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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと
二、逃げ出したヒロイン

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3.医者の贈り物

 廊下を走る足音で目が覚めた。誰かが遠くで大きな声で叫んでる。喧嘩? 誰と誰が?

 目を開けると知らない天蓋かあった。窓は縦に細長く小さいものが三つ並んでいた。城じゃあないな。窓の外に木々と雨粒が見える。一階みたいだ。

 また女の人の大きな声が聞こえた。ええとここは母の実家で……揉め事が起きてる?

 どうしたもんかと寝起きの頭でぼんやり考えていると、慌ただしいノックと共に部屋の戸が開いた。慌てた様子で入ってきたのは従姉妹だ。名前なんだっけ。

「良かった。起きてましたか。」

 従姉妹はそう言ってベッドに駆け寄ってきた。「今、先生が玄関に来てて……母からオミナ様を一人にしないように言われて来ました。」

 従姉妹の顔は強張っている。取りあえず私は体を起こした。

「えっと、あの医者が暴れてるってこと?」

「暴れてる訳じゃないけど……目が血走ってていつもの先生じゃないみたいで。お母様が帰ってくれっていってるのにモモに会うんだって聞かなくて……なんだか怖いわ。」

 従姉妹が肩を震わせたので慌ててベッドに座らせた。こんな可愛い少女を怖がらすなんて、やっぱあいつロクでもねぇな。

「この家、用心棒とかいないの?」

「用心棒……的な男の人はいるけど、先生ですから……」

 俯く従姉妹の背中を擦りながら、私が行って殴ってこようかとも考えたが……ダメなんだろうな。しがらみとか世間体とか、色々あるんだろう。私が簡単に壊していいものじゃないことはわかる。

 廊下の向こうからはまだ話し声が聞こえている。さっきより声が小さくなったのが幸いか。

「もうすぐお針子さんたちがくる時間なのに……どうしたらいいのかしら。」

 従姉妹が小声で呟いた。ここは話を反らして落ち着かせてあげよう。

「そういえば通いの人がいるんだっけ。自宅兼工房ってこと?」

「そうですね……アトリエでもありますし、商談も行います。この客室も遠くから商談にこられた方用なんですよ。」

 従姉妹の話し方に邪気はない。が。

「あ、ゴメンね。客でもないのに……」

「いえいえ、オミナ様はお客様です! そうだ。依頼されていたワンピース、もう出来てるんですよ。後でお持ちしますね。」

「え、もう? 頼んでから数日しか経ってないよね?」

 それを聞いた従姉妹は不思議そうに首を傾げて言った。

「一カ月ぐらい経ちましたが……」

 そんな馬鹿な。

 確かに伯母が私は二日も寝てたとか言っていたが、それを加味しても三日前だろうに。そういえば時間の流れが違うとか言ってたか。……三日が一カ月だとするなら、あの城にいた間にどれぐらいの月日が流れたんだろう。私いま、何歳だ? あぁだから急に背が伸びたのか……違う違う、あれは魔力のせいであって成長期とは関係なくて…………もう三十歳とかになってたらどうしよう。

 一人で混乱していると、部屋の戸がノックされた。従姉妹の顔が強張る。咄嗟に立ち上がったが「入りますよ」の声と共に入ってきたのは伯母だった。伯母は自分の娘を見ると頷いて言った。

「もう大丈夫よ。工房の準備をして頂戴。」

 従姉妹は「はい」と返事をして部屋を出て行った。この二人時々親子というより雇用関係にみたいだ。

 伯母はつかつかと近づいてくると、私に一本の酒瓶を手渡した。赤ワインに見える。

「何ですか?」

「ポゼッシ家ご自慢の栄養剤よ。どうしてもあなたに飲ませたいって言って強引に置いて帰ったわ。……この子はピーチじゃないのに。」

 伯母は最後吐き捨てるように言った。かなり揉めたようだ。

「母が飲んでいたものですか?」

「そうよ。生まれつき体が弱い子って居るでしょう? あのコはそれだったの。ちょっと確認したけど中身は変わってないみたい。飲んでいいわよ。」

 そんなこと言われてもねぇ。コルクの蓋を取って匂いを嗅ぐ。果物が発酵した甘い匂いだ。あと微かなアルコール臭。

「お酒ですか?」

「度数は弱いから酔うほどじゃないけどね。寝る前に一口飲むのがいいらしいわ。原料が取れないって言って最近は販売してないらしいのに……まぁ飲みなさいな、高いのよコレ。」

 はぁ。まぁ高いなら飲むか。私はベッドのサイドテーブルにそれを置いた。

「お腹空いた? 空いてなくてもなにか食べた方がいいわ。厨房に……いえ、持ってくるわ。」

「あ、自分で取りに行きますよ!」

 部屋の外に行こうとする伯母を呼び止めると、やんわりと断られた。

「……その格好で外に出ないでもらえる? そろそろ人が来る時間なの。」

 有無を言わさぬ笑顔で伯母は部屋を出て行った。自分の格好を見下ろすと、確かになんだか薄汚れて見えた。おかしいな、あの城や村ではそこそこイケてる風だったのに……今は幽閉されて死んだ女の幽霊みたいに見える。恥ずかしい、かも。

 ベッドに座って大人しく待っていると、伯母がメイドを伴って戻ってきた。荷物を沢山持っている。

「はい、これがスープ……置くところないわね、ちょっとそれどけて頂戴。あとこれはお湯ね、洗い粉を少し入れてあるわ。これがタオルでこっちは換えの服一式。タオルで体を拭いたら、残りのお湯で下着を洗いなさい。一人でできるわね?」

 色々一気に並べられて私は無言でこくこくと頷いた。さすが金持ち、物量が豊かだ。

「ここ暗いわね……終わったらアトリエに来なさい。じゃ、後でね。」

 伯母は一人でまくし立てるとすぐメイドと共に部屋を出て行った。忙しいみたいだ。そういや仕事があると一日が忙しいんだった、忘れてた。最近ずっとぼんやり過ごしてたから……

 窓の外は薄暗いがあの城から見える景色とは違う。居酒屋の隙間風が吹くあの窓とも違う。私は一体最後は何処へたどり着くんだろう。







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