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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと
一、逃げ出した世界

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33/46

33.部屋の中の鳥

「ねぇ、私を殺してくれない?」

 魔王は怪訝な顔をしてやっと私を見た。

「……なぜ?」

「元々死ぬ気で村を出たんだけど、死ななかったんだよね。普通無理でしょ? 戦えない女が一人で、しかもナイフとちょっとの食料だけで魔王の城まで来るとかさぁ……絶対途中で死ぬと思ってたのよ。でも私はどうしても死体を村の人間に見られるのが嫌だったから……森の奥でひっそり死ぬ気だったの。緩慢な自殺だったのよ。なのにちょっと歩いたら城が見えて、しかもたどり着いちゃったからさぁ……」

 話してて気付いた。たぶんキツネが裏で何かやったんじゃないかな。じゃなきゃ色々不自然だ。

「? 別に今すぐ死ななくても、その内死ぬんだからいいんじゃないか?」

「いやいや。悪魔的にはすぐでも人間的には長いから……」

「俺には人間のことはよくわからない。他を当たってくれ。休眠期でもなにかを殺したい奴はたぶんいる。」

 魔王は肩をすくめてまた空に顔を向けてしまった。手強い。

「……魔王様は私のこと何だと思ってるの?」

「さあな…………部屋に迷い込んできた鳥かな……部屋を汚したり中で死なれたりする前に、早く出て行って欲しいと思ってる。」

 うわっ、ひっどーーい。これ以上ない程にヒドイ。雌とさえも思われてなかった! せめて蝶とか! もうちょっとあんだろ!! 

 深呼吸をして気を落ち着かせる。勝手に押しかけたのは事実だ。少々暴れた記憶もある。仕方ない、のか?

「――じゃあキツネのことはどう思ってるの?」

「キツネは……いつの間にかいた。時々俺にはわからないことを怒って、時々悲しそうな顔をしている。でもこの城にいる奴等は大体そうだ。みんな自分の目的の為に生きてる。他人なんて関係ない。きみもそうだろ?」

 魔王は横目でチラリと私を見た。それはそう……ただ、私の願いは私一人じゃ叶えられないだけで。私の弱さを誰かに背負わせようと躍起になっているだけで。

「……きみのお母さんは不満ばかり言っていた。前の世界はこうだった。あれが嫌だ、これが嫌だ。だからこそ、全部をひっくり返してやりたいとも言っていた。俺にはそれが眩しかった。ある日彼女が居なくなった後、俺も彼女にひっくり返されたんたと気付いた。俺は彼女の眼中になかった。」

 魔王は私に向き直って言った。

「モモは……幸せに逝けたのか?」

 先に目を逸らしたのは私の方だった。わからない。親子だからって気持ちを分かち合うには、当時の私は幼過ぎた。

「…………こんな可愛い子を産んだんだから、幸せだったんじゃない?」

「そうか」 

 魔王はまた空へ視線を戻した。私はなんだかとても疲れて、今すぐ眠りたいと思った。もう何も考えたくない。

 私は立ち上がって城の扉へと向かった。本当はやらなきゃいけない事、考えなくちゃいけない事は沢山ある。でももう、疲れた。眠りたい。

 扉を開けようとするとちょうど中からキツネが出てきた。無視して脇を通り抜けようとすると腕を掴まれた。鬱陶しいな。

「どこ行くんです? 仕立て屋の所に行きますよ?」

「……今度にして。」

 腕を振り払おうとしたがキツネは離さなかった。なんだよ、気軽に触んなよ。

「魔王様も、行きますよ。」

 キツネの呼び掛けに魔王はのっそりと立ち上がった。キツネは私を離し、扉を押さえて魔王が城に入るのを見届けた後、無表情に私を振り返った。早くしろよって顔だ。酔いは醒めたんだろうか。

 諦めて私も二人の後について階段を登った。二人は高そうな革靴を履いていた。私なんか最近ずっとスリッパか裸足なのに。まぁいいか。どうてもいいや。

「先方には連絡してありますので。」

 魔王の部屋に入るとキツネが言った。どうやって連絡してるんだろ。伝書鳩でも飛ばしてるんだろうか。

 魔王と並んで鏡の前に立つ。あれ? やっぱり魔王も縮んでる。変なの……そんなことを考えていたら、手を取って鏡に突っ込まれ背中を押された。

 ふらふらとよろめいたら、そこはもうクロース家だった。暗いけどロウソクがちゃんとついている。そして魔王の姿はなかった。突然の放任。

「あら……いらしてたんですね。」

 ソファーから従姉妹が立ち上がった。少し眠そうだ。この子の名前なんだったかな。

「あ、どうも……こんにちは?」

 今はいったい何時なんだろう。さっきは夜明け前だったらしいけど。

「ふふ……今モモさんのデザイン画を見てたんですよ。一緒に見ませんか?」

 従姉妹はそう言ってソファーに私を手招いた。確かにソファー前のテーブルには沢山の紙が置かれていた。

「母の……デザイン画?」

 私は戸惑いながらソファーに座り、紙を一枚手に取ってみた。

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