第五章 80話 又右衛門と新たな戦
1554年4月15日続き
そこへ又兵衛が帰ってきた。
又兵衛「殿、戻りました。こちらにいらっしゃると聞き参りました。」
広心「入れ。」
又兵衛「失礼致します。」
又兵衛と、珍しく配下二人が入ってきた。
又兵衛「広心様。まずはこの度は申し訳ございませんでした。」
広心「何を謝る?」
又兵衛「この度の護衛は、父、又右衛門が責任者でございました。」
広心「なに、又右衛門のせいではない。いや、まさか!」
又兵衛「ハッ。父は責任を取り、腹を召しましてございます。」
広心「なんと………。そうか………。惜しい男を亡くしてしまった。」
又兵衛「ありがたきお言葉。」
広心「隼人からまた言葉があろうが、大岩衆は又兵衛、そなたが継ぐように。」
又兵衛「はい、畏まりました。ありがとうございます。」
俺は驚いて言葉が出なかった。
又兵衛「殿、下手人二人を捕らえました。しかし、口を割らせる前に自害してしまいました。ただ、使用した鉄砲を持ってまいりました。下手人がどこの者かも検討が付きました。」
信輝「そうか。ありがとう。そして、又右衛門のことは残念だった。申し訳ないことをした。俺が油断したからだ。」
そうか。珍しく服が乱れていると思ったら、又右衛門の責任も感じ、必死に戦って下手人を捕らえてくれたんだな。配下二人も軽く怪我をしているみたいだ。余程強敵だったのだろう。
又兵衛「いえ、殿の責任ではございませぬ。こちらをご覧ください。」
配下二人が捧げた鉄砲二丁を、俺と祖父が受け取る。
信輝「これは。」
又兵衛「そうです。火縄銃ですが、大峰銃に似ているかと。」
受け取った銃は、火縄銃であり、前装式であるが、銃身の長さや、銃床を作ってあるところは似ている。ライフリングや雷管はさすがに作れなかったようだ。
又兵衛「下手人が持っていたものです。」
火薬と弾。そういえば備後の傷から弾を切り出したときは必死で見ていなかった。見ると、この時代の早合というもので、うちの薬莢とほとんど同じようなものだ。そして弾の形も円錐型。これは完全に盗まれている。この時代にはこの考え方や技術はないはずだ。いったいどこで誰が。
銃床と円錐型の弾にするだけでもただの火縄銃に比べるとだいぶ命中率は上がるだろ。
又兵衛「殿、こちらを見てください。」
そう言って今度は手裏剣を見せて来た。
俺が触ろうとすると。
又兵衛「触ると危険ですので、見るだけにしてください。毒が塗ってあります。」
危ない。
信輝「この手裏剣で何かわかるのか?」
又兵衛「はい、手裏剣は忍の里によって少しずつ形が違います。また、毒の種類や使い方にも特徴があります。そしてこれは甲賀の者です。」
信輝「甲賀。」
広心「甲賀か。厄介なのを敵に回したようじゃの。」
六角、細川か?なぜ?
広心「うーん、甲賀か…………。」
祖父は何かを考えこんでしまった。
信輝「又兵衛、苦労掛けてすまなかったな。ありがとう。大手柄だ。これで敵のことが少しでもわかった。もう休んでくれ。又右衛門のもとに行ってやってくれ。」
又兵衛「はい…。ありがとうございます。」
又兵衛も黙ってしまった。
甲賀か。やはり六角、細川か?義輝様と戦った山崎の戦いか?あのときの仕返しだろうか?
義輝様とも戦をしているというし、そうかもしれないな。
鉄砲は?甲賀がなぜあの鉄砲を持っている?山崎の戦いでは、父上が助けに来てくださって、全くうちの兵はやられていないから、大峰銃は取られていないはずだ。見ただけで真似できるか?
いや、さすがに無理だろう。そもそも負け戦で敵の武器なんて見ることなどできないだろう。
そういや、毛利も鉄砲で強くなったって采女が言ってたな。ただの火縄銃じゃなくてこの鉄砲だったらどうだ?
かなり強くならないか?さすがに大量にと言ったってただの火縄銃で、史実の何年も前に、大内が滅びて尼子が滅びるか?堺からって言ってたけど、これ堺で作ってるのか?堺は足利領だぞ。義輝様にも結局、鉄砲は献上していない。見せることは見せたが。そっちの線か?それを真似て作って、毛利と甲賀に?
長尾、明智とは全く別か?明智が絡んでくると斉藤もか?そんな繋がるか?
信長包囲網だって、中心となる人物がいた。足利義昭だ。誰かそんな人物はいるのだろうか?
全部、推測の域を出ない。
わかっていることは、甲賀忍者に父上と備後が撃たれたこと。
その甲賀忍者が大峰銃に似た鉄砲を持っていたこと。
六角、細川は山崎の戦いで負けた後、甲賀に逃げ込んだこと。
絵に描いたよう。
関係あるかはわからないが、毛利が堺から鉄砲を大量に買っていること。
それを使って大内、尼子を滅ぼしたこと。
月山富田城攻めで水色桔梗と二頭立波の旗があったこと。
明智光秀はおそらく長尾景虎のもとにいること。
これくらいだ。どれも結論を導く確証とはならない。
もっと探らないとだめだな。
そこまで考えていると今度は采女が来た。
采女「殿、宜しいでしょうか?」
外の方を見ると明るくなり始めている。
信輝「入ってくれ。又兵衛、すまないが、もう少しいてくれ。」
又兵衛「ハッ。」
采女「失礼致します。」
采女「殿、西に動きがありました。美濃の斉藤が信濃の国境に兵を向かわせております。木曽義康殿が迎撃に向かわれております。もうじき木曽殿からの使者も着くでしょう。」
信輝「なんと。斉藤とは争っていたわけではないが。明智の件か?父上が動けないこの時に。狙っていたように感じるのは思いこみか?長尾景虎殿も動くんじゃないか?」
采女の配下が入ってきて、采女に何か報告する。
采女「殿、仰ったように長尾景虎殿動きました。栃尾城を出て、春日山城に向かっているようです。やはり、水色桔梗の旗も見えます。」
繋がってるじゃん。六角、細川、斉藤、長尾、明智。これは繋がっているでしょう。
甲賀者が父上を狙う。命が取れなくても指揮が取れないようにする。
そのタイミングで斉藤が西から、長尾が東から攻めて来る。
南が安全なだけまだよかった。四面楚歌というわけではない。
信輝「又兵衛すまないが、又右衛門の供養をするのは敵を撃退してからだ。采女、軍議を開く。至急、大峰にいる者を政庁に集めてくれ。俺は一度屋敷に帰って着替えてくる。」
采女「ハッ。」
信輝「祖父様もどうかご参加いただけませんか?」
広心「そうじゃな。これはわしも参加しよう。」
信輝「ありがとうございます。では後程。」
そう言って、医者の所へ行き状況を説明し、父上と備後のことは医者に任せ、俺は自分の屋敷に向かった。




