10.作戦会議
キツネが話す内容は思ったよりちゃんとしたゲームだった。伯母の話と付き合わせても特に矛盾はない。なかなか凝ったことをしてたんだな……。
「なんか、一生懸命作ったんだね。」
「お褒めに預かり光栄です。ゲームマスターとしてわりと頑張りましたけどね、全く思い通りにいきませんでしたね。」
「神様にでも頼めばよかったのに。」
「神様は面白がるだけでなにもしてくれませんよ。今だってそうです。良かったですね、あなた気に入られてますよ。」
「私が? なんで?」
「そりゃ神様を直接怒鳴りつける人は珍しいてすから。僕も見てて楽しかったですよ。神様も実は面白がってたそうです。」
「待って。何の話?」
「覚えてません? 夢じゃないてすよ?」
夢? 起きたらやたら喉が痛かった時があったけど、夢の中で神様に怒鳴ってたってこと? ホワイ。
「私、神様に何言ったの?」
「『このクソったれた世界をどうにかしろ!』とかなんとか。なかなかの暴言でしたよ。神様は元気がよいと仰ってました。」
それは……良かった、のか? わからん……けど考えても記憶ないしな。
「まぁいいや。その悪魔の木ってのはいつ枯れるの?」
「知りませんよ」
「あんたが考えた設定でしょ?」
「設定したのに全く上手くいかなかった時点で察して下さい。」
「んー、じゃあさ。どうやったら医者は私を母じゃないってわかってくれると思う?」
「だから知りませんよ。」
「えー!? じゃあ母が魔王とくっついた場合はどうなる予定だったわけ?」
「その場合は魔王様の圧倒的な力の前に心を折られます。あとモモがこちらの城に来るので、物理的にストーキングは無理になります。金持ちとくっついた場合は家の力関係で諦めますね。」
「ほーん。じゃあ私が金持ちとくっつけばいいのか……でももうおじさんだよね。息子いないの?」
「……いたとしても正妻にはなれませんよ。それでいいんてすか?」
「愛人かぁ……ちゃんと一生面倒みてくれるなら、いいような……悪いような……」
どうなんだろ。割り切ってしまえば何とかなる気もする。でも一生二番目の女ってのもなぁ。いやそもそも飽きたら捨てられそうだし、捨てられないように必死になるのも嫌だな。人の機嫌を伺いながら生きていくのは、多分しんどい。
「――あの、そこまで誰でもいいなら、なんで魔王様はダメなんです?」
「別に、ダメじゃないけど……」
なんかムカつくし。絶対嫌でもないけど、魔王じゃなきゃダメという理由もない。
「まぁこっちがダメだったらまた考えるわ。」
キツネのため息が聞こえた。
「……用件はこれだけですか?」
「そうだね……またなんかあったら呼ぶわ。」
「……もう好きにして下さい。」
それきり鏡はなにも喋らなくなった。私は硬い床から立ち上がり、ソファーへと腰を下ろした。
医者が私の為に血を集めるのを止めさせたい。
あの様子とさっきのキツネの話を合わせると、その内大量の血を求めて人を殺しかねない。それは勘弁して欲しい。止める為の方法としては
・私に栄養剤は要らないとわからせる
・木を切り倒して物理的に作れないようにする
・私を嫌いにさせる
ぐらいかな? 具体的にできそうなのは
・私が医者とくっつき安心させる
・私がこの町から消える
・他の男とくっつく
っていう感じだろか。あ、家に忍び込んで勝手に木を切るって手もあるな。それが一番手っ取り早いかも。枯れかけた木なら無茶苦茶蹴れば倒れるかもしれないし。うん。母は町の子だからそういうのがわからなかったのかもしれない。
よし、明日あたり家に行ってみよう。決めると安心して欠伸が出た。やっぱり暗いと眠くなる……私はそのまま眠ってしまった。
肩を叩かれて目を覚ますと、眩しい光が目をさした。
「なにしてるの、こんな所で。」
伯母の低い声にあたりを見回す。真っ暗な部屋に伯母の待つランプだけが眩しい。
「あ、ちょっと用事があって……」
「魔王様の元に戻りたいならそう言って頂戴。家の者が怯えてるわ。」
怯える? なんの話? 私は混乱しながら体を起こした。ええと、こんな暗い部屋に一人でいるのが変って話かな?
「この部屋はね、悪魔に会うための部屋なの。クロース家の者以外は立ち入り禁止よ。うちの者は入れと言っても入らないけど。」
「えっと……私も入らない方がいいですか?」
「そうじゃなくて。みんなあなたがまだ悪魔と繋がっているんじゃないかって怖がってるのよ。」
あー……そうか。なるほど。確かに繋がってるっちゃー繋がっているしな。
「……あなたが悪魔をどう思っているかは知らないけれど、この町じゃ悪魔は恐怖の対象よ。沢山の酷い逸話が残ってるし、親は子どもが悪さをすると悪魔に迎えにきてもらうって脅すわ。……うちでは言わないけど。とにかく出ましょう。なんでこんな所にいたの?」
伯母に促されて私は立ち上がった。そして言った。
「あの、悪魔の木を切ろうと思うんですけど、どう思います?」




