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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと
一、逃げ出した世界

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27.お宝

 体を揺さぶられて目を覚ました。嫌だなぁ、さっき寝たばかりなのに。布団を頭まで被り背中を丸めると、さらに肩を叩かれた。うるせークソ親父。料理の仕込みも掃除も今日はいいよ。あいつらは薄めた安酒飲ましてちょっとおだてときゃご機嫌なんだから……

「オミナさん」

 親父じゃない声に目を開ける。上等な布団から顔を出すと、服を着た二本足のキツネが横に立っていた。

 どっちかというとこっちの方が夢だよな。

「仕立て屋から手紙が来てます」

 差し出された手紙を起き上がって受け取る。封は既に切られていた。広げると文字が書いてある紙が二枚、服の絵が書いてある紙が五枚あった。服の絵はどうやら私の新しいドレス案のようだ。私は文字が書いてある二枚をキツネに戻した。

「読んで」

 私はこちらの世界の文章が読めない。単語は多少読めるがそれだけだ。そもそもあの村にはこんな長文を読める人間なんていなかったんじゃないだろうか。

「ええと……あの母娘からです。内容はどっちも似たようなものですね。新しいデザインを考えたから感想を聞かせてほしい、返事を待ってる。だそうです。」

「要約し過ぎじゃない?」

「季節の挨拶なんてどうでもいいでしょう? 行ってきたらどうですか。」

 別に行くのはいいんだけどさ……私は大あくびをしながら考えた。キツネの為になると思うとなんか癪に障るな。

 しばらくグズグズとドレス案を眺めていたが、キツネの視線の圧に負けてベッドから出た。私に拒否権はないらしい。

 スリッパを履いて廊下に出る。キツネに促され魔王の部屋に入った。私まだ眠いんだけどな……欠伸をしながら待っていると、魔王に鏡の前へ呼ばれた。なぜだか妙に優しい顔をしている。

「今、向こうは夕方だ。気をつけて。」

「……行きますけどぉ、帰ってきますよ?」

 そう言うと魔王の片眉が上がった。困ってる? 怒ってる?

「きみは……そろそろ人間の世界に戻るべきだと思う。」

「私はそうは思いません。」

「なぜ?」

「なぜって……」

 なんでだっけ? あっちの世界ではまた働かないといけないからだっけ? クロース家のご厚意でしばらく衣食住を提供してもらったとしても、そのうち服作りを手伝ったり社交に精をだしたり最終的には大して好きでもないイケメンでもない大金持ちでもない男と結婚することになるんだろうからか。そんなの嫌だ。

「……あっちには魔王様がいないじゃないですか。」

 そう言って魔王を見上げると、魔王は明らかにたじろいだ顔をした。あ、そうか。これって口説き文句だな。

「なぜ……俺がいいんだ?」

 魔王はややはにかんだ顔をしている。ここは正直に答える所じゃないだろう。

「そんなの……教えません。」

 私は俯いてそう言うと、キツネの横をすり抜けて部屋を出た。他人の前でラブシーンを演じるのは疲れる。なにより今そんな気分じゃない。

 部屋の中からは魔王とキツネが何かを話す声が聞こえた。興味がないので欠伸しながらこの場所を離れることにした。でも行くとこなんかないんだよなー。裏庭のベンチはすぐ魔王が来そうだし、別に今お腹も空いてないし、フクロウや先祖の方々には用事ないし。

 ダラダラと歩いて二階にまで来ると、謁見の間の扉が開いているのが見えた。不思議に思って中を覗き込むと、中にいたメイドのお姉さんが振り返った。そして笑顔で私に手を振ってきた。

「やっほー。なにしてんのー?」

「いや別に……ママこそなにしてんの?」

「あたしー? あたしはサボりー。」

 サボりねぇ……このヒトがお金貰って働いてるようにも、魔王に忠誠を誓ってるようにも見えないけど。サボる必要があるんだろうか。

「サボりって、こんななんもない部屋で?」

 謁見の間は豪華な玉座が置いてあるだけで、他には松明ぐらいしかない。

「んー? お宝あるよー? 見る?」

 そう言ってメイドが玉座の後ろにあるカーテンをめくると、奥に更なる空間があるのが見えた。お宝見たい。

 私はホイホイとメイドの後についてカーテンを潜った。そこは宝物庫というよりは、色んな物が雑然と積み上げられた倉庫のようだった。

「これ……お宝?」

「そだよー。これとか、ホラ!」

 メイドは足元にあった木箱から布を取り出した。そしてその中身を私の掌に置いた。それは指輪だった。一立方センチメートルほどの大きく透明な石がついている。これがダイヤならさぞかし高いだろうが、残念ながら私にはよくわからなかった。

 指で摘んで松明の光にかざして見る。キラキラ光って綺麗だ。もっと複雑なカットを施せばもっと光りそうなのに。

「ね? 綺麗でしょー? 他にも色々あるんだよ。色がついてる宝石もあるしー……あ、あれとか! 杖? 錫杖? なんかよくわかんないけど宝石ついてるヤツ見える? あれねーなんかヤバい魔力ついてるから触っちゃ駄目だよ! ね、面白いでしょう?」

 メイドは楽しそうにあれこれ教えてくれた。どうやら歴代の魔王たちが集めた宝物庫らしい。集めた方法は聞かなかった。

「探せばふつーにお金もあるけどねー、今は使われてなかったり価値が大幅に下がったりしてるからー、やっぱ宝石だよね! ちょっと持ってくぅ?」

「いやいや、怒られるでしょ?」

 冗談だと思って拒否すると、メイドは一瞬きょとんとした顔の後うなずいた。

「……あ、そっかー、人間弱いから怒られたら死んじゃうのかー。」

「ママは勝てるの?」

「うーん魔王様には負けるよねー。怒らなさそうだけど。キツネだとわかんない。なんかあのヒトの魔力変だよね。」

 ね、と言われても私にはわからない。

「……この十本ぐらい転がってる空き瓶もお宝なの?」

 私は足元にあった空き瓶を拾い上げた。同時にちょっと嫌な事も思い出した。そういやこのカーテンの向こうで、初対面の魔王に瓶を渡されたんだった。

「なにそれー? それはただの瓶だよ。誰かがここで宴会でもしたんじゃない? それかここで悪魔の薬を作ろうとしたか。」

「悪魔の薬って、不老長寿の?」

「うん。」

「ママは……ダンナさんに飲ませたの?」

「飲ませるっていうか、まあねー。でも百歳だったからなー。あたしの魔力弱いよねー。」

「そういやお子さんがいるって言ってたけど……お子さんも飲んだの?」

「息子たち? あの子らはー……そもそも半分悪魔だしねー。ちょっと丈夫な男の子として生きてるんじゃないかなー。もう死んでんのかな?」

「……息子なのに今何してるのか気にならないの?」

「あたしが愛したのはダンナだもん。子どもはその副産物。可愛かったけど、それだけだよー。」





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