表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/34

【第16話】侵食するイバラと奪われた絆


 「……。……。……あ、……」


 リリシアの(のど)から、(ほそ)溜息(ためいき)のような(こえ)()れた。


 学園(がくえん)(おも)鉄扉(てっぴ)()けた(さき)(ひろ)がっていたのは、(かよ)()れた通学(つうがく)()などではなかった。昨日(きのう)までの、日常(にちじょう)色彩(しきさい)完全(かんぜん)()()ちている。


 足元(あしもと)のアスファルトには、まるで巨大(きょだい)(けもの)(つめ)()てられたような亀裂(きれつ)(はし)り、その()()からは毒々(どくどく)しい紫色(むらさきいろ)(いばら)血管(けっかん)のように脈打(みゃくう)ちながら()()していた。(いばら)電柱(でんちゅう)(へび)のように()()げ、信号(しんごう)()()(くだ)き、住宅(じゅうたく)(かべ)容赦(ようしゃ)なく侵食(しんしょく)している。


 上空(じょうくう)()()げれば、そこには(あお)(そら)などなかった。(よど)んだ(なまり)(いろ)(くも)(うず)()き、その雲間(くもま)からは幻影(げんえい)のように、リリシアが()ててきたはずの故郷(こきょう)――「(せい)()」の尖塔(せんとう)が、(さか)さまに()()げられたような(かたち)()かび()がっては()えていく。


 「……。……。……和希(かずき)(はな)れないで。……。これ、ただの異変(いへん)じゃないわ」


 リリシアの声は(かす)かに(ふる)えていた。昨日(きのう)(むな)(もと)にネックレスを(おく)られた(とき)の、あの(あたた)かな微熱(びねつ)は、すでに(つめ)たい戦慄(せんりつ)へと()()えられている。


 「……。ああ、わかってる。……。……大丈夫(だいじょうぶ)だ、リリシア。(なに)があっても、(おれ)(まも)るから」


 和希(かずき)力強(ちからづよ)(うなず)き、(あたら)しくなった(つえ)()をギュッと(にぎ)りしめた。その言葉(ことば)裏付(うらづ)けるように、和希(かずき)(からだ)からは(あわ)黄金(おうごん)(ひかり)(あふ)()し、リリシアの(つえ)虹色(にじいろ)脈動(みゃくどう)(つた)えていく。


 「……。……。ふふ、本当(ほんとう)にデリカシーのない勇者(ゆうしゃ)ね。……。……でも、(いま)はその無鉄砲(むてっぽう)さに(すく)われるわ」


 リリシアは(いっ)()(まえ)()()した。


 「……。(けが)れた(いばら)よ、(みち)()けなさい。……。(わたし)たちの『安息(あんそく)』を(けが)不届(ふとど)(もの)は……(わたし)が、この()断罪(だんざい)いたします!」


 リリシアが(つえ)(てん)(かか)げると、和希(かずき)魔力(まりょく)一気(いっき)増幅(ぞうふく)され、()()くような(ひかり)(つぶ)となって(あた)りに()()った。


 「リミット・オーバー・ホーリー!!」


 黄金(おうごん)波動(はどう)が、津波(つなみ)のように周囲(しゅうい)(ひろ)がる。()れた(さき)から、禍々(まがまが)しい(むらさき)(いばら)(しろ)(はい)へと()わり、(みち)(ひら)かれていく。昨日(きのう)までのリリシアであれば、これほどの出力(しゅつりょく)すことはできなかった。和希(かずき)から(おく)られた(おも)いが、彼女の魔力(まりょく)本質(ほんしつ)をさらに(たか)みへと()()げていた。


 だが。


 「……。……。滑稽(こっけい)だな。……。(にせ)(もの)平穏(へいおん)()い、(せい)(じょ)(ほこ)りを(わす)れたか」


 (つめ)たく、鼓膜(こまく)()でるような不快(ふかい)(こえ)が、周囲(しゅうい)空間(くうかん)そのものから(ひび)いた。


 「……。……っ!? この(こえ)は……!」


 リリシアの(かお)から()()()いていく。


 目前(もくぜん)空間(くうかん)(すみ)(なが)したように(くろ)(にご)り、そこから漆黒(しっこく)(ほう)()(まと)った(おとこ)(しず)かに姿(すがた)(あらわ)した。


 「……。……ベルナルド……!? ……。なぜ、貴方(あなた)までここに……。貴方(あなた)はあの(たたか)いで、(たし)かに……!」


 「……。……()んだ、と()いたいのか? ……。……(せい)(じょ)よ、貴様(きさま)はまだこの『世界(せかい)』の(ことわり)理解(りかい)していないようだな」


 ベルナルドと()ばれた(おとこ)は、感情(かんじょう)欠落(けつらく)した(ひとみ)和希(かずき)に向けた。


 「……。(あるじ)……すなわち『魔王(まおう)』が(のぞ)物語(ものがたり)のために、配役(はいやく)何度(なんど)でも()()えられる。……。(わたし)はただ、その意志(いし)執行(しっこう)するために()(もど)ったに()ぎん」


 「……。……魔王(まおう)……! ……。(なに)()っているの……。……。(わたし)たちの運命(うんめい)を、勝手(かって)()めさせはしませんわ!」


 リリシアが(ふたた)(つえ)(かま)えた瞬間(しゅんかん)、ベルナルドが(おと)もなく()(うご)かした。


 「……。……(だん)(ぜつ)(おり)


 足元(あしもと)(かげ)から、(へび)のような(くろ)(くさり)爆発(ばくはつ)てき速度(そくど)()()した。それはリリシアを(ねら)うのではなく、その真横(まよこ)にいた和希(かずき)標的(ひょうてき)としていた。


 「……。……っ、カズキ!!」


 「……。えっ……がはっ……!?」


 和希(かずき)四肢(しし)を、(とげ)のついた(くさり)無残(むざん)(しば)()げる。(くさり)()()むたびに、和希(かずき)(からだ)(つつ)んでいた黄金(おうごん)(ひかり)()()られ、(くろ)(にご)っていく。


 「……。和希(かずき)(はな)しなさい!! ……。この……、外道(げどう)がっ!!」


 リリシアは絶叫(ぜっきょう)し、()てるすべての魔力(まりょく)(つえ)()めた。しかし、ベルナルドの周囲(しゅうい)には不可視(ふかし)(かべ)()られており、黄金(おうごん)(ひかり)(むな)しく霧散(むさん)していく。


 「……。……。無駄(むだ)だ。……。……。(いま)、この領域(りょういき)(わたし)(つむ)ぐ『悲劇(ひげき)』の(なか)にある。……。(せい)(じょ)(いの)りなど、一行(いちぎょう)描写(びょうしゃ)ですら()()ぶ」


 ベルナルドは嘲笑(ちょうしょう)するように(くちびる)(ゆが)め、(くさり)(つよ)()()せた。


 「……。……。この(おとこ)は、物語(ものがたり)(しん)結末(けつまつ)へと(みちび)くための『()(にえ)』。……。勇者(ゆうしゃ)絶望(ぜつぼう)こそが、(つぎ)(しょう)(ひら)(かぎ)となる」


 「……。……な、……何を……。……。カズキは、……和希(かずき)関係(かんけい)ないわ!!」


 リリシアはなりふり(かま)わず、素手(すで)(くろ)(いばら)(かべ)(やぶ)ろうとした。(ほそ)指先(ゆびさき)から()(にじ)み、昨日(きのう)()()けたばかりの水色(みずいろ)のワンピースが(どろ)(いばら)(よご)れていく。


 「……。……リリシア……! ……。()げ……ろ……っ」


 和希(かずき)(くる)しげに(こえ)(しぼ)()す。(くさり)から(なが)()呪詛(じゅそ)(あらが)いながら、(かれ)はリリシアの安全(あんぜん)だけを(ねが)っていた。


 「……。(いや)……、(いや)よ!! ……。昨日(きのう)、あんなに(たの)しかったのに……。……約束(やくそく)したじゃないの!! ……。これからも(わたし)(たの)しませるって……!!」


 リリシアの()から、大粒(おおつぶ)(なみだ)(こぼ)()ちた。その(なみだ)地面(じめん)()れた瞬間(しゅんかん)足元(あしもと)から漆黒(しっこく)のドロップが(はげ)しい(いきお)いで()()し、(あたり)()(つく)していく。


 「……。……。()わりだ」


 ベルナルドが()()うような(こえ)()げると、和希(かずき)足元(あしもと)(かげ)巨大(きょだい)(くち)のように(ひら)いた。


 「……。……和希(かずき)ーーーーっ!!」


 リリシアが()()ばしたが、あと(すう)センチのところで、和希(かずき)(からだ)暗闇(くらやみ)の中へと(しず)み、消失(しょうしつ)した。


 「……。……。……(つぎ)は、貴様(きさま)(ばん)だ。……。……地獄(じごく)(なか)で、最愛(さいあい)(もの)(こわ)れていく(おと)()くがいい」


 ベルナルドの姿(すがた)もまた、(きり)のように()えていく。


 (のこ)されたのは、静寂(せいじゃく)と、毒々(どくどく)しい(いばら)支配(しはい)された(まち)だけだった。


 地面(じめん)には、(はげ)しい衝撃(しょうげき)千切(ちぎ)れたネックレスが、無残(むざん)(ころ)がっている。昨日(きのう)二人(ふたり)(わら)()った(あかし)は、(どろ)(まみ)れてその(かがや)きを(うしな)っていた。


 「……。……あ、……あ、……カズキ……」


 リリシアは、(いと)()れた人形にんぎょうのように、その()(ひざ)をついた。


 その背後(はいご)で、一部始終(いちぶしじゅう)見守(みまも)っていた咲季(さき)が、(ふる)える()でスマホを地面(じめん)(たた)()けていた。


 「……。……。……ふざけないで。……。こんなの、……(わたし)記録(きろく)したかった『物語(ものがたり)』じゃないわよ……!!」


 物語(ものがたり)(いま)最悪(さいあく)(かたち)加速(かそく)(はじ)めていた。


 ((だい)17()続く(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ