13.裁縫屋
「あたしはフクロウ。裁縫屋。」
フクロウはそう言って中に入るよう促した。キツネは入ってこなかった。部屋の中は薄暗く大きな本棚に本がびっしりと詰め込まれていた。仕立て屋というより本屋みたいだ。
「じゃあね、色々測るからまずそこの身長計のとこ立って!」
「あ、身長からですか。」
「そう。あんたは測ったことないからいっぱい測らなきゃなんないの。身長は? いくつ?」
私は急いで壁際にあった身長計を体に合わせた。どこの世界も身長計の仕組みは一緒だ。
「はい158センチね」
「え、そんなにあります?」
「小さくて助かるよ。あたしより20センチも高いけどね。」
そう言ってフクロウは本に何かを書き始めた。おかしいな、二年前に測った時は150センチだったんだけどな。
「じゃあ……ってあんた! 靴履いてないじゃない。靴は履かないの?」
「いや、今はたまたまで……」
「まあいいや、靴なし身長って書いとくよ。靴はね、あたし知らないから。靴のことは靴屋に聞いてね。じゃあ次!」
その後私は色んな場所をメジャーで測られた。だがフクロウによるとこんなものは序ノ口だという。
「本当にドレスをイチから作るってなると大変よ! だからもうほとんどできてる服を使うの。他のヒトは柄やパターンの好みを伝えてるからそれに合わせてできてるけど、あんたはどうすんの? 人間の流行りでいいの?」
「えーと、よく、わかりません。」
「あたしだって人間の流行りなんか知らないよ。あたしが好きなのはこういう男物のスーツ。女物のドレスなんてよくわかんないのよ。」
「えー? でも世の半分は女てしょう?」
「女物は嫁さんの担当だったの! もう死んじゃったからてんてこ舞いよ! 年上女房なんてもらうもんじゃないね!」
「そういうものですか?」
「そうよ! 嫁さんはあたしに裁縫屋を引き継ぎたかっただけ! でも惚れちゃったからあたしの負け!」
なんだかノリがラップっぽい。
「とりあえず清楚な感じでって書いとくね! 胸無いのにセクシー系は無理があるから。そうそう、奥方様の間じゃ頭にちっさい帽子つけるのが流行ってるみたいだけどそれもいる?」
「あ、はい。お願いします……」
「ところでさぁ――」
フクロウは急に手を留めて私を凝視した。
「――なんで人間がこんなところにいるの?」
「え、今更それ聞きます?」
「あたしはさっきまで寝てたのにキツネに叩き起こされたの! おまけにこれから墓場に行って年中暇してる奥方様と旦那様方とながーいお喋りをしないといけないの! 忙しいのよあたし!」
「はあ」
「で? なんで人間がここにいるの?」
理屈はわからないがさすが猛禽類、眼差しが鋭い。
「えーと、魔王様と結婚したくて。」
「なんで? 違う種類の生き物とつがいたいなんて悪魔的発想だけど。人間であるあんたが魔王様とつがいたい理由ってなに?」
「玉の輿に乗りたくて。」
「……その理由は嫌いじゃないけど、すぐ死ぬくせにちょっと偉そうねぇ。」
「そんなすぐ死にませんよ。あと五十年は生きます。」
「五百年生きてから言ってちょうだい。五十年とか! 」
フクロウはフンッと鼻で笑った。
「いけませんか?」
「いけないわよ。魔王様があと何年生きると思ってんの? 悪魔は本気で惚れたら一途なんだからね。人間みたいに取っ替え引っ替えしないのよ!」
「えー……嬉しい!」
「は?」
「一途な男っていいですよね! 私そういうの好きです。」
「あっそう……まあ繁殖期は別よ? 人間の基準で考えないでね?」
お、悪魔が真顔になった。私そんなに変なこと言ったかなぁ。
「まあいいわ。あんたの計測はこれで終わり。あとはドレスが届いてからの微調整ね。」
「届く?」
「だからあたし一人で全員分の服なんか作れないでしょう? 人間の仕立て屋がつくるのよ。ずっと前にそういう契約をしたんだってさ。」
「へー」
「あ、でもあんた人間なんだから直接行けばいいじゃない。なんであたしがあんたの分まで調整しなきゃなんないわけ?」
そんなこと言われても……知らん。
「……よくわかんないので、魔王様に聞いてみますね。」
「そうしてちょうだい。」
フクロウはそう言うと机の上に沢山積まれた本を忙しなくめくりだした。
「……ねぇ、死んだのって誰? 今回は生き返ったのはいないの?」
「魔王のご先祖のことですか? 生き返ることもあるんですか?」
「まあ生き返るっていうか、動きだすっていうか。……生き死にでいうならほぼほぼ全員死んでると思うけど。」
「めっちゃ動いてましたよ?」
「あの部屋だけよ。外に出ていけるなら今頃仕立て屋を取り囲んでる。」
へー……つまりあの方々は亡霊? いや体はあるみたいだからゾンビ? 綺麗なゾンビ?
考えているとフクロウに邪魔だと追い出された。色んな情報が集まってきたが、魔王の好感度を上げられそうなものはなかった。いっそどうにかして魔王の弱みでもつかめないものか。
靴を片手に廊下をブラブラ歩いてみたが、さっぱりここがどこだかわからない。面倒になって私は歩くのを止めた。そして代わりに大きな声で呼んでみた。
「キーツーネーさーーん!」
しばらく待つとうんざりした顔のキツネが現れた。
「――私のことなんだと思ってるんですか?」
「お助けマン」
キツネは深い溜息をついた。




