4.ゲームスタート
食事をした部屋から出るとまたキツネに会った。ちょうどいいので聞いてみた。
「悪いんだけどさ、この城の地図とかない? なんか迷路みたいで元の部屋に戻れる気がしないんだけど。」
「ああ、この城と付近には迷いの魔法がかかってますからね。慣れたら簡単なんですけど…… 壁に触りながら歩くといいですよ。」
「地図は?」
「ありません。悪魔の城にそんなのあるわけないでしょ。」
それもそうか。観光にくる感じじゃないもんな。
「ここは一階で部屋も沢山ありますが、誰かが寝ていることも多いのでむやみに戸を開けないほうがいいです。二階は謁見の間があった所でそこにはヒトが寝起きできる部屋はありません。オススメは三階か四階ですね。僕と魔王様もそこにいます。」
「そんなことペラペラ喋っちゃっていいの?」
「構いませんよ。私は休眠期でもあまり眠くならないので、暇なんです。」
キツネはそう言うとニッコリ笑った。こいつ…暇だからって魔王を差し出そうとしてる!?
「それは…ご親切に、どうも……」
「あぁついでに傷も治してあげましょうね! 痛かったでしょう。」
キツネは急に私の足下にしゃがみこんだ。するとぬるい風が足を包みこんですぐ消えた。
「え、なに?」
「これでデフォルトです。ゲームスタートって感じですね。」
キツネが笑ってどこかに行こうとするのを私は腕を掴んで引き止めた。
「待った! 待った待った待った!」
掴んだ腕はややモフっとしていたが、それなりに体温と質量があった。つまり、これは夢じゃない。
「待った! 流石にもう看過できない! あんたにも異世界の記憶があるの!?」
キツネは困ったように顔を反らした。
「あー、その話はもうちょっと好感度上がってからにしません?」
「無理! 私はねえ、散々何言ってんだかわかんないって言われてきての! 変な言葉だらけの、意味がわからないことばっかり言うって! あの親父の娘だから仕方ないとか、あの家の人間は全員阿呆だとか言われてきたの! ねぇ! あんた、私とおんなじ言葉喋ってるよねぇ! あの世界は、あるんだよねぇ!!」
途中で涙が止まらなくなり、自分でもなにを言ってるのかわからなくなった。でも一つだけわかるのは、キツネが私と同じ言葉を話すと言うことだ。この世界では通じないはずの言葉を。
「あの、逃げませんから、腕離してもらえません?」
「絶対嫌だぁ!!」
私はキツネの腕にしがみついてわんわん泣いた。泣いて泣いて、気がついたらベットに寝かされていた。魔法かな? まあもう、どうでもいいや。
ベットの横には大きな窓があり、私は久しぶりに外を見た。ずっと薄暗い壁に囲まれてたから明るい部屋に心底ホッとした。私には外の光が必要だ。
「----この部屋は自力で見つけて欲しかったんですけどねぇ。」
キツネはそう言いながら水の入ったコップを渡してくれた。飲むと体中に水が染み込んでいって生き返ったような気持ちになった。こんな美味しい水は初めてだ。
「なにか……僕に聞きたいことあります?」
キツネは少し離れた椅子に腰掛けて聞いた。狐の頭で長い足を組み、ビシッとしたスーツに胸元には大きなリボン……よく見たらすごく二次元ぽい出で立ちだ。
「ここって異世界なの? 私達は異世界に転生したの?」
「どうやら我々はここではない世界の記憶があるようですね。転生した記憶はありませんが…」
「私的には前世の記憶があるって感じなんどけど。」
「そうかもしれませんね。」
「なんでそんなに他人事なの?」
「うーん、僕は別に困ってないので……」
困ってない……のか。前世の言葉交じりに話しても悪魔の世界では問題ないのか。なら私も悪魔に生まれたかった。
「ねぇ、空飛ぶ機械に人が何百人も乗って何千キロも移動するって誰かに話したことある?」
「ないですね」
「なんで? 話したくならなかった? だって私達は知ってるんだよ、それが可能な世界があるって。力がなくても重いものを運べたり、遠くに住む人と一瞬で繋がれたり! そんな素晴らしい世界があるって、誰かに言いたくならなかった!?」
「そこら辺は、種族の違いということで御理解頂けたらと。」
キツネの言葉に私は肩を落とした。苦しかった子供時代を共有するのはどうやら難しいらしい。
「そっか……ちなみにさぁ、どの辺まで覚えてる? 私はかなりおぼろげなんだよね。自分の名前どころか性別も思い出せないの。なんとなく世界観と小ネタしか覚えてなくて……だから、嘘つきって言われても言い返せなかったんだよね。だって私には飛行機も自動車も作れないもん。」
「僕も似たようなもんですよ。」
「でもさぁ、さっきゲームスタートって言われた時なんかそんなテンプレがあったなって思い出したの。ねぇ、次は何したらいいと思う? これ私が主人公なら魔王様を落とす恋愛ゲームだよね!?」
「テンプレならそうでしょうね。ただ、僕は本気でこの世界をゲームだと思っている訳ではないので……混乱させてしまったなら申し訳ございません。」
「あぁ、冗談。あぁ、そう……」
なるほど冗談か。そうかそうかそうか。確かに転生者が複数いるなら主人公が私と決めつけるのは図々しいかもしれない。そうか……
「では、僕はいったん失礼させて頂きますね。この部屋は静かで誰も来ませんし、さっきの厨房はいつでも食事をとることが出来ます。私と魔王様はこの階のどこかにいますので、お暇なら探しに来てください。では、ごきげんよう。」
キツネは優雅に会釈すると部屋を出て行った。私はそれを見ながら、乙女ゲームならあいつも絶対攻略対象だなと思った。




