12.迷走
少し庭で時間を潰した後、私も城の中に戻った。とりあえずご飯でも食べよう。その後キツネを探しそう。
ドキドキしながら厨房を覗いたが、青いゴリラはいなかった。別にがっかりなんかしていない。
今日も寸胴の中には何度も食べたスープが入っていた。金持ちは豪勢な食事を食べるというのは私の思い込みだったんだろうか。私がいた村だってスープと一緒にパンぐらい食べていた。ひょっとして魔王様、本当にお金ない? 見栄張って服だけ綺麗にしてるパターン? ……だったらヤダな。わざわざこんな所まで来た意味がなくなる。あ、でも働かずに衣食住が得られるならありか……うーん……。
椀によそったスープを見ながら考えていると、スープはすっかり冷めてしまった。誰もいないので私は厨房で立ったままスープを一気に掻き込んだ。行儀が悪いのは知ってる。でも元々私は行儀も育ちも悪い居酒屋の娘だ。こうやって十七年間生きてきたのを否定されるのは腹が立つ。別に今誰からも怒られてないけど。
お椀を洗って厨房を出たが、都合よくキツネが現れたりはしなかった。ちょっと期待してたんだけど。
さて。魔王はこの城に仕立て屋がいるって言ってたな。てことはたぶんこの階のどこかにいる可能性が高い。とりあえず歩いてみますか。
真っ直ぐ歩いて突き当たりを適当に曲がる。四つ角に出たらまた適当に曲がる。を、繰り返しているとすぐ迷子になった。所々松明が灯る薄暗い石の廊下を歩いていると昔のゲームみたいだ。作画を楽してるのは誰だ?
歩きながらぼんやりと色んな事を考えた。メイドのお姉さんの結婚生活はどんなだったんだろう。どうやったらあの羽根を隠して人間の村に住めたんたろう……昔隣に一人で住んでたばあちゃんは本当はいくつだったんだろう……百歳超えは嘘だろうけど…そういえば、ばあちゃんこの世界では全然見ない分厚い本を何冊か持ってたんだよな。子供の頃は前世の記憶が混じってたせいであれが珍しい物だって気が付かなかったけど、ひょっとしたらあのばあちゃんはどっかのお嬢様だったのかもしれないな。まぁ最期は薪が買えないっていって本燃やしてたけど。うん……やっぱり生まれが良くても金持ちの旦那を捕まえなきゃダメだよ。沢山貢がせて愛され続けなきゃダメだよ。じゃなきゃ……
歩き続けて足が痛くなったので止まった。やっぱり薄暗い所で考えごとをしてはいけない。どんどん暗いことばかりを考えてしまう。おまけにこのまま歩くとまた足にマメができる。歩き過ぎた。
しゃがんで靴を脱いでいると背後から声をかけられた。
「何してるんです?」
振り返るとキツネが呆れた顔で立っていた。
「キツネって毎回それ聞くよね。」
「あなたが訳わかんないことばっかりしてるからですよ。で、何してるんですか?」
「考えごと」
私は短く返事をして靴を手に立ち上がった。このまま痛い足で歩き続けるよりは裸足の方がいい。
「そうですか。……フクロウの元へ案内しても? あ、裁縫師のことですけど。」
「お願いします。てかまた動物なんだね。」
「人型は王族とみなされますからねぇ。普通は城に近づきません。
「じゃああのメイドのお姉さんは?」
「彼女は……考えがあるんでしょう。」
そうか、お姉さんは羽根があるから大丈夫なのかもしれない。
靴を手にぶら下げてキツネの後を歩いた。幾つかの角を曲がった後、キツネは何の変哲もない戸をノックした。目印も表札もなかった。初見殺しが過ぎる。
戸を開けて出てきたのは小柄なフクロウだった。三つ揃えのチェックのスーツを着ている。ダンディだ。
「人間さん連れてきたよ」とキツネが言った。




