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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと


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5/5

5.逆シンデレラ

 一人になったので大きなベットに横になって色々整理することにした。天蓋までついた大きなベットだ。ほのかに香水のような匂いもする。私の趣味じゃないけど臭いよりかはずっといい。部屋の雰囲気はなんとなくロココ調? 所謂ナーロッパ風かもしれない。今思えば生まれ育った村も『始まりの村』風だったかもしれない。わかんないけど。

 じゃあわかっていることを整理しよう。

 まず異世界は私一人の妄想じゃなかった。悪魔は存在する。魔王も魔王の城も存在する。

 それから……布団の中の自分の足に触れてみた。マメが消えているしどこを触っても痛くない。つまり魔法も存在する。

 前世の記憶に当てはめるならこれはファンタジーだ。お釈迦様の夢ならむヲタクがみた夢の可能性もある。もしこれが乙女ゲームなら、これから攻略対象が増えて楽しいかもしれない。ハーレム前提だけど。

 ただこれがキツネ主人公のゲームだとしたら……やっぱり魔王を倒して世界に平和を取り戻す系だろうか。私は魔王の妻として討伐されるか、聖女の力とかに目覚めて魔王を倒す勇者パーティに入るか……

 うん。全部リアリティゼロ。ないな。

 もうちょっと真面目に考えよう。今私がやらなきゃいけないことは、ここで生き延びること。寝床と食べ物はしばらくは大丈夫っぽいので、次はそれらを確実に安定して供給されるよう努めなければならない。むしろ向こうからここに居てくれとお願いされるのが理想だ。つまり

「やっぱ魔王の妻が一番手っ取り早いかぁ」

 独り言が薄暗い室内に響く。ここは昼とか夜とかないんだろうか。いつ見ても空は薄曇りのままだ。

「あとはキツネの嫁…」

 でもキツネは魔王の部下だから魔王の気分次第で排除される可能性がある。やはりここはテッペンを狙うべきだろう。逆に超下っ端の悪魔と城の隅っこで目立たないように暮らすのもありかもしれない。

 布団の中から手を出して上にかざして見る。我ながら細い腕だ。私は腕力が弱く、気は人一倍強い。前世の記憶があれども大して賢い訳でもない。お世辞すらまともに言えない。武器は若さとちょっと可愛い顔だけ。

「色仕掛け……」

 頭にふとワイン瓶がよぎったが慌てて打ち消した。あれは多分冗談だろう。体よく追い払う為の軽い脅し的な? でもそういうのはナシにしても、色気が足りないから無理かも。あぁ、もう。

「ムカつくー!!」

 大声で叫んで私はベットから体を起こした。ってかなんで私はまた寝ようとしてたんだ。さっき起きたばっかりだわ。まだここへ来てから魔王口説いてないわ。猪突猛進! 当たって砕けろ! 単純接触効果で差をつけろ! 駄目なら吊り橋効果だ。よし、前世の記憶をいい感じに使ってるぞ!

 スリッパを履いて廊下に出ると遠くの方に黒髪の男が歩いていくのが見えた。魔王発見! 走って近づくと何故か魔王も走りしだした。走りにくいスリッパで追いつこうとするが、時々スリッパが足元から飛んでいく。拾っていたら巻かれそうになったので途中から裸足で走った。階段を駆け下りながらシンデレラに似てるなと思った。裸足で王子様を追いかけるシンデレラ……逆シンデレラ?

 やがて魔王の姿が木の扉の向こうへ消えた。逃がすもんかとこちらも戸を開けたら、そこは庭だった。寒寒しく花一つもない庭だ。いつの間にか地上階まで降りていたらしい。なんかさ、そこまで逃げなくてもよくない?

「なんで……逃げるんすか!?」

 叫ぶと魔王は困った顔で振り向いた。よく見たらこのヒト背高いな! 二メートル以上ありそうだ。

「なんか……怖かったから。」

「怖い?」

「なんか怖いこと言って襲われそうだったから逃げてきた。あのさ、独り言だろうけど声大きいよ? 全部きこえてたからな?」

 魔王の言葉に少し前の自分を思い出す。そういやムカつくとかなんとか叫んだっけ。

「耳イイデスネ」

「隣の部屋だからな。キツネにも困ったもんだ。」

 魔王はそういうと近くにあった二人掛けのベンチの真ん中に座った。

「魔王様?」

「ん?」

「こういう時は端っこに座ってレディに隣をどうぞってするべきなんですよ?」

「そう……なのか?」

 魔王は困惑した表情で少し横にずれて座り直した。やった! 素直だ! 世間知らずの坊っちゃん設定なら押せばいける!

 私は心の中でガッツポーズをしながらお淑やかに隣に座った。なのに魔王は顔を強張らせた。

「…やっぱり怖いんだけど。」

「何がでしょうか。」

「獲物を見る動物の顔してる……」

「嫌だわ魔王様ったら! 私は食べられる方ですよぅ!」

 笑いながら魔王の肩を叩いて、すぐに反省した。これは酒場のコミュニケーションだ。上品に口説くってどうすればいいんだろう。

 横目で魔王を見上げると、すごく帰りたそうな顔で空を眺めていた。完全に酔っぱらいに絡まれた素面のヒトだ。

「あの……ですね?」

 魔王は遠くを見るのを止めて私を見た。

「あの、魔王様は、他に好きなヒトとかいたりします……?」

「いないけど……」

「けど?」

「人間は範疇外だから。悪いけど。」

 淡々ときっぱり言われるとちょっと胸にくるものがあった。

「で、でも! あれでしょ? 私が小さすぎて魔王様のヘソぐらいまてしかないチビだからでしょ? 大丈夫! 大きくなるから! 私いま成長期だから!!」

 私は大声が静かな庭に響いて消えた。虚しい。魔王は困った顔で頭を掻いて言った。

「まあ、その、ここに滞在するのはいいよ。あと五十年ぐらいは休眠期だし、誰も君に危害を与えないと思うし。」

「五十年!?」

「え? うん。」

「五十年も経ったら私死んじゃうじゃない! え!? 魔王様あと五十年も発情しないの!?」

 魔王は「発情」と小声でつぶやいて口を押さえた。心なしか顔が赤い。いや今そんな純情設定はいらん!

「それは困る! そんなに待てない! チョコとか食べて頑張ってよ!」

「チョコ?」

「あ、この世界にチョコないか。でもなんかさぁ、魔女の惚れ薬的なのはないの? 魔法があるんだからどうとでもなるてしょ!?」

「ヒトの気持ちを変える魔法はない。」

 魔王が真顔で言ったので、私は頭がクラクラした。話通じねーとか堅物な感じ嫌いじゃないーとか、感情が複雑に絡み合ったので、私は黙って魔王の顔を見つめた。どこにでもいそうなちょっと童顔で若い男の顔だった。そういやこのヒト幾つなんだろう。

「----魔王様って歳いくつ?」

「さぁ……まだ百年も経ってないと思う。」

「長生きなんだね……」

 見た目は大きい人間にしか見えないけど、違う種類の生き物。どうやって口説けばいいんだろう……

「ま、でも諦めないから。」

「ん?」

「人間の人生だってそれなりに長いってこと! ね、帰りましょう? 私、裸足なの。ここは少し肌寒いわ。」

「……急に口調変わるの怖いから普通でいいよ…」

「やだわ魔王様ったら! もっと私と親密になりたいのね!」

 ハッハッハと笑いながら魔王を叩くと、魔王は引き攣った顔で笑ったように見えた。うん、僕たちの冒険はこれからだ!



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