁ……。……カズキ……? ……。貴方(あなた)、……(だれ)……ですの……?」


 「……っ!? リリシア!!」


 和希(かずき)彼女(かのじょ)(かた)(つか)み、必死(ひっし)()さぶった。だが、彼女(かのじょ)(ひとみ)虚空(こくう)彷徨いさまよい(さき)ほどまでの(あたた)かな体温(たいおん)(うそ)のように、(こおり)のように(つめ)たくなっていた。


 「……。無駄(むだ)よ、和希(かずき)くん。……。ソレは論理(ろんり)無視(むし)して『結末(けつまつ)』を()()けてくる最悪(さいあく)呪法(じゅほう)だわ」


 咲季(サキ)苦々(にがにが)しく()()てる。彼女(かのじょ)(ふところ)から(ちい)さな結晶(けっしょう)――昨日(きのう)回収(かいしゅう)したばかりの『(あい)のドロップ』を()()した。


 「……。和希(かずき)くん、選択肢(せんたくし)(ひと)つよ。……。(わたし)(とお)して、上書(うわが)きされた設定(せってい)をさらに『上書(うわが)きして破壊(はかい)』する。……。そのためには、(いま)まで以上(いじょう)供給(きゅうきゅう)必要(ひつよう)よ」


 「……。供給(きゅうきゅう)って、……(いま)のリリシアは(おれ)(わす)れかけてるんだぞ!? どうやって……!」


 「……。忘れ(わすれ)させてたまるもんですか。……。(わたし)の『夕飯(ゆうはん)』を台無(だいな)しにしようとする不届(ふとど)(もの)には、サキュバスの流儀(りゅうぎ)でお(かえ)ししてあげるわ」


 咲季(サキ)(まよ)わず結晶(けっしょう)()(くだ)き、その破片(はへん)和希(かずき)(くち)へと()()んだ。


 「……っ、……ん!?」


 和希(かずき)脳内(のうない)に、爆発(ばくはつ)(てき)情愛(じょうあい)記録(きおく)(なが)()()した。リリシアと出会(であ)ったあの()(とも)(たたか)った記憶(きおく)食卓(しょくたく)(かこ)んだ(ぬく)もり。それらが咲季(サキ)魔力(まりょく)によって増幅(ぞうふく)され、和希(かずき)全身(ぜんしん)虹色(にじいろ)(ひかり)(つつ)()む。


 「……。(おも)()せ、リリシア!! ……。(おれ)たちの物語(ものがたり)は、(だれ)にも()()えさせない!!」


 和希(かずき)虚脱(きょだつ)したリリシアの(くちびる)に、自分(じぶん)(くちびる)重ねかさねた。


 「……!? ……ん、……ぅ……」


 一瞬(いっしゅん)静寂(せいじゃく)直後(ちょくご)、リリシアの身体(からだ)から(すさ)まじい黄金(おうごん)衝撃波(しょうげきは)(はな)たれ、周囲(しゅうい)(かこ)んでいた(あか)(くさり)粉々(こなごな)粉砕(ふんさい)した。


 「……。……カ、……カズキ……!? ……。……わたし、……なんて(おそ)ろしい(ゆめ)を……」


 (ひとみ)(ひかり)(もど)ったリリシアが、(ふる)える()和希(かずき)(ほお)()れる。


 「……。……よかった。……。(もど)ったんだな」


 「……。……はい。……。カズキの(あつ)さが、……(わたし)(つな)()めてくれましたわ。……。……もう、(はな)しません。絶対にぜったいに!」


 リリシアの魔力(まりょく)爆発(ばくはつ)(てき)(ふく)()がり、屋上(おくじょう)(ゆか)黄金(おうごん)(かがや)きで()たされる。その(かがや)きは、(かお)のない(おとこ)――『編集者(へんしゅうしゃ)』を射貫(いぬ)き、(かれ)(まと)文字(もじ)()()っていく。


 「……。……ほう。……。予定(よてい)調和(ちょうわ)力技(ちからわざ)でねじ()せるか。……。面白(おもしろ)い。……。   


 どうやら、脚本(きゃくほん)大幅(おおはば)修正(しゅうせい)必要(ひつよう)なようだ」


 (おとこ)不敵(ふてき)微笑(ほほえ)み、ゆっくりと(かげ)(なか)へと(しず)んでいく。


 「……。()てっ!!」


 和希(かずき)()()ばすが、そこには(つめ)たい夜風(よかぜ)()けるのみだった。(おとこ)()たっ(あと)屋上(おくじょう)には|一本の()れた万年筆(まんねんひつ)だけが転がっ(ころがっ)ていた。


 「……。……ったか。……。咲季(サキ)、……アイツ、何者(なにもの)なんだ?」


 「……。()からないわ。……。でも、(ひと)つだけ()えるのは、アイツはこの世界(せかい)を『文字(もじ)』として支配(しはい)しようとしている()(もの)だってことよ。……。ベルナルドなんて可愛かわい(ほう)だったわね」


 咲季(サキ)(けわ)しい表情(ひょうじょう)(おれ)万年筆(まんねんひつ)()つめ、それから溜息(ためいき)をついて和希(かずき)たちを()た。


 「……。……さて、危機(きき)(だっ)したけれど、……リリシア、貴方(あなた)……いつまで和希(かずき)くんに()()いてるのよ。……。供給(きゅうきゅう)はもう(おわっ)たわよ」


 「……。……ふふ。……。(はな)れないわ。……。(わたし)、……(いま)、……最高(さいこう)に『()たされて』いますの。……。……カズキ、……(あい)しているわ」


 「……っ、……リ、リリシア……!」


 和希(かずき)()()になりながら、されるがままになっていた。咲季(サキ)(あき)れたように(かた)(すく)めながらも、(こころ)のどこかで、二人(ふたり)無事(ぶじ)であったことに安堵(あんど)(いろ)浮かべ(うかべ)ていた。


 「……。(まったく)、……これじゃ、明日(あした)朝食(ちょうしょく)はドロップで胸焼むねやけしそうだわ」


 (よる)校舎(こうしゃ)に、三人(さんにん)(いびつ)で、けれど(たし)かな足音(あしおと)(ひび)く。


 (しん)(てき)出現(しゅつげん)によって、物語(ものがたり)加速(かそく)していく。勇者(ゆうしゃ)聖女(せいじょ)、そしてサキュバスの奇妙(きみょう)共同(きょうどう)生活(せいかつ)は、(さら)なる(あらし)予感(よかん)(はら)みながらも、(しず)かに(よる)(ふか)めていった。


 ((だい)22()続く(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ