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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと


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36.どいつもこいつも

「私の体に何したのよっ!!」

 勢いよく飛び込んだせいか、魔王はよろけ私は床に膝をついた。そのままの姿勢で睨みつけると、魔王は困った顔して目を反らして言った。

「……身長の話か?」

「それだけじゃなくて! 陽の光が怖いってどういうことよ! 私まで悪魔になっちゃったの!?」

「取り敢えず落ち着け……」

「落ち着いてられるかっ!!」

 私は立ち上がって魔王の胸ぐらを掴んだ。

「出ていけとか言うくせに何してくれてんのよ! これでもう一生ここにいるしかなくなっちゃったじゃない! どうしてくれんのよ!!」

 私を見下ろす魔王の顔から表情が消えた。しまった。嫁にしろって言いながらそれはないわな、うん。

 私は魔王から手を離して後ずさった。でも人間が悪魔になるっていうことは相当覚悟のいることで、それを私の同意なしにされたら困るっていうか……ふざけんなとしか言いようがなくってぇ……でも悪魔には理解しづらいのかなぁこれ……

 俯いてぐるぐる考えていると、魔王は溜息をついて一人ベッドに座った。そして言った。

「……身長の件は、この城に漂う魔力や食べ物に混ざってる魔力を摂取したせいだ。ここに長くいるとそうなる。陽の光の件は……知らん。」

「知らん?」

「知らん。俺は別に太陽は怖くない。」

「じゃなんでこここんなに暗いのよ? 陽の光浴びると溶けるんじゃないの!?」

「溶けるわけないだろう……どういう仕組みだ。」

 魔王はちょっと馬鹿にしたように私を見上げた。新しい表情だ。ムカつく。

「じゃあ……じゃあ、今からあっちに行って日向ぼっこできるっての?」

「……疲れるからやりたくないけど、できんことはない。眩しいと疲れるだろう? 特に休眠期は疲れる。大体の悪魔はそうだ。活動期なら昼でも夜でも関係なく人間の街を襲う悪魔はいるぞ。」

 疲れる……それだけ? じゃああの時感じた不安や血の引くような感覚は一体……

「疲れてるんじゃないか? ここと向こうは時間の流れも違うし、そんな人間がホイホイ行き来するようなもんじゃないんだ。俺は平気だが。」

 あぁもう、耳鳴りと目眩までしてきた。結局私はなんだ? 人間でいいのか? 前に眠りたいと思ってから何時間経ったんだろう。

「……ほら、無理するな。」

 魔王は優しげに部屋の戸を押さえて私を見ている。早く出てけと言わんばかりだ。なんなのもう……全然好きになれない!

 私は頭を押さえながら自分の部屋に戻った。頭痛までしてきた。眠ろう。もう何も考えたくない。



 咳をして目が覚めた。喉が痛い。夢の中で怒鳴りまくっていた気がする。寝ていたはすなのにとても疲れている。なんだこれ。

 窓の外は変わらず明るい灰色の雲で覆われている。でも初めてこの城を遠くから見たときは、暗くて禍々しい雰囲気に足が竦んだことを思い出した。やっぱり私の目や体はあの頃と変わっているらしい。頭の中も変わってたりして……わからないね。元からおかしかった気もするし。

 起き上がろうとしたが、体が重かったのですぐにまた横になった。まるで寝た気がしない。眠気はないけれどとにかく体がダルい。どんな夢をみてたんだっけ? 誰かとケンカしたような……とにかく怒って怒鳴りまくったような気がする。ストレス溜まってるんだろうな私。

 ぼんやりと窓の外をみていると勝手に部屋の戸が開かれた。入ってきたのはお盆を手にしたキツネだった。

「……入ってます」

「知ってます。差し入れです。」

 キツネはニコニコとお盆をサイドテーブルに置いた。中身が入った水差しとコップだった。

「何それ。お酒?」

「まさか。ただの水ですよ。喉乾いたでしょう?」

 言われてみればそうかもしれない。私はノロノロと体を起こし、渡されたコップを飲み干した。至って普通の水だった。

「……これどこの水? この城の井戸ってどこにあるの?」

「これは厨房の奥のものですね。ゴリラ夫妻が管理しています。」

「あぁ、あの青い……。管理って、ここで悪さする奴とかいるの?」

「大昔、勇者に毒を入れられたそうです。城の近くにいた者はみんな死んだり瀕死になって、当時の魔王様も弱った所を殺されたそうです。」

「え、魔王が死んだの!?」

「はい。なので墓場から先代の魔王様が蘇って新たに子を作りました。悪魔は滅びませんよ。」

「へー……すごいね。」

 じゃあつまりどうやっても魔王を倒すゲームにはならないってことだ。いや蘇った魔王を全員倒せばいいのか……人間には無理そうだなぁ。

 そんなことを水を飲みながらぼんやり考えていたが、どうにもベッドのそばに立つキツネが気にかかる。なにをそんなにヘラヘラ笑ってんだ。

「なに? なんかいいことあったの?」

「ええ。あなたが気に入りました。」

「は?」

 キツネはなんだか知らんが本当に嬉しそうに見えた。イラッとしたが喉が痛いので怒鳴るのは止めた。

「……なんなの? いきなり。」

「気にしないで下さい。僕がこれから少しあなたに優しくなるだけです。」

「少しなんだ……」

「そうですね。立場上少しですが、なんでも言ってみて下さい。できることは協力します。」

 ケチ臭い。そこはなんでも協力しますだろ。

「じゃあいい男紹介してよ。」

「それは魔王様ですよ。気は優しくて力持ち、おまけに金持ちで権力者。なんの不満があるんです?」

「……私を好きにならないじゃない。」





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