8.かわいいメイドさん
「ねー、今のなんの呪文ー?」
やっと静かになったと思ったら可愛らしい声で話かけられた。次は何だと睨んだら、ビックリするほど可愛い金髪の女の子が立っていた。金髪のツインテールに白黒のミニスカメイド服を着ている。これは二次元から飛び出してきたヤツだ。間違いない。
「ねー聞いてるー? 最近来た子だよねー?」
「え、あ、うん。呪文? なんだっけ?」
「さっきの、キョウハハレヤサカイニーとかいうやつ。呪文唱えるタイプの魔法とか久しぶりに見たよー。」
「あーあれはね、帰れボケっていう呪文だよ。古のイケズ京都人が使うんだ。」
「へー聞いたことないや。人間さんだよね? 詳しいんだねー。」
メイドは優しく微笑んだ。身長は170センチぐらいかな。スラッとして綺麗な人だ。いや人しゃなくて悪魔か。
「うん。お姉さんは悪魔なの?」
「そだよー。メイドもしてるよー。」
金髪ツインテ悪魔メイド……刺さる人には刺さるんだろうなぁ。私も嫌いじゃないけど。
「ねぇ、この城って何人ぐらいヒトいるの?」
「知らなーい。活動期はいっぱいいるらしーけど、今みたいな時期は数十人? かな? 生きてんだか死んでんだかわかんないのはどう数えるー?」
答えにくい質問だ。ってか生死がわからないってどういうこと? ゾンビ?
「あーどうだろ……? いや城なのに静かだなーと思って……」
「わかるぅ! 確かに今は人間の街に比べたら超静かだよね。」
「……お姉さん、人間の街に行ったことあるの?」
「あるよー。ってか住んでた。なんなら結婚して子供もいたよ☆」
テヘッと笑うお姉さんは可愛らしい。二十歳ぐらいにしか見えないけど、まぁ、悪魔だもんな。
「そうなんだ。悪魔って人間の街に住めるんだね。」
「あたしパッと見は人間ぽいからー。よく見たら全然違うんだけどねー。ほら!」
突然、メイドの背後から大きな影が覆い被さってきた。私は反射的に避けようとして尻もちをついてしまった。
「アハハ、ごめーん。そんなビックリすると思わなかったー。」
メイドは笑いながら私に手を差し伸べた。私はソレを凝視しながら立ち上がった。
メイドの背中から大きな黒い羽根が出ている。それはメイドがしゃべると同時にファサファサと動いた。
「それ……本物!?」
「そだよー。ほら。」
メイドはくるりと半転して背中を見せてくれた。白いブラウスと黒のベストを着ている思っていたのに、背中には布がなかった。だから剥き出しになった皮膚から羽根が生えているのがよく見えた。
「本物、だぁ……」
馬鹿みたいな感想をもらしながら背中を凝視する。ホントに本物だ。羽根が動くと一緒に周りの筋肉が動いているのがわかる。
「えっと、じゃあ、お姉さんは鳥なの?」
「そだよー。でもねー先祖返りかなんかでこの羽根以外はほぼ人間なんだよねー。」
へーと言いながら頭の中を大急ぎでまとめる。ってことはつまり?
「つまり……悪魔と人間が子供を作るのは可能ってことだよね?」
「うん。私は人間の男との間に二人子供を作ったよ。」
Yes!! 私はガッツポーズをして空に拳を突き上げた。
「なにー? 好きな悪魔でもいるのー?」
メイドはニヤニヤしている。恋バナとか好きそうだ。
「いやあの、まぁ、一応魔王様狙いでして……」
「えー! 魔王様ってまだ子作りもしたことないお子ちゃまじゃーん。マジでー?」
あ、魔王って他の悪魔から見たらそんな感じなんだ。ふーん。
「てか次の発情期って何十年か先じゃない? キミそれまで生きてる?」
痛いところを突かれて乾いた笑いがでた。そうなんだよなぁ……
「うちのダンナもさぁー、一生一緒にいるよ☆とか言ったくせに先に死んじゃったんだよねぇ。まぁわかってたんだけどぉ。人間のわりには長生きしてくれたんだけどぉ。」
「ちなみにダンナさんはお幾つまで生きられたんですか?」
「百歳」
「すごー!!」
この世界で百歳まで生きた人なんて聞いたことない。隣に住んでたばあちゃんは百歳超えてるなんて言ってたけど、あれは多分ボケて自分の歳忘れただけだしな。
「私も百まで生きられたら次の発情期間に合うんだけど、だいぶヨボヨボになっちゃうなー……」
七十歳近い私を果たして愛してくれるんだろうか。発情期だから誰でも良くなってるのかな?
「別に悪魔だって発情前に恋はできるよ?」
「え、ホントに!?」
突然お姉さんに後光が差した気がした。なんなのこの人マジ神か。
「ホントホント。子供欲しいだけならこの時期でも自分から押し倒しゃオッケー。」
「あ、私がしたいのはそういう恋じゃなくってー……」
困っているとメイドはクスクス笑った。
「ごめんごめん。冗談だよー。ま、確かに個人差はあるんどけどー魔王様もあんまり眠くならないタイプだからー、起きてる時にいっぱいお話すればいいんじゃない?」
「……ちなみにお姉さんは人間のダンナさんとどうやってねんごろに?」
「あたしはー……えー照れちゃうなー。あたしはねー、羽根小さすぎて家族に見捨てられてパニクってたときに、ダンナが声かけてくれたんだー。優し過ぎて惚れちゃうでしょー!」
照れてモジモジしながら言ってるがなかなかヘビーな話だ。
「それは……人間の村とかで?」
「そうそう。飛べない鳥とかほぼ人間だろーっつって人間の村の近くにポーイされてさ、でもいくら羽根が小さいからってそんなもん生えてたら人間社会に溶け込めるはずないんだよねー。もう全員殺してやろうかなって思ったけど、ダンナが俺がなんとかするからって言ってくれて。ちょー優しくなーい?」
「待って待って。つまり二人はごく自然に付き合うことになったの?」
「……まぁそうかな? この人間は信用してもいいっぽいって思った時、すぐ子供欲しいって思ったもん。」
ほほー。あんま参考にならんなぁ。私そんな恋愛体質じゃないもんなぁ。
「なるほど。ありがとう……私も頑張って魔王様を口説くよ……」
「えー元気なーい。魔王様って一番の悪魔なんだけど、一周して人間ぽい感じもするからふつーにイケると思うよー?」
「? うん。ありがとう。」
ちょっと何を言ってるのかわからなかったがとりあえず礼を言う。
「そうだ、名前聞くの忘れてた。私オミナ。お姉さんの名前は?」
「あたしの名前はー、ママ。」
「ママ?」
「そう。子どもたちが私を呼ぶ名前。ダンナが私を呼ぶ名前は、私とダンナだけの内緒。」
悪戯っぽく笑う顔にきゅんとした。可愛いヒトだな。まだダンナさんのこと好きなんだ。
「わかったママ。また会える?」
「うん! 起きてる時は城の掃除してるから声かけて。」
私たちは手を振って別れた。なんだか胸がほっこりしていた。そうか、悪魔と人間はちゃんと恋ができるんだ。




