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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと
二、逃げ出したヒロイン

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9.本当のストーリー

 伯母が部屋から出た後、私は一人その部屋で過ごした。伯母から聞いた話を反芻し、自分なりに整理した。出された質素な夕食を一人で食べた。とても久しぶりにお手洗いに行き、村の汲み取り式とは違う水洗式に感動した。さすがにバケツの水を流すやり方だったけれど。

 そうして与えられた部屋に戻り、私は小声で呼んでみた。

「きーつーねーさーん」

 しばらく待ったが返事はなく、誰も部屋を訪ねてくる気配はなかった。さすがに遠距離過ぎて無理なのかもしれない。私は部屋を抜け出して鏡が置いてある部屋へと向かった。家の中は薄暗く静かだった。みんなもう眠る準備をしているのだろう。一瞬人影が見えた気がしたが、気のせいだろう。

 その部屋を開けると中は真っ暗だった。そういえばこの部屋に窓はなかった。入口でしばらく躊躇ったが、目が慣れると薄っすら見えてきた気がするので中に入った。例の鏡の前に立ち軽く表面を叩いてみる。少し緊張して待っていたが、手が出てくることはなかった。今度はもう少し長めに叩いてみた。やはり反応がない。緊張していた分ちょっと腹が立ってドンドンと拳で叩いて叫んでみた。

「キツネ! いないの!?」

 急に鏡の表面が波打った気がして私は手を止めた。だが誰も出てこない。鏡は真っ暗でぼんやりと私の輪郭だけが映っている。不思議と怖くはなかった。今の私には目的があるから。

 床に座りぼんやりと鏡を見ながら待っていると、ふいに声が聞こえた。

「……なんですか?」

「キツネ!? ちょっとこっちこれない?」

 鏡は暗いまま変化がない。声だけが聞こえる。

「そんな気軽に……僕の魔力じゃ行き来できないって言ったでしょう?」

「じゃあ魔王呼んできてよ」

「魔王様は僕を呼んでどっか行っちゃいましたよ。なにか用ですか?」

「えー……あ、でもこれ電話みたいなこと?」

「そうですね。なんですか? もう戻る気になりました? 早いですね。」

「そっちじゃない。あんたが母に仕掛けたってゲームについて詳しく教えて。」

「……もう終わりましたよ? ヒロイン逃亡で。」

「ヒロインはいなくなってもこの世界は終わってない。いいから教えて。どういうゲームだったの?」

「えー、簡単にでいいですか?」

「詳しく! 一番最初から!」

「最初っていうと……あの子が死ぬ前からになりますよ?」

「うん? とにかく教えて!」

 キツネは話し始めた。時々キツネはどんな顔して話してんだろうと思いながら聞いた。


 あの子はね、神社の近くに住んでてよくお参りに来てたんです。おばあちゃんに連れられて「病気が良くなりますように」ってお願いしてました。残念ながら病気は良くならずに十代で死んでしまいました。まあ神社って寿命を延ばす所じゃないですからね。

 入退院を繰り返して学校にもろくに行けなかったあの子が夢中になっていたのが、いわゆる乙女ゲームってやつでした。その中の登場人物にね、魔王ってキャラクターがいたんです。彼女はそいつに夢中でした。そこで閃いたんです。こっちの世界に呼んで、こっちの魔王様と楽しく恋愛してもらおうと。そうすれば彼女が憧れてた楽しい学校生活とか、意図してないのにモテちゃうとか、ちょっとスリリングな恋とか、全部叶うじゃないですか。

 せっかくだから楽しんでもらおうと研究して色々設定しました。やっぱり攻略対象が魔王様だけってのは盛り上がらないので、医者と金持ちも用意しました。あと謎ときも必要かなってことで悪魔の木っていうギミックも用意しました。とはいえ魔王様に惚れてもらわないと困るので医者はヤンデレストーカー、金持ちは本妻が別にいるって設定にしました。普通なら……あの子なら魔王様を選ぶと思ったんてすよ。なのに、ねぇ。

「私が好きだった魔王様と全っ然似てないよ。顔だけじゃなく声も性格も違うし。別に私、魔王って肩書きが好きなわけじゃないから。」

 ですって。女心は難しいですね。

 ゲーム内容は……学校サロンに通う間に結婚相手を見つけよう!がメインで、途中から悪魔の木をどうするかによって色々変わります。これね、魔王様を選べば全部解決するようになってたんですよ。悪魔の木は魔王様が伐採するし、モモの虚弱も治るし、医者は改心するし。いいこと尽くめだったんてすけどねぇ……誰なんですかあの男。勝手に出て来て、ヒロインを攫っちゃって。僕は知りませんよあんな男。


「――キツネ、話が逸れてる。結局悪魔の木って何なの?」


 悪魔の木は根元に悪魔が埋まってる木ですよ。悪魔の魔力を吸い取った果実とか樹液とかを薄めれば、そりゃあ飲むと元気になりますよ。悪魔の薬と一緒ですから。ただ埋まってる悪魔は相当古いんでね、魔力を増幅させるために血を与えてたんです。ただもうほとんど枯れそうなんで、段々大量の血が必要になって……医者がおかしくなっていくんですね。あの子は魔力を補充しないと長生きできない子だった。医者はそれをわかってた。なのに本人はまるで理解しなかった。おかしな話です。……ちなみに医者とくっつくとほぼ監禁生活になる予定でした。まぁ好きな人は好きでしょ。


「……金持ちとくっつくとどうなるの?」


 金持ちとくっつくと、愛人として日陰の生活を送ります。でも悪魔の木は切れます。ね? 絶対魔王様がいいでしょ?






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