35.悪魔化?
「ひょっとして……オミナ様は結婚を反対されてらっしゃるのですか!?」
従姉妹はやけに深刻そうな顔で訊いてきた。
「……なんでそうなるの?」
「お友達から借りた本で読みました! 名のあるお家なのに家族に虐げられてボロボロの服で掃除ばかりさせられている女の子の話!」
一体何を読んでるんだ。シンデレラか? てもまぁそっか、一人だけボロを着てたらそうなるのか……。ちょうどいいな。
「虐げられてはいないんだけど……内緒にしてくれる?」
意味深に上目遣いに見ると従姉妹はこくこくと頷いた。目が好奇心に満ちている。
「あのね、実は近々こちらの世界に帰ってこようかとも考えていて……魔王様となにかあったって訳じゃないのよ? ただやっぱり悪魔と人間は長く一緒にいるのは難しいのかなと思って……だからこちらの町で目立たず外を歩けるような服が欲しいの。ドレスじゃおかしいでしょう?」
「なるほど……確かにパーティー用のドレスで散歩はできませんね。ですがそちらの服ですとあまりにも質素かと……」
「質素でいいのよ。女一人で生きていくんだもの。」
「一人で!? それはいけません。私達は家族なんですからここに住めばいいじゃないですか!」
チョロい。チョロ過ぎる。大丈夫かこの子。
「その申し出はありがたいのだけれど、他のご家族はなんて言うかしら。」
「大丈夫です! 母はきっと歓迎しますし、父は生地や資材の買付であまり家にいませんから!」
父親はいるけど家にはあまりいないと。ふむ、好都合だ。
「うちは通いのお針子さんが沢山いていつもにぎやかですよ。一人ぐらい増えても大丈夫です!」
ニコニコと喋る従姉妹を見ているとちょっと罪悪感が出てきた。騙してるような……いや嘘はなにもついてないはず。
「ではその為にも新しい服を作りましょうか! とその前に……寸法を測らせて頂いてもよろしいでしょうか。」
「寸法? 以前に送ったはずだけれど。」
「そうなんですが……オミナ様、身長伸びてらっしゃいませんか? 以前お会いした時はあまり私と変わらなかったと思うのですが……」
従姉妹が立ち上がったので私もつられて立ち上がった。本当だ、彼女のつむじが見える。確かに私の方が10センチ程高い気がする。
「私は157センチですので、オミナ様は今170センチ近くありますよね?」
「いやいやそんなにないよ!」
私はぶんぷん手を振って否定した。あり得ない。
「確かに女性でこの短期間でここまで身長が変わった方を見るのは私も初めてですが……でもそちらのワンピースの丈も短くなっているようですし、やはりオミナ様が成長されているのですよ。」
従姉妹の笑顔に私は言葉を失った。いや十七歳で10センチ伸びる女とか、前世も含めて聞いたことない。
でも改めて着ている服を見直すと、確かに袖丈は記憶よりも短くなっている気がする。忙しくなると袖が邪魔になるので、元から短めにしていたから気が付かなかった。それにスカート丈もなんだか短い。ふくらはぎの下の位置だった筈なのに、今は辛うじて膝が隠れる程度の長さしかない。うーん、伸びたとしか考えられないか……。
いつの間にか巻き尺を手にした従姉妹が、計測していいかと目で訊いてきた。私は黙って頷き、されるがままに腕を伸ばしたりしながら考えた。
村を出た時の身長は確か150センチだった筈だ。それが城に着いたら158センチになってて、更に今は170近いとか……あり得ない。でもキツネや魔王が縮んで見えたのは本当だ。私の体になにが起きてる? どのタイミングで何をされた? やっぱり悪魔の城には何かがあるのか……でも私が大きくなったからってなに!?
悩んでいる内に従姉妹は採寸し終わったらしい。紙に何かを書きながら欠伸を噛み殺してるのを見てしまった。
「あ、今夜中なんだっけ?」
「んー……そろそろ明け方かと……すみません。」
従姉妹は目を擦った。
「この部屋薄暗いし余計眠くなるよね。……なんでこんなに暗くしてるの? 窓潰してまで。」
「悪魔の方々は明るいのがお嫌いと聞いておりますので……差し支えなければ別の部屋に移動してもよろしゅうございますか? オミナ様は明るいの平気ですよね?」
「あ、うん。」
私は反射的に肯定した。だが嫌な可能性に気づいて固まってしまった。私の体に異変が起きているとしたら……それが悪魔化だったとしたら……私、太陽の光浴びられる? 溶けて消えたりしない?
考えている間に従姉妹はさっさと荷物をまとめて部屋の戸を開けた。廊下は薄暗く私はホッとした。
「私の部屋にでも行きましょうか……そうそう、前回はお茶をお出しできませんでしたから、今日は朝食でも……」
従姉妹は話しながら廊下を歩いて行く。角を曲がると急に明るくなった。離れた所に窓があるせいだ。私の鼓動が速くなった。
「あの……オミナ様? どうされましたか?」
先を歩いていた従姉妹が不思議そうに振り返った。
「……ごめん。そっちには行けない、かも。」
視界が歪む。体中から血の気が引いて立っていられない。
「なにかありましたでしょうか。ご気分でも?」
「うん。ごめん、ちょっと行けない。ごめんね!」
私はそう言うと走って元いた部屋に駆け込んだ。鏡を壊さんばかりの強さで叩く。中から伸びてきた手を掴んで私は鏡の中へ飛び込んだ。また、逃げ出してしまった。




