9.恋愛の始め方
自分の部屋に戻りベットに腰掛けながら考えた。まともな恋愛ってどうすればいいんだろう。これまで出会ってきた男の人はいい人も嫌な人もいた。でもそれだけだ。男女変わらない。……いや、性欲ぶつけてこないから女の人の方が好きだな。でもそれは警戒しなくていいとか仲間意識がほとんどであって、恋愛的な意味じゃない。あーあ、世の人間どもはどうやって恋愛してるんだろ。
メイドのお姉さんは優しくされて惚れちゃったとか言ってたけど、それだけで惚れる? わっかんないなー。優しい人はいい人だけど、今後のご多幸を祈るしかしてきてないわ。それともあれかな? 私にだけ優しくして欲しいってのが恋なのかな? なんかそれって性格悪そうだけど。
そんなことを考えながらゴロゴロしているといつの間にか眠ってしまった。途中で起きて靴を履きっぱなしなことに気がついて、乱暴に脱ぎ捨てた後もう一度眠った。眠るのは気持ちいい。この城にいると全員休眠期が訪れるのかもしれない。
その後すっきりと目覚めた。相変わらず何時間寝たのかよくわからないけど、歌い出したいくらい爽快な目覚めだった。
「よし! 突撃!」
そう叫んでベッドから跳ね起きる。部屋の隅に転がっていた靴を拾い靴を履く。靴紐を結ぶのは結構好きだ。
それからそろっと廊下に出て魔王のドアを叩いた。反応がない。もう一度叩いても反応がないのでドアを開けてみた。中には誰も居なかった。うーん探し回るのヤだなぁ、ゲームとちがって徒歩なんだよなぁ。
空のベッドを睨みながら考えていると、後ろから声をかけられた。
「何してるんです?」
振り返るとキツネが呆れた顔で立っていた。
「魔王様、いない。」
「そうですね。でも勝手に人の部屋に入ってはいけませんよ。」
「でも私の部屋には寝てる時誰か入ってきたよ。靴置いてあった。」
「それはあなたが脱ぎ散らかした靴を集めてくれてありがとうって言うところです。羽根の生えたメイドを見つけたら感謝して下さい。」
「あ、ママ。知ってる。わかった。」
「……なんでさっきからカタコトなんです?」
「え、なんでだろ。わかんない。なんか生まれ変わった気分なんだ。」
私が笑いながら言うとキツネは首を傾げた。そゔだよね、自分でもよくわからない。
「それで魔王はどこ?」
「知りませんよ。早足で下に行くのは見ましたけど。」
「えーまたぁ? また追いかけっこしなくちゃなの?」
「……知りませんよ。まぁ今のところ魔王様はあなたを追いかけるつもりはなさそうですから、仕方ないですね。」
「どうやったら追いかけられる女になる?」
「魅力にあふれる……とか? そういえば僕、魔王様の好み知りませんね。」
「えー、聞いといてよ。」
「そうですね……そういえばそうだな……」
キツネは何かを考えながら向かいの部屋に入っていった。主人の好みを知らなかったのがショックなんだろうか。主従関係ってよくわからない。私は誰にも仕えたくなんかない。
気を取り直して階下に向う。魔王に追いかけられる女ってどんなだろう。セクシー魔女しか思いつかない。私の少女体型じゃ無理だもんなぁ。今の私が色仕掛けで迫って魔王が落ちたとしたら……無理無理。ハニートラップに引っ掛かるロリコンとか絶対嫌だ。これはアレだな、真のイケオジは死んだ奥さんのことを永遠に想い続けてて欲しいってやつかな。あれ? 詰んでね? いや魔王は見た目年齢二十代だから大丈夫か。ママも魔王は童貞とか言ってたしな。……言ってたっけ?
三階は静かでヒトの気配なし。まあ息を潜められていたらわかんないけど。二階もいない気がする。やっぱり一階なのか。
一階はほのかにスープの匂いが漂っていてお腹が空く。どうしようかとふらふらしていると、ヒトの笑い声が聞こえた。何人……いや、何十人かいる!?
興味をそそられて声の聞こえる方に進んだ。元々暗い廊下が奥に進むと更に暗くなっていく気がする。松明の明かりはあるのに、なんというか空気が黒い。
「どこへ行く?」
後ろから声をかけられてやっぱりと思った。たぶんここは入っちゃいけない場所だ。
「ごきげんよう、魔王様。」
私は振り返ってカテーシーをしてみせたがさらっと流された。
「この奥は王族の墓場だ。入ってもろくな事はないぞ。」
「墓場? 城の中にお墓があるんですか?」
魔王は当然といった風に頷いた。文化の違いを感じる。
「じゃあ私、お参りしますよ。私もいずれ入る予定ですし。」
魔王はひどく困った顔をしてたじろいだ。やっぱりコイツ押しに弱い。
「いや、きみは人間だろう……?」
「悪魔と人間は普通に結婚できると聞きました。」
「いや普通じゃないよ。たまたま……気があった者同士がそうなっただけで。」
「私たちも気が合うと思いませんか?」
「思わない……全然……」
ドン引きの顔で言われるとなんだか腹が立つ。だから私は奥へと進むことにした。
「ちょっと! 聞いてる? この先は色々面倒なんだってば。」
「あら、夫の面倒事を引き受けるのが妻の役目ですわ。」
「よくそんなペラペラと適当なこと話せるね。」
「特技です」
魔王はそれなりに焦っているようだが、私の体を触って動きを止めようとはしなかった。これを紳士的とみるかヘタレとみるべきか。
すぐに大きな扉が見えてきた。謁見の間と同じ両開きの大きな扉だ。扉の中から複数人の大きな笑い声が聞こえた。ちらりと魔王を見上げると諦めたように溜息をついていた。
よし、開けよう。




