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やる気のない魔王とヤル気の一般人女性、とキツネ。  作者: 紫藤しと
一、逃げ出した世界

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17.メイドの恋愛指南

 どこか遠くへ行きたくなったが、スリッパも服も濡れて気持ち悪い。私は仕方なく自分の部屋へ戻った。

 入ってすぐスリッパと服を脱ぐ。借りた布と一緒にそれらを適当にイスにかけた。なんの匂いも色もない水だったから乾かせば大丈夫だろう。しかし着替えがないのは困る。寒い。

 私は身震いしてベッドに潜り込んだ。乾くまでこうしてるしかないか。暇だな……瞬きして窓の向こうを眺め、欠伸してたらいつの間にか眠ってしまった。

 何かの物音がした気がして目が覚めた。部屋の中に誰かいる。

「おはよーオミナちゃん。起きたー?」

 顔を覗き込んできたのは可愛いメイドさんだった。可愛いって素晴らしい。

「うん……ママはお仕事?」

「そだよー。今日は埃取り!」

 じゃーんと誇らしげに茶色い鳥の羽でできたハタキを私に見せてきた。……このヒトも鳥じゃなかったっけ? まあいいのかなその辺は。悪魔だし。

「なにー? 眠そうだねー。」

「うん。寝起きだから……どれぐらい寝ちゃったんだろ……」

「あー人間の世界から来るとそういうの気になるよねー。わかるー! でもダイジョブ。その内まったく気にならなくなるから!」

 メイドはニコニコと笑っている。

「そういうものかな……」

「悪魔と人間って全然違うからねー。」

 メイドはそう言いながら窓の桟を掃き始めた。それを眺めながらこのヒトが一番悪魔と人間の違いについて詳しいんじゃないかと気づいた。

「……ねぇ、悪魔ってトイレ行かないの?」

「トイレ? あぁ、行かないよー。」

「なんで? 食べたものはどこいくの?」

「えー? 知らなーい。」

 メイドはクスクスと笑った。そっか……体内の仕組みって私は前世の授業で習ったけど、この世界にそんなものないもんな。知らないか。

「……でも排泄はするんでしょう?」

 魔王の反応から見てなんかハレンチなことっぽいけど。

「排泄? あー……そうね。排泄っていうかー、男の場合は子作りでー、女の場合は出産になるかなー。」

 私の知ってる排泄と違う。私は驚いて身を起こした。

「ど、どういうこと? それ以外に出すもんないの?」

「ないねー」

 メイドはハタキを振るのをやめ、ベッドの端に座って私の顔を覗き込んだ。

「なにー? ひょっとして魔王様とそんな話しちゃった? ダメよー。魔王様まだ目覚める前なんだからー。」

 目覚める……性の目覚め? いやいやいやいや、待って待って……

 私は布団の中に潜り込んだ。恥ずかしいのとは違う気がするけど今だれにも顔を見られたくない。これは、あれだ。居た堪れないってやつだ。

「照れちゃって、かわいー。」

 メイドはクスクス笑っている。もうついでだから全部きいちゃおっかな。

 私は布団の中に潜ったまま訊いた。 

「悪魔と人間の結婚って、やっぱり大変?」

「大変……うーん、私の場合はー、やっぱ羽根があるから大変だったかなー。人間の村では暮らせなかったよ。」

「どこで暮らしてたの?」

「森の中。最初は村の外れで、私はあんまり外でないように暮らしてたんどけどー、無理があったよねー。特に夏ね。冬はいっぱい服着てたら大丈夫なんだけどー、夏はダメ! 最初の夏でバレちゃった。」

 私は思わず布団から顔を出した。

「バレてどうなったの?」

「んーとね、知らないおじさんがダンナいない時に家に押しかけてきたんだー。お前人間じゃないだろうって。言いふらして村から追い出してやるって。金か身体を差し出せば黙っててやるって言われたんだけどー、困っちゃうよねー。私、お金なんか持ってなかったしー、体は最愛のダンナがいるんたから差し出す訳ないじゃなーい? だから殺しちゃったの。」

 つ よ い

「そしたら帰ってきたダンナに泣かれちゃってさー。もっと人がいないところで暮らそうって。それで森の奥で暮らすことにしたんだー。まあその後も変な男はちょくちょく来たけどねー。ても次からはちゃんと埋めるようにしたから大丈夫だったよ☆」

 笑ってるメイドさん強い。好き。でもなんの参考にもならない。

「……ちなみにダンナさんの身長は何センチ?」

「え、知らなーい。私と一緒ぐらいだった気がするけど……」

 メイドは足を組んで考えている。その背中で羽根がユラユラと揺れていた。綺麗なヒトだ。男が狂うのもわかるかも。

「言われてみたら最初の頃は私の方が背高かったかなー……でも途中からは一緒ぐらいだったと思うよー。歳取ってからは縮んでたけどね。」

 いいな。長い間一緒にいたんだな。愛し愛されて……

「オミナちゃんはさー、魔王様のどこが好きなの?」

 メイドが可愛らしく小首を傾げて訊いた。私は思わず目を逸らした。

「……実はまだ好きじゃないの。私は金持ちで権力のある男に庇護されたいだけ。」

「オミナちゃんって弱いんだねー。」

 グサッ。辛辣なご意見が胸に刺さる。

「うん……知ってる……」

「でも弱いうちは強い存在に守ってもらうのが当たり前だからねー。本能だよねー。うちの子たちも生まれてから何年もママママって離れなかったもん。もう何回捨ててこようかと思ったかー。」

 あ、私赤ん坊と同じレベルですか?

「でも人間ってそういうものなんでしょー? 仕方ないよ。私的には強くて好きな相手とくっついた方がいいと思うけどねー。だって弱いといつ殺されるかわかんないしー。」

 このヒトほんと……綺麗な目してえげつないこと言うよなぁ。

「殺されない相手とくっつきたいんだけど……」

「殺されてもいい相手とくっつきなよー。その方が楽しいから!」

 楽しい、か。生存戦略に楽しさを持ち込むのはとうなんだろう。いや、生存戦略に愛だの恋だのを持ち込もうとしてるのがそもそもの間違いなのか。やっぱとっとと服脱いで押し倒すべき?

「難しいよ、ママぁ……」

 布団の中から愚痴るとメイドはクスクスと笑った。



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